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古文】百首十首の中にもそればかり/
語釈】
※ばかり=①(範囲・程度を表す)~ほど・~ぐらい。②(限定を表す)~だけ。
訳文】百首や十首の中でもそれだけ
古文】を覚え、心に合はぬ歌をば、古人の/
語釈】
※古人=昔の優れた歌人。
訳文】を(評価して)覚え、(自分の)心に合わない歌を、昔の優れた歌人の
古文】歌なればそしりはせねど見捨て/
語釈】
※そしり(そしる)=悪く言う・非難する・けなす。
訳文】歌であるから悪くは言わないけれども見捨て
古文】て、「その人の歌の体はかくこそあれ」と/
語釈】
※歌の体=歌体。和歌の姿や風体。
訳文】て、「その人の和歌の姿はこうでこそある」と
古文】ばかり言ふも、皆その程見ゆること/
語釈】
※ばかり=①(範囲・程度を表す)~ほど・~ぐらい。②(限定を表す)~だけ。
※皆=①〔名詞〕全部・すべて。②〔副詞〕すっかり・全く。
訳文】だけ言うのも、すっかりその(定家の思考の)様子が見えること
古文】なり。されば右府将軍は「山は裂け/
語釈】
※右府将軍=鎌倉時代前期の鎌倉幕府第3代征夷大将軍で歌人、源実朝のこと。源頼朝の次男。歌集『金槐和歌集』、百人一首93番歌「世の中は常にもがもな 渚漕ぐ海人の小舟の綱手かなしも」でも知られる。鎌倉右大臣とも呼ばれた。
※山は裂け海は浅せなむ=「山は裂け海は浅せなむ世なりとも君にふた心わがあらめやも」(金槐和歌集・680。新勅撰和歌集・1204)のこと。
訳文】である。そうであるから右府将軍(と呼ばれた鎌倉幕府三代将軍で右大臣の源実朝公)は(奇抜な仮定を詠み込んだ)「山は裂け
古文】海は浅せなむ」とも「市に立つ民/
語釈】
※山は裂け海は浅せなむ=「山は裂け海は浅せなむ世なりとも君にふた心わがあらめやも」(金槐和歌集・680。新勅撰和歌集・1204)のこと。
※浅せ(浅す)=①(海・川・池などが)浅くなる・干上がる。②(色が)さめる・あせる。③(勢いが)衰える。
※市に立つ民=市に現れる人波が絶えない意。
※市に立つ民も我が思ふ人をうると聞かなくに=出典不明。あるいは「恋をのみ飾磨の市に立つ民の絶えぬ思ひに身をや替へてむ」(藤原俊成・千載集・857)の本歌取りか。
訳文】海は干上がってしまうような」とも(「得る」と「売る」という同音かつ反意の掛詞を使った)「市に現れる絶えることのない民衆
古文】も我が思ふ人をうると聞かなく/
語釈】
※市に立つ民も我が思ふ人をうると聞かなくに=出典不明。
訳文】も自分の思う人を売って得るとは聞かない
古文】に」など風情の歌も多くこそはべれ。/
語釈】
※市に立つ民も我が思ふ人をうると聞かなくに=出典不明。あるいは「恋をのみ飾磨の市に立つ民の絶えぬ思ひに身をや替へてむ」(藤原俊成・千載集・857)の本歌取りか。
※風情=①風流な趣・情趣・風雅。②ようす・ありさま・気配。
訳文】ことだなあ」など(独特の)風流な趣の歌も多くあるのです。
古文】入道民部卿も、/
語釈】
※入道民部卿=鎌倉時代初頭から中期にかけての公家で歌人、藤原為家のこと。藤原定家の嫡男。筆者である為兼の祖父。十番目の勅撰和歌集である『続後撰和歌集』の選者であり、十一番目の勅撰和歌集である『続古今和歌集』の選者にも選ばれたが、不仲により途中で長男の為氏に譲っている。中院禅師、冷泉禅門または民部卿入道などと呼ばれた。
訳文】入道民部卿(と呼ばれた祖父・藤原為家卿)も、




