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古文】なほ春と思はばや」とも「榾さし合は/せ
語釈】
※暦を巻き返してなほ春と思はばや=「今日くれぬ夏の暦を巻き返しなほ春ぞとも思ひなさばや」(俊成五社百首・伊勢・20)のこと。
※榾さし合はせて=「山賤の榾さしあはせ埋む火のあるともなくて世をも経るかな」(長秋詠藻・170)のこと。
※榾=焚き物にする、木の切れはし。
訳文】なほ春と思はばや」とも「榾さし合はせ
古文】て」などのたぐひ多し。同じこと
語釈】
※榾さし合はせて=「山賤の榾さしあはせ埋む火のあるともなくて世をも経るかな」(長秋詠藻・170)のこと。
※たぐひ=①仲間・連れ。②人々。③例・同類。
※同じこと=ここでは「同じ言葉」のこと。
訳文】て」などの(ように先人が使わなかった言葉を新たに使っている)例(も)多い。(一首の中に)同じ言葉(を)
古文】再びあるも、人によりて晴の/
語釈】
※晴=①空が晴れること。②広々としていて、心がはればれするような所。③表向き。正式。公(「褻」に対していう語)。
訳文】二度(使うことが)あるのも、人によって(は)正式な
古文】歌合にも難ぜず。慈鎮和尚の、百/首
語釈】
※歌合=歌人を左右二組に分けた団体戦の形式で、一戦(=一番)ごとに審判(=判者)が提出された歌の優劣を判定することで、左右の勝敗を競う遊び。平安時代以降に宮廷や貴族の間で流行した。
※難ぜ(難ず)=非難する。とがめる。そしる。
訳文】歌合でも非難しない。慈鎮和尚(と呼ばれた慈円)が、百首(が)
古文】ながら勅撰に入る程の歌を読み/
語釈】
※ながら=そっくりそのまま・そのまま全部。
訳文】そっくりそのまま勅撰集に入集するほどの(出来の)歌を詠ん
古文】て日吉社に籠めんとて詠まれたる/
語釈】
※日吉社=日吉大社。比叡山の地主神。
※籠め(籠む)=中に入れる・とじこめる。
訳文】で日吉大社に納めようということで詠まれた
古文】にも、初五字に「参る人の」とも「埒/
語釈】
※にも=~の場合も・~の時も。
※参る人の=「参る人の丸寝の跡をのこす霜は神の心に朱の玉垣」(拾玉集・2092=3469)のこと。
※埒の外なる人の心=「神よいかに憂しや北野の馬場結ふ埒の外なる人の心は」(拾玉集・2068=3463)のこと。
訳文】時も、初句の五文字に(先人が歌に用いたことのない言葉である「参る」を用いて)「参る人の」とも(漢語由来の言葉である「埒」を用いて)「埒
古文】の外なる人の心」とも詠まれ/
語釈】
※埒の外なる人の心=「神よいかにうしや北野の馬場ゆふらちの外なる人の心は」(拾玉集・2068、3463)のこと。
訳文】の外なる人の心は」とも詠まれ
古文】たる、風情のみにてあれど、後鳥羽/院
語釈】
※風情=①風流な趣・情趣・風雅。②ようす・ありさま・気配。
※後鳥羽院=第八二代天皇。八番目の勅撰和歌集である『新古今和歌集』を編纂させた。討幕を目論んで承久の乱(一二二一年)を起こし、隠岐に流された。
訳文】ている、(他人が詠まないような歌の)ありさまばかりではあるけれども、後鳥羽院(が)
古文】皆御合点ありて、をさまれり。/
語釈】
※合点=①文書・回状などに、それを承知した印として自分の名の肩に点やかぎ印を付けること。また、和歌・連歌・俳諧などを批評するときに、よしとするものに点やかぎ印を付けること。②納得・承知すること。「がてん」とも。
訳文】すべて(に)良しの印をお付けになって、(慈円の私家集である『拾玉集』に)収まっている。




