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古文】めて事を言ひ添へぬ。またあらぬ句を/
語釈】
※また=①再び・もう一度。②〔多く「…もまた」の形で〕やはり・同じように・同じく。③そのほかに・それとは別に。
※あらぬ=①ほかの・別の。②意外な・思いもかけない。③いやな・不都合な・望ましくない。
訳文】て(不要な)ことを言い添えてしまう。それとは別に思いもかけない句を
古文】とりかへ、様々のことを作り出でて、/
語釈】
※作り出で(作り出づ)=「作り出だす」に同じ。新しくこしらえ上げる・製作する。
訳文】取り替え、様々のことを新しくこしらえ上げて、
古文】披露するたぐひ聞こゆる。実任
語釈】
※たぐひ=①仲間・連れ。②人々。③例・同類。
※聞こゆる(聞こゆ)=①聞こえる。②噂される・評判になる。③理解できる・訳が分かる。④受け取られる・思われる。
※実任侍従=鎌倉時代後期の公家で二条派歌人、正親町三条実任のこと。正親町三条公種の子。日記『継塵記』で知られる。初名は実名(読み方不明。「さねな」か)。その後実任に改名したことから、『為兼卿和歌抄』は実任改名後の侍従在職期間に書かれたと考えられている。
訳文】披露する例(を)耳にする。(三条)実任
古文】侍/従が歌に/
語釈】
※侍従=①天皇に近侍し、補佐および雑務に奉仕する官。中務省に属す。②香の名。種々の香を練り合わせて作る。
※実任侍従=鎌倉時代後期の公家で歌人、正親町三条実任のこと。正親町三条公種の子。日記『継塵記』で知られる。二条派歌人で特に為世。為藤と親しく、門弟であったらしい。初名は実名(読み方不明。「さねな」か)。その後実任に改名したことから、『為兼卿和歌抄』は実任改名後の侍従在職期間に書かれたと考えられている。
訳文】侍従の歌で、
古文】「軒の雀の巣に通ふ声」と/
語釈】
※軒の雀の巣に通ふ声=出典・上の句ともに未詳。
訳文】「軒の雀の巣に通う声よ」と/
古文】詠みたりけるとかや。これをも当/時
語釈】
※とかや=①不確かな伝聞の意。~とか。~とかいうことだ。②詠嘆の意。~であるよ。③遠回しにさし示す意。~のあたり。~など。~という人。
※当時=①現在・当今・ただ今。②そのとき・そのころ。
訳文】詠んだとかいうことだ。この歌をも当代
古文】の体に賞翫せらるる歌とて、「なげしの/
語釈】
※体=歌体。和歌の姿や風体。
※賞翫せ(賞翫す)=①めでもてはやすこと。愛好、珍重すること。②重んずること。尊重すること。③味わい楽しむこと。賞味すること。
※なげし=柱の側面に取り付けて、柱と柱との間を横につなぐ材。
訳文】の和歌の姿として愛でもてはやされる歌としようとして、「なげしの
古文】上に雀巣くへり」とかやなして/
語釈】
※巣くへ(巣くふ)=
※とかや=①不確かな伝聞の意。~とか。~とかいうことだ。②詠嘆の意。~であるよ。③遠回しにさし示す意。~のあたり。~など。~という人。
訳文】上に雀(が)巣食っている」などと(軒をなげしに)改変して
古文】披露する人ある由、聞こゆ。返す返す/
語釈】
※披露する人=実任を門弟としていた為世を指すか。
※由=①物に寄せて関係づけるもの。口実。理由。手段。縁。由緒。事情。②教養。風情。③(形式名詞として用いて)~の様子、~ということ、~の趣旨。
※聞こゆ=①聞こえる。②噂される・評判になる。③理解できる・訳が分かる。④受け取られる・思われる。
※返す返す=①繰り返し繰り返し・何度も。②重ね重ね・どう考えても・よくよく。
訳文】披露する人があるということを耳にする。(そういう改変は)どう考えても
古文】その詮なきに似たるか。大方は、雀、貫之も/
語釈】
※その=その・前述の。
※詮=①結局・究極。②要点・眼目。③なすべき方法・手段。④効果・かい・しるし。
※詮なき(詮なし)=しかたがない。無益だ。
※似る=物の形や性質が同じように見える。
※大方=①通りいっぺんに。②大雑把に言って・だいたい。③そもそも・だいたい。
※貫之=平安時代前期から中期にかけての公家で歌人、紀貫之のこと。従兄に紀友則がいる。わが国最初の勅撰和歌集である『古今和歌集』の選者の一人であり、ひらがなの序文である仮名序を手掛けたことで名高い。日記体の紀行文である『土佐日記』や百人一35番歌「人はいさ心もしらずふるさとは花ぞむかしのかににほひける」でも知られる。
訳文】前述の(先人が選ばない言葉をわざと選ぶような)無益さと同じように見えるのではないか。そもそもは、雀(は)、(『古今和歌集』の仮名序で知られる紀)貫之卿も




