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古文】上陽人になりたる心地して、
語釈】
※上陽人=(唐の高宗が造った宮殿の一つである)上陽宮に幽閉された不幸な宮女。玄宗皇帝の時代に器量の良さから揚貴妃に妬まれて上陽宮に幽閉された。白居易の漢詩「上陽白髪人」で知られる。②転じて、一般に、宮女の不遇をたとえて言う。
訳文】上陽人(と呼ばれた不幸な女性)になった気持ちがして、
古文】泣く/泣くふるさとをも恋しう思ひ、
語釈】
※泣く泣く=泣きながら・泣きたいほどの気持ちで・泣いて泣いて。
訳文】(白居易の漢詩「上陽白髪人」の一節のように)泣きながら故郷を恋しく思い、
古文】雨をも聞き明かし、朝夕に/
語釈】
訳文】雨(音)を聞き(ながら夜を)明かし、朝夕を
古文】つけて耐へ忍ぶべき心地もせざら/
語釈】
訳文】過ごすたびに自然と耐え忍ぶべき気持ちもしなくなっている
古文】むところをも、よくよく成り返りてみて、/
語釈】
※成り返り(成り返る)=なりきる。
訳文】ようなところをも、よくよく(上陽人に)なりきってみて、
古文】その心より詠まん歌こそ、あはれも/
語釈】
訳文】その(なりきった)心から詠むような歌こそ、しみじみとした趣も
古文】深く通り、うち見る、まことにこた/へ
語釈】
※深く(深し)=①厚みがある・深い・奥まっている。②並大抵でない・甚だしい・著しい。
※通り(通る)=①通る・通過する。②貫く・つき抜ける。③すき通る・すける。④うまくいく・達成する。⑤理解する・悟る。
※こたへ(こたふ)=①返答する・受け答えする。②反響する・こだまする。③感応する・信心に神仏などが反応を示す。
訳文】深く(胸を)貫き、(詠んだ歌を)ちらりと見る、(それだけで)真情に感応し
古文】たるところもはべるべけれ」と優に心を委ぬるも/
語釈】
※優に(優なり)=①優美だ・優雅だ。②優れているさま・素晴らしい。③趣のあるさま。④殊勝なさま・けなげだ。⑤(歌学用語。歌合の評語の一つ)優美・優艶。
訳文】たところもあるに違いありますまい」と殊勝に心をゆだねるのも
古文】をかし。されば恋の歌をばひきか/づき
語釈】
※されば=①そうであるから・そうだから・それゆえ・だから。②そもそも・いったい(ぜんたい)。③さて・ところで。
※ひきかづき(ひきかづく)=頭からかぶる。
訳文】趣深い。そうであるから恋の歌を(代詠しようと、夜具か何かを)頭からかぶっ
古文】て、人の心に代はりても、泣く泣く
語釈】
※人=この場合は「依頼人」もしくは「当事者」。
※泣く泣く=泣きながら・泣きたいほどの気持ちで・泣いて泣いて。
訳文】て(引きこもり)、依頼人の気持ちに成り代わるとしても、(さも当事者であるかのように)泣きながら




