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古文】そめにうき世の中を思ひぬるかな」と/
語釈】
※かりそめにうき世の中を思ひぬるかな=「朝露のおくての山田かりそめに憂き世の中を思ひぬるかな」(古今和歌集・紀貫之・哀傷歌・八四二)のこと。「(農夫が)朝露を置く晩稲の山田を刈りはじめているが、(私は喪に服していたことで)かりそめであると苦しみの多いこの世の中のことを思うようになったことだ)」の意。
訳文】そめにうき世の中を思ひぬるかな」と
古文】言はるるに「白露のおくての山/
語釈】
※白露のおくての山田=「朝露のおくての山田かりそめに憂き世の中を思ひぬるかな」(古今和歌集・紀貫之・哀傷歌・八四二)のこと。「(農夫が)朝露のおいた晩稲の山田を刈りはじめているが、(私は喪に服していたことで)かりそめであると苦しみの多いこの世の中のことを思うようになったことだ)」の意。
※山田=山の中にある田、山間の田。
訳文】(古今和歌集に)詠まれたけれども「白露のおくての山
古文】田」とも結び具するは、またそれに/
語釈】
※山田=山の中にある田、山間の田。
※とも=~ということも。
※結び具する=「結び」と「具する」の間に脱文(本来あるべき文句が抜け落ちていること)の可能性の指摘あり。
※具する(具す)=①いっしょに行く・連れ立つ・従う。②連れ添う・縁づく。③備わる・そろう。
※具するは、またそれに=「具するは」と「またそれに」の間に脱文(本来あるべき文句が抜け落ちていること)または錯簡(文章が前後いりまじって乱れていること)の可能性の指摘あり。
※また=①再び・もう一度。②〔多く「…もまた」の形で〕やはり・同じように・同じく。③そのほかに・それとは別に。
※それに=①それなのに・ところが・しかるに。②それによって・それで。③その上に・さらに。
訳文】田」(と詠むことで「白露の置く」と「晩稲の山田」)という言葉も(掛詞によって)結びつけ連れ添わせているが、またそれによって
古文】さること、人の気によりて、昨日は/
語釈】
※さること=①そのようなこと・そういうこと。②その通りのこと・もっともなこと。③言うまでもないこと・もちろんのこと。④たいしたこと。
※人=この場合は「詠み手」のことか。
※気=①(万物を生育させるという)精気。②空気・大気。また、季節・風雨・寒暑などの気配や、雲・霧など。③活力・生気・気力・気勢。④気持ち・気分。⑤心の働き・意識。
訳文】もっともなこと(に)、詠み手の意識によって、昨日は
古文】わろしと言ふこと、今日は良しと言ひ、/
語釈】
訳文】悪いということ(を)、今日は良いと言い、
古文】一人に長く詠むまじき由言ひ/
語釈】
※由=①物に寄せて関係づけるもの。口実。理由。手段。縁。由緒。事情。②教養。風情。③(形式名詞として用いて)~の様子、~ということ、~の趣旨。
訳文】(ある)一人(の詠み手)に(は)長く(考え込んで)詠まない方が良いということ(を)言っ
古文】て、また他人には良しと言ふことも/
語釈】
※また=①再び・もう一度。②〔多く「…もまた」の形で〕やはり・同じように・同じく。③そのほかに・それとは別に。
訳文】て、それとは別に他の詠み手には(長く考え込んでも)良いと言うことも
古文】あり。京極中納言入道新作して、/
語釈】
※京極中納言入道=平安時代末から鎌倉時代初頭にかけての公家で歌人、藤原定家のこと。藤原俊成の子。筆者である為兼の曽祖父。八番目の勅撰和歌集である『新古今和歌集』の選者であり、百人一首97番歌「来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ」でも知られる。邸宅が京極殿と呼ばれたことから京極殿または京極中納言と呼ばれた。
訳文】ある。京極中納言入道(と呼ばれた藤原定家卿が)新たに(歌を)詠んだものの、
古文】和歌所にて今はとどめらる/
語釈】
※和歌所=平安時代以降、勅撰和歌集の編集のために宮中に臨時に置かれた役所。
※今は=①もはや、今となっては。もうこうなっては。②もはやこれまで。
※とどめ(とどむ)=やめる。
訳文】和歌所では今となっては(使用を)おやめになる
古文】べき由、沙汰ありし言葉ど/も
語釈】
※由=①物に寄せて関係づけるもの。口実。理由。手段。縁。由緒。事情。②教養。風情。③(形式名詞として用いて)~の様子、~ということ、~の趣旨。
※沙汰=①配慮のうえ処理すること。②支度。準備万端にすること。③指図。通達。④裁判。訴訟。⑤論議。問題として取り立てること。⑥うわさ。評判。⑦ことばによる意思表示。⑧~の事件。~のいきさつ。
訳文】べきであるということ(を)、指図(の)あった言葉など




