雑歌〈雑四季歌〉下
『玉葉和歌集』一七七首(雑歌一)、『風雅和歌集』二一三首(雑歌上)より。
〈玉葉和歌集〉
春の御歌の中に
一八八七 忘れずよ御階の花の木の間より霞みて更けし雲の上の月(伏見院御製)
訳】春の御歌の中に(あった歌)
一八八七 忘れないよ、(紫宸殿の)階段の(下の)桜(、いわゆる左近の桜)の梢の間から(見た、)霞みながら更けていった禁中の月(を)。
※皇統が対立した時代に、皇位への強い思いを感じさせる一首。
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題しらず
一九五四 秋に添ふ愁へも悲しいつまでと思ふ我が身の夕暮れの空(源具顕)
訳】題しらず
一九五四 (ただでさえ悲しい愁えの)秋にさらに加わる(我が身の)愁えも悲しい。いつまで(の命だろうか)と思う我が身の(果てを思わせる)夕暮れの空(であるよ)。
※自らの寿命の短さを予見していたかのような一首。
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〈風雅和歌集〉
春曙を
一四三二 白みゆく霞の上の横雲に有明細き山の端の空(藤原道良女)
訳】春曙を(歌題として詠んだ歌)
一四三二 (しだいに)白んでいく霞の上にある横雲に、有明の月が細くかかっている、山の稜線辺りの空(であるよ)。
※『枕草子』の冒頭を思わせる一首。
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永仁二年三月、大江貞秀蔵人になりて慶を奏しけるを見て、宗秀がもとにつかはしける
一四六八 珍しき緑の袖も雲の上の花には色添ふ春のひとしほ(京極為兼)
訳】永仁二年三月、大江貞秀(が)蔵人になって慶びを申し上げたのを見て、(その父親である)宗秀の許に申し送りました(歌)
一四六八 新鮮な(六位の蔵人の着る)緑の(衣の)袖も宮中の花には(美しい)色(を)添える(ことだ)春にあたって一段と。
※「緑の袖」「春のひとしほ」といった特異表現を使うことで、新鮮さを演出し、祝意を強調した一首。




