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古文】万葉のころは、心の起こるところのままに、/
語釈】
※万葉=現存するわが国最古の和歌集である『万葉集』のこと。
※ころ=時分・ころ・おおよその時をいう語。
※起こる=新たに生ずる・始まる。
※ままに=①~につれて。②~にまかせて・~ままに。③~のとおりに。④~とすぐに・~やいなや。⑤~ので・~によって。
訳文】『万葉集』の時代は、(歌を詠むのに不可欠な歌を詠もうという)心が生じるところにまかせて、
古文】同じこと再び言はるるをも
語釈】
※同じこと=この場合は「同じ言葉」「同じ語」の意。
訳文】同じ言葉(が一首のうちに)二度言われる(こと)をも
古文】憚らず、褻晴もなく、歌の詞、ただの/
語釈】
※憚ら(憚る)=遠慮する・気がねする・嫌がる。
※褻晴=褻のときと晴のときの意。平常のときと儀式ばったとき。公私。
※歌の詞、ただの言葉とも言はず=歌語と口語とで区別せず。
訳文】嫌がらず、(歌に)公私(の区別)もなく、歌語(か)、(歌語ではない)ただの
古文】言葉とも言はず、心の起こるに/
語釈】
※歌の詞、ただの言葉とも言はず=歌語と口語とで区別せず。
※とも=~ということも。
※起こる=新たに生ずる・始まる。
訳文】言葉(か)と(区別すること)も言うことなく、(歌を詠むのに不可欠な歌を詠もうという)心が生じるに
古文】随ひて、欲しきままに言ひ出だせり。心の
語釈】
※欲しき(欲し)=①得たい。欲しい。②そうありたいと思う。願わしい。
※ままに=①~につれて。②~にまかせて・~ままに。③~のとおりに。④~とすぐに・~やいなや。⑤~ので・~によって。
※言ひ出だせ(言ひ出だす)=①内から外にいる人に向かって言う。②口に出して言う。③言い始める。
訳文】随って、思いにまかせて(歌として)口に出して言っていた。(だから万葉集の時代の歌人は)心の
古文】自/性を使ひ、内に動く心を外に/
語釈】
※自性=仏語。そのものが本来備えている真の性質・本性。
訳文】本性を使い、(胸の)内に揺れ動く心を(歌として)外に
古文】あらはすに巧みにして、心も/
語釈】
訳文】表現するのに巧みで、(歌の)趣向も
古文】詞も体も性も優も勢ひ/
語釈】
※心=趣向。
※体=ありさま・姿・様式。「てい」とも。
※勢ひ=京極派では重要視されていたと考えられる。
訳文】(歌の)言葉も(歌の)様式も(歌の)本性も(歌の)優美さも(歌の)勢い
古文】も、おしなべて作者の□□□□□、かれもこれもすべてあらぬことなる故/
語釈】
※おしなべて=一様に・すべて・みな同じく。
※□□□□□=虫損のため不明。『歌論歌学集成10』の小川剛生氏は「作者自身の感動に由来するものなので、という論旨か」と推測している。
※かれ=遠称の指示代名詞。あれ・あのもの。
※あらぬ=①ほかの・別の。②意外な・思いもかけない。③いやな・不都合な・望ましくない。
※ことなる(ことなり)=①違っている・変わっている・別だ。②特にすぐれている・特別だ・格別だ。
訳文】も、一様に作者の□□□□□、あれもこれもすべて(万葉時代と現代とでは)別のことであるから、
古文】に、高くも深くも重くもあるなり。/
語釈】
※高く(高し)=高尚である。
※深く(深し)=①厚みがある・深い・奥まっている。②並大抵でない・甚だしい・著しい。
※重く(重し)=重々しい。
訳文】(万葉時代の歌は)高尚でも(あり)深みも(あり)重々しくもあるのである。




