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古文】べし。下様の好事の中に、不審/
語釈】
※下様=身分の低い階層。
※好事=好士に同じ。地下の好士とも。和歌を趣味として楽しむアマチュア歌人のこと。二条良基『筑波問答』より。為兼のようないわゆる「歌道家(要はプロ歌人)」と比較する場合には否定的なニュアンスで用いられた。
※不審=漢語。①納得できないこと。疑点。疑問点。②疑念。③疑問・質問。
訳文】に違いない。身分の低い階層のアマチュア歌人の中に、疑問点
古文】を出だし、才学をたつる人も、/
語釈】
※出だし(出だす)=①(外へ)出す。②行かせる。③提出する。差し出す。④引き起こす。⑤口に出す。言う。歌う。⑥出す。表す。
※才学=漢語。才能と学識。持って生まれた才知と学んで得た知識。ことに漢学の知識を指す。中世以降は「才覚(=学問的な才能や知識を身につけていること。また、その才知。和歌や連歌の詠作に関する歌学的知識を言うことが多い)」と混同された。「さいがく」とも。①学才。学識。②知恵。機知。③工面。
※たつる=①事物を上方や前方に向かって動かす。②ある場所に位置を占めさせ、縦方向に立たせる。③移動させる。④目立たさせ、はっきりさせる。⑤継続し、押し通す。
訳文】を口に出し、学識を目立たさせる人であっても、
古文】「ひさかたの空」とは何とて言ふぞ、「あら/かね
語釈】
※ひさかたの=天空に関係のある「天(あま・あめ)」「雨」「空」「月」「日」「昼」「雲」「光」などや、「都」にかかる枕詞。語義・かかる理由未詳。
※何とて=どうして。なぜ。
※ぞ=(疑問の語を伴い文末にある場合)〔問いただす〕~か。
※あらかねの=「あらかね」を槌で鍛えることから「つち(土・地)」にかかる枕詞。
訳文】「ひさかたの空」とはどうして(そのように)言うのか、「あらかね
古文】の土」とはいかなる心に言ひ/初め
語釈】
※いかなる心=どのような気持ち。
※言ひ初め(言ひ初む)=①言い出す。②初めて話をする。
訳文】の土」とはどのような気持ちで言い出し
古文】たるぞ、など言ふことをのみ問ひたる/
語釈】
※ぞ=(疑問の語を伴い文末にある場合)〔問いただす〕~か。
※のみ=だけ。ばかり。すっかりずっと。
訳文】たのか、などという(些細な)ことばかりを質問している
古文】を、いみじきこととせり。これもまことに/
語釈】
※いみじき(いみじ)=①はなはだしい・並々でない。②よい・素晴らしい。③ひどい・恐ろしい。
※まことに=本当に・まったく。
訳文】のを、素晴らしいことと(勘違い)している。これも本当に
古文】あるべきことなれど、かやうのこと/
語釈】
※あるべき=①適当な・それ相応の。②することになっている・当然しなければならない。
訳文】すべき質問ではあるけれども、このような質問
古文】はたださと知るばかりにて、大き/なる
語釈】
※さ=そう。そのように。
※ばかり=①(範囲・程度を表す)~ほど・~ぐらい。②(限定を表す)~だけ。
※大きなる=①大きい・心が広い。②程度が甚だしい・ひどい。
訳文】はただそうと知るだけであって、(わざわざ質問するほどの)大きな
古文】得分なし。歌はいかなるものぞ、/
語釈】
※得分=①儲け・利益。②ある人がもらう分・取り分・分け前。③中世、荘園の領主・荘官・地頭などが、所領から年貢として得た収益。
※いかなるもの=どのようなもの。
※ぞ=(疑問の語を伴い文末にある場合)〔問いただす〕~か。
訳文】利益はない。歌とはどのようなものか、
古文】いかにと向きて、いかにと詠むべきぞ、/
語釈】
※いかに=①どう・どのように。②どうして・なぜ。③どれほど・どんなにか。
※向きて=①向かって・(正面が)ある方向に対して。②傾いて・心や物事がある状態の方向に進んで。
※ぞ=(疑問の語を伴い文末にある場合)〔問いただす〕~か。
訳文】どのように(心が)傾いて、どのように詠むのが良いのか、




