頁020
古文】新古今にもかやうの沙汰まで出で/来
語釈】
※沙汰=①配慮のうえ処理すること。②支度。準備万端にすること。③指図。通達。④裁判。訴訟。⑤論議。問題として取り立てること。⑥うわさ。評判。⑦ことばによる意思表示。⑧~の事件。~のいきさつ。
訳文】『新古今和歌集』(編纂の時)にもこのような論議まで出てき
古文】たるしるしに、古人の歌ならで、/
語釈】
※しるし=証拠。
※古人=昔の優れた歌人。
※ならで=~でなくて。~以外に。
訳文】てしまった証拠に、昔の優れた歌人の歌ではなくて、
古文】当世の人の中に詠みたりとも、
語釈】
※当世=①今の世・現代。②「当世風」の略・現代風。
訳文】今の世の(歌)人の中で(こうした語彙を)詠んでしまったとしても、
古文】よ/からむをば、わざと入るるべき由、
語釈】
※わざと=わざわざ。
※由=①物に寄せて関係づけるもの。口実。理由。手段。縁。由緒。事情。②教養。風情。③(形式名詞として用いて)~の様子、~ということ、~の趣旨。
訳文】良さそうな(歌)を、わざわざ入集するべきであるということ(を)、
古文】仰せ下されて、あまた入るうち、家隆卿、/
語釈】
※仰せ下さ(仰せ下す)=「言ひ下す」の尊敬語。お言いつけになる・命令をお下しになる。
※家隆卿=鎌倉時代初期の公家で歌人、藤原家隆のこと。中納言・藤原兼輔の末裔。八番目の勅撰和歌集である『新古今和歌集』の選者であり、六歌集の一である『壬二集』や、百人一首97番歌「風そよぐ楢の小川の夕暮は御禊ぞ夏のしるしなりける」でも知られる。
訳文】(後鳥羽院が)お命じになって、たくさん(そういう歌が)入集する中で、家隆卿(の)、
古文】「逢ふと見てことぞともなく明けにけり/
語釈】
※逢ふと見てことぞともなく明けにけりはかなの夢の忘れ形見や=「逢ふと見てことぞともなく明けぬなりはかなの夢の忘れがたみや」【新古今和歌集・巻十五・恋五・一三八七番歌】のこと。「逢えたと思ったら何事もなく夜が明けてしまったことだ。はかない夢の忘れがたい形見であることよ」の意。「秋の夜も名のみなりけり逢ふといへばことぞともなく明けぬるものを」【古今和歌集・小野小町・巻十三・六三五番歌】を本歌取りして詠んだもの。
訳文】「逢えたと思ったら何事もなく夜が明けてしまったことだ。
古文】 はかなの夢の忘れがたみや」/
語釈】
※逢ふと見てことぞともなく明けにけりはかなの夢の忘れ形見や=「逢ふと見てことぞともなく明けぬなりはかなの夢の忘れがたみや」【新古今和歌集・巻十五・恋五・一三八七番歌】のこと。「逢えたと思ったら何事もなく夜が明けてしまったことだ。はかない夢の忘れがたい形見であることよ」の意。「秋の夜も名のみなりけり逢ふといへばことぞともなく明けぬるものを」【古今和歌集・小野小町・巻十三・六三五番歌】を本歌取りして詠んだもの。
※忘れがたみ=「忘れ形見」と「忘れ難み」の掛詞。
訳文】はかない夢の忘れがたい形見であることよ」
古文】「なし」といふこと二所あれど、載せらる。/
語釈】
※ところ=(全体の中の)ある部分・箇所・点。
訳文】(と、)「なし」という(否定の)言葉(が)二か所(に)あるけれども、(『新古今和歌集』には)掲載されている。
古文】京極中納言入道の歌にも、この姿も/
語釈】
※京極中納言入道=平安時代末から鎌倉時代初頭にかけての公家で歌人、藤原定家のこと。藤原俊成の子。筆者である為兼の曽祖父。八番目の勅撰和歌集である『新古今和歌集』の選者であり、百人一首97番歌「来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ」でも知られる。邸宅が京極殿と呼ばれたことから京極殿または京極中納言と呼ばれた。
※姿=(和歌や俳諧などで)表現の仕方。
訳文】京極中納言入道(と呼ばれた定家卿)の歌にも、この(家隆卿の歌のような議論の対象になりそうな)表現の仕方も
古文】同じことに詠めれど、我が心に合ふ歌をば、/
語釈】
※こと=和歌。
訳文】同じ(ような)和歌を詠んでいるけれども、自分の心に合う歌を、




