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古文】作り、寛平の御時、孫姫・喜撰
語釈】
※寛平=宇多天皇の治世であった年号。寛平年間(889~898年)のこと。為兼はしばしば寛平以前の歌の体が歌の理想と説いた。
※御時=天皇の治世の尊敬語。御代・ご治世。
※寛平の御時=宇多天皇の御代、ご治世。
※孫姫=詳細不明。和歌四式の一つである『孫姫式』を著したとされる。
※喜撰=平安時代前期の歌人で六歌仙の一人である喜撰法師のこと。和歌四式の一つである『喜撰式』を著わしたとされる。
訳文】作り、宇多天皇のご治世(である寛平年間には)、孫姫・喜撰法師(までもが)
古文】重ねて式を作り、歌の病を定/
語釈】
※重ね(重ぬ)=積み加える・重ねる・繰り返す。
※式=一定のやり方・とりきめ・作法。
※病=①病気。②欠点・短所・(詩歌・文章を作る上での)修辞上の欠陥。③苦・苦労の種・気がかり。
訳文】(それぞれ『孫姫式』『喜撰式』という形で)積み重ねて(和歌の)作法を作り、歌の修辞上の欠陥を定
古文】め、同じこと再びは詠むまじき/
語釈】
※同じこと=この場合は「同じ言葉」「同じ語」の意。
※まじき(まじ)=(不適当な事態を言う意)~てはならない。~ないほうがよい。
訳文】め、同じ言葉(を一首のうちに)二度は詠んではならない
古文】ことになり、心も起こらぬ輩も、題と/
語釈】
※起こら(起こる)=新たに生ずる・始まる。
※輩=①同類・仲間。②連中・やから。
※題=この場合は「題詠」のこと。決められた題に従って和歌を詠むこと。前もって題を示しておく「兼題」と、その場で題を示す「即題」とがある。『万葉集』の宴席歌にも既に見られたが、平安時代になると、歌合わせ・歌会の流行とともに盛んになり、贈答歌を除けば題詠が一般的となった。
訳文】ことになり、(歌を詠むのに不可欠な歌を詠もうという)心(さえ)も生じない連中(であって)も、題詠と
古文】いふこと盛りになりて、折句・沓冠な/ど
語釈】
※折句=和歌の技法の一。各句の頭に物の名などを一字ずつ置いて詠んだもの。『伊勢物語』の、「かきつばた」を詠みこんだ「からころも きつつなれにし つましあれば はるばる来ぬる たびをしぞ思ふ」が名高い。
※沓冠=和歌の技法の一。ある語を、各句の初めと終わりに、一音ずつ計十音を詠み込んだもの。『栄花物語』の、「あはせたきものすこし」を詠み込んだ「あふさかも はてはゆききの せきもゐず たづねてとひこ きなばかへさじ」が最初の例歌として名高い。
訳文】いう詠み方が盛んに行なわれて、折句・沓冠など(の和歌技法)
古文】までも人の能にして詠む/
語釈】
※能=①才能・能力。②技芸・芸能。
訳文】までも(その)人の才能(ということ)にして詠む(という)
古文】姿の、寛平より盛りになれり。/
語釈】
※姿=表現の仕方。
※寛平=宇多天皇の治世であった年号。寛平年間(889~898年)のこと。為兼はしばしば寛平以前の歌の体が歌の理想と説いた。
訳文】表現の仕方が、寛平年間から盛んになってしまった。
古文】これを腐して寛平以往とは/
語釈】
※これ=心がなくても題詠や和歌技法によって歌が詠めてしまうという現状。
※腐して=非難して・けなして。
※寛平=宇多天皇の治世であった年号。寛平年間(889~898年)のこと。為兼はしばしば寛平以前の歌の体が歌の理想と説いた。
※以往=①〔以往〕その時からのち・以後・以降。②〔已往〕それより前・以前・往時。【本来、「以往」はある時以後、「已往」はある時以前の意であるが、混用されている。】。
訳文】これを非難して、(定家卿が、宇多天皇のご治世であった)寛平年間以前(を手本に)とは
古文】言ふなり。古今にも仮名・真名序とも/
語釈】
※古今=『古今和歌集』のこと。
※仮名=仮名序の略。紀貫之が書いた『古今和歌集』の仮名序のこと。歌論としても名高い。
※真名序=紀淑望が書いた『古今和歌集』の漢文の序文。
訳文】言うのである。『古今和歌集』でも、仮名序・真名序とも
古文】に歌やうやう下れることを言へり。/
語釈】
※やうやう=だんだん。
※下れ(下る)=(身分・品性・才能が)低くなる・劣る・落ちぶれる。
訳文】に歌(が時代が下るにつれて)劣化していっていることを述べている。




