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本文】題に出だし、京極中納言入道も
語釈】
※題に出だし=貫之が雀題を出したことがあるかどうかは未詳。
※京極中納言入道=平安時代末から鎌倉時代初頭にかけての公家で歌人、藤原定家のこと。藤原俊成の子。筆者である為兼の曽祖父。八番目の勅撰和歌集である『新古今和歌集』の選者であり、百人一首97番歌「来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ」でも知られる。邸宅が京極殿と呼ばれたことから京極殿または京極中納言と呼ばれた。
※京極中納言入道も詠めり=「鳴子引く田のもの風になびきつつなみよる暮れのむら雀かな」(拾遺愚草・七五六。建長二年冬左大将家十題百首・鳥十首のうち第六)のこと。
※拾遺愚草=藤原定家の自撰による私家集の名。全三巻。
訳文】歌題として出し、京極中納言入道(と呼ばれた藤原定家卿)も(歌に)
本文】詠めり。鴬にも古巣とも詠む、
語釈】
※京極中納言入道も詠めり=「鳴子引く田のもの風になびきつつなみよる暮れのむら雀かな」(拾遺愚草・上)のこと。
※鴬にも古巣とも詠む=「鶯の去年の宿りの古巣とや我には人のつれなかるらむ」(古今集・詠み人知らず・1046)のこと。
訳文】(「鳴子引く田のもの風になびきつつなみよる暮れのむら雀かな」と)詠んでいる。鴬(の歌)にも(「鶯の去年の宿りの古巣とや我には人のつれなかるらむ」のように)「古巣」とも詠む(例があるのだから)、
本文】何か苦しからむ、この拾遺、
語釈】
※何か=〔疑問・反語の意を表す〕どうして~か・どうして~か、いや、~ない。
※苦しから(苦し)=〔下に打消・反語を伴って〕不都合だ・差しさわりがある。
※拾遺=侍従の唐風の呼び名。実任のこと。
訳文】(燕が巣に通うと詠むことに)どうして差し障りがあろうか(いやない)。この侍従(であった三条実任は)、
本文】この風体の御沙汰を委しく承りて詠む
語釈】
※風体=①外見・姿・身なり。②(能や和歌などの)表現様式・詠風・歌風・芸風。
※御沙汰=新風を求める東宮歌壇の意欲的な活動。
※承る=お聞きする。
訳文】このような(二条派の)歌風で、新風を求める東宮歌壇の意欲的な活動を詳しくお聞きして詠む(という歌風)
本文】にもあらねば、いかにもあれなれ
語釈】
※いかにもあれ=〔結果を考えない意を表す〕どうであっても。どうなろうとも。
訳文】でもないので、どうなろうとも良いけれ
本文】ど、かやうのたぐひ多し。ただ明恵
語釈】
※明恵上人=鎌倉時代前期の華厳宗の僧で歌人。京都栂尾に高山寺を開き、栂尾の茶栽培の基礎を築いたことでも知られる。華厳宗中興の祖とされる。
訳文】ども、このような(無駄な添削が話題になる)例(は)多い。ただ明恵
本文】上人の『遣心和歌集』序に書かれ
語釈】
※明恵上人=鎌倉時代前期の華厳宗の僧で歌人。京都栂尾に高山寺を開き、栂尾の茶栽培の基礎を築いたことでも知られる。華厳宗中興の祖とされる。
※遣心和歌集=明恵自撰の和歌集。序は現存しない。
訳文】上人が(自ら撰んだ)『遣心和歌集』(の)序文にお書きになって
本文】たるやうに、「すくは心のすくなり、
語釈】
訳文】いるように、「(歌が)風流であるのは(詠み手の)心が風流なのである、
本文】いまだ必ずしも詞によらじ。やさ/しき
語釈】
※いまだ=①〔下に打消の語を伴って〕まだ。②まだ・今でも。
※必ずしも=「必ず」に同じ。①きっと・確かに・きまって。②〔下に打消・反語の表現を伴って〕必ずしも。
※やさしき(やさし)=優美だ・上品だ。
訳文】(『万葉集』の時代から)今でもまだ必ずしも言葉(の風流さ)に拠りはしまい。(歌が)優美なの
本文】は心やさしきなり。なんぞ
語釈】
※なんぞ=〔疑問・反語の意を表す〕どうして~か・どうして~か、いや、~ない。
訳文】は(詠み手の)心が優美なのである。どうして




