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頁033

古文】 浅くは人を思ふものかは」/

語釈】

※浅香山影さへ見ゆる山の井の浅くは人を思ふものかは=「安積香山 影副所見 山井之 浅心乎 吾念莫国」(安積山の影までも見える(ほど澄んだ)山の井のように浅い心で私は(あなたのことを)思っているのではありませんよ)【万葉集・巻十六・三八〇七番歌】のこと。左注に拠れば、国司の接待に気分を害した葛城王に向けて、采女を勤めたことのある女性がこの歌を詠み、王の機嫌を直したという。『古今和歌集』仮名序では手習い歌の一つとされ、難波津の歌と合わせて「歌の父母」と言われた。

※左注=『万葉集』で、歌の左側に書き足された注釈。三八〇七番歌では「右の歌が伝えて言うことには、葛城王が陸奥国に派遣された時、国司のもてなしのおざなりさが場にそぐわないことはなはだしかったので、(その)時に(葛城)王の心は悦ぶどころか怒りが露わになってしまい、宴席を設けられたと言っても宴を楽しもうとはしなかった。そこで以前采女であった風流な娘がいて、左手に酒杯を捧げ、右手には(山の井から汲んだ)水を持ち、王の膝を叩いてこの歌を詠んだ。それで王の心は(怒りから)解き放たれ、終日(酒を)飲んで楽しんだ」(右歌伝云、葛城王遣于陸奥国之時、国司祗承緩怠異甚、於時王意不悦怒色顕面、雖設飲饌不肯宴楽、於是有前采女風流娘子、左手捧觴右手持水、撃之王膝而詠此歌、尓乃王意解脱楽飲終日)とされている。為兼の論も基本的にはこれを踏まえている。

※ものかは=①〔反語〕~だろうか、いやそうではない。②〔強い感動〕なんと~ではないか。

訳文】 浅くは(あなたという)人を思うだろうか、いや思わない」



古文】といへる歌を言ひ出でて、歌の父母と/

語釈】

※歌の父母と言ふほどの歌=『古今和歌集』仮名序の一節「この二歌(難波津の歌と安積山の歌)は、歌の父母のやうにてぞ手習ふ人の初めにもしける」を踏まえたもの。

訳文】といった歌(のこと)を(話題として)言い出して、(天下の『古今和歌集』で)「歌の親」と



古文】言ふほどの歌、いたづら(ことば)はよもあらじ/

語釈】

※いたづら(ことば)=無用な言葉・役に立たない言葉。

※よもあらじ=まさかあるまい・決してないだろう。

訳文】言うほどの歌(であるから)、無用な言葉はまさかあるまい



古文】と思ふに、「影見ゆる山の井」にて/

語釈】

※山の井=山中に湧き水が溜まって、自然にできた井戸。

※にて=~において・~によって・~で。

訳文】と思うけれども、(「(浅香山の)姿が映る山の天然の井戸」を意味する)「影見ゆる山の井」(という言葉)によって



古文】は心得られはべるを、「さへ」の(ことば)、いかにも/

語釈】

※心得=①理解する・さとる。②精通する・心得がある。③引き受ける・承知する。

※いかにも=①どのようにでも・どうにでも。②〔下に打消の語を伴って〕どんなことがあっても・どうしても・決して。③〔下に願望・意志を表す語を伴って〕どうにか・ぜひとも。

訳文】は(充分に)理解できますのに、(「までも」を意味する)「さえ」という言葉(は)、どうして



古文】言ひをさめたるにか、おぼつかなき/

語釈】

※にか=①〔疑問〕~であろうか。②〔反語〕~であろうか(いや、~ない)。

※おぼつかなき(おぼつかなし)=①ぼんやりしている・様子がはっきりしない・ほのかだ。②気がかりだ・不安だ。③不審だ・疑わしい。④会いたく思っている・待ち遠しい。

訳文】詠み入れたのだろうか、不審である



古文】由、申しけるに、面々才学(さいかく)の人々、/

語釈】

※由=①物に寄せて関係づけるもの。口実。理由。手段。縁。由緒。事情。②教養。風情。③(形式名詞として用いて)~の様子、~ということ、~の趣旨。

※面々=めいめい・各自・おのおの。

才学(さいかく)=漢語。才能と学問・学識(学問上の識見)。

訳文】ということ(を)、申し上げたところ、それぞれ学問の見識のある人々(が)、



古文】「まことにかく言ふ時はおぼつかなし」/

語釈】

※まことに=本当に・まったく。

※時=場合。

※おぼつかなし=①ぼんやりしている・様子がはっきりしない・ほのかだ。②気がかりだ・不安だ。③不審だ・疑わしい。④会いたく思っている・待ち遠しい。

訳文】「本当にこのように言う場合には疑わしい」



古文】にて果てけるも、かの采女(うねめ)、この/

語釈】

※にて=~において・~によって・~で。

※果て(果つ)=①終わる・修了する。②死ぬ・息を引き取る。

※も=①〔逆接の確定条件〕~けれども・~のに・~が。②〔逆接の仮定条件〕~ても・~としても。

※采女=平安時代初頭までの女性の下級官職。天皇・皇后の側近くに仕えて食事の世話などの日常の雑事に携わった。地方の豪族の娘のうち、容姿の美しい者が選ばれた。為兼は「国司の妻」のことを指すと考えた模様。

※かの采女=「安積香山 影副所見 山井之 浅心乎 吾念莫国」(安積山の影までも見える(ほど澄んだ)山の井のように浅い心で私は(あなたのことを)思っているのではありませんよ)【万葉集・巻十六・三八〇七番歌】を詠んだとされる采女。

訳文】(という同意)によって(その日の会が)終わってしまったけれども、かの采女(が)、この



古文】歌を詠める心、何故に起こりて、/

語釈】

訳文】歌を詠んだ心(は)、どのような理由で起こって、

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