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古文】いかにと詠まるべきところより出で来/
語釈】
※いかに=①どう・どのように。②どうして・なぜ。③どれほど・どんなにか。
※出で来=①出て来る・現れる。②生じる・起こる・できる。③やって来る・めぐって来る。④できる。
訳文】どのように詠まれるべきところから(歌が)生じ
古文】たるぞと、源に基づき見ずして、/
語釈】
※ぞ=(疑問の語を伴い文末にある場合)〔問いただす〕~か。
※源=①水源。②起源・根源。
※見(見る)=見て思う・見て判断する・理解する。
訳文】たのかと、(歌の)根源(と言うべき原典である『万葉集』)を拠り所として判断せずに、
古文】山の井と言へばそれに向きて詠める/
語釈】
※向き(向く)=①向かう・(正面が)ある方向に対する。②傾く・心や物事がある状態の方向に進む。③うまく合う・似合う。
訳文】「山の井」と言っているので(単純に)それに心を傾けて詠んでいる
古文】やうに心得て、不審ひらけぬ/
語釈】
※心得=①承知する・了解する・理解する。②ある分野に嗜みを持つ・造詣がある。
※不審=漢語。①納得できないこと。疑点。疑問点。②疑念。③疑問・質問。
※ひらく=①咲く。②始まる・起こる・明ける・興る。③盛んになる・繁栄する。④良い方へ向かう。
訳文】ように理解して(しまうことで)、疑問点(が)良い方へ向かわない
古文】にや。人の妻にて人に見ゆべき/
語釈】
※にや=(文末に用いて疑問の意を表す。「あらむ」や「ありけむ」が省略された形)~であろうか。~であったのだろうか。
※人の妻=元采女の女性を既婚者とする為兼独自の解釈。
※人に=この場合は葛城王に。
※見ゆ=①見える・目に入る。②見られる。③見せる・思わせる。④姿を見せる・現れる・来る。⑤会う・対面する。⑥結婚する・妻になる。⑦思われる・考えられる。
訳文】のではなかろうか。(原典と言うべき『万葉集』の左注に拠るならば、この歌を詠んだとされる采女は)人妻であって他人に姿を見せて当然の
古文】身にもあらねど、設け
語釈】
※設け=①準備・用意。②食事のもてなし・ごちそうの用意。③食べ物。
訳文】身でもないのだけれども、(国司の)もてなし(が)
古文】疎かなるとて咎むれば、男/
語釈】
※疎かなる(疎かなり)=①粗略だ・いい加減だ・おろそかだ。②粗末だ・簡素だ。③よくない・劣っている・つたない。
※咎むれ(咎む)=①非難する・責める。②気にとめる・あやしむ。③問いただす・尋問する。
※男=采女の夫。国司との関係は不明。
訳文】良くないと(葛城王が)責めるので、(夫である)男
古文】の言ふに随ひて、かの大君/
語釈】
※大君=①天皇の敬称。②親王・内親王・王・王女の敬称。③親王と区別して諸王の敬称。この場合は葛城王のこと。
訳文】が言うのに従って、(不機嫌な)かの葛城王(を)
古文】すかさむとて出でたる身なれば、/
語釈】
※すかさ(すかす)=①だます・だまして誘う。②おだてる。③なだめる・なぐさめる。
訳文】なだめようということで(接待のために酒席に)出てきた身であるので、
古文】土器とりても、この人を
語釈】
※土器=①素焼きの陶器。②素焼きの杯。③酒杯のやりとり。酒宴。
※ても=①~ても・~の状態でも。②〔逆接の仮定条件〕たとえ~ても。~たとしても。③〔逆接の確定条件〕~したにもかかわらず。~けれども。
※この人=葛城王のこと。
訳文】(采女自ら)酒杯をとって(酌をして)でも、この(不機嫌になってしまった)葛城王を




