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古文】その心を思ひやりて詠みけるとぞ。/
語釈】
※とぞ=〔文末に用いて、伝聞あるいは不確実な内容であることを表す〕~ということだ。
訳文】その(当事者の)心情を思いやって詠んだということだ。
古文】かやうに向かはぬ人の歌は、さはさは/
語釈】
※向かは(向かふ)=向き合う・相対する・対座する。
※さはさは(さはさはと)=擬態語。①さっぱりと。②すっきりと。③すらすらと。④はっきりと。
訳文】このように(自分自身の心と)向き合わない人の歌は、すっきり
古文】とも、おもしろきやうなるはあれ/
語釈】
※おもしろし=①趣がある・風流だ・素晴らしい。②楽しい・興味深い。③珍しい・風変わりだ。
訳文】していて、楽しい様子ではあるけれ
古文】ど、いかにぞ優の添ひ、勢ひの/
語釈】
※いかにぞ=①〔相手の様子を問う〕どうだ・いかがですか。②〔原因や事情を問う〕どういうわけなのか。どうしてか。
※優(優なり)=①優美だ・優雅だ。②優れているさま・素晴らしい。③趣のあるさま。④殊勝なさま・けなげだ。⑤(歌学用語。歌合の評語の一つ)優美・優艶。
※添ひ(添ふ)=①付け加わる・さらに備わる・増す。②付き添う・付き従う・寄り添う。③結婚する・夫婦になる・男女が連れ添う。
※勢ひ=①気勢・気力・活力。②権勢・権力・財力。③(盛んな)様子・形勢。
訳文】ども、どういうわけか(歌の)優美さがさらに増し、(歌の)形勢が
古文】深きことはなくて、古歌に変はれ/
語釈】
※深き(深し)=①厚みがある・深い・奥まっている。②並大抵でない・甚だしい・著しい。
訳文】並大抵でないということはなくて、(その点が)古歌とは異なって
古文】ることなり。されば紫式部も言へる/
語釈】
※されば=①そうであるから・そうだから・それゆえ・だから。②そもそも・いったい(ぜんたい)。③さて・ところで。
訳文】いることである。そうであるから紫式部も(『紫式部日記』の中で)言っている
古文】やうに、「いでやさまで心は得じ、口にいと歌/
語釈】
※いでや=①〔不満や反発の気持ちを表す〕さてどうかな・いやはや。②〔感慨や詠嘆を表す〕さてさて・いやもう。③〔決意を表す〕どれ・さあ。
※さまで=そうまで・それほどまで。
※心は得=「心得」のこと。①理解する・さとる。②精通する・心得がある。③引き受ける・承知する。
訳文】ように、「いやはやそれほどまでには(歌に)精通していまい、口によってたいそう歌
古文】の詠まるるなめり、恥づかしげの/
語釈】
※恥づかしげ(恥づかしげなり)=①恥ずかしそうだ。②こちらが恥ずかしいと思うほど立派だ・優れている。
訳文】が(自然と)詠み出されるらしい、こちらが恥ずかしいと思うほど立派な
古文】歌詠みやとは見えず。まことの/
語釈】
※歌詠み=歌人。
※や=~だなあ。~よ。
※見ゆ=①見える。②会う。③思われる。考えられる。
訳文】歌人だなあとは思われない。本当の
古文】歌詠みにこそはべらざめれ」など/
語釈】
※歌詠み=歌人。
訳文】歌人ではないのでしょう」などと
古文】言へるにこそ。/
語釈】
訳文】言ったので(あろう)。




