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古文】嗜むとや聞こえざりけるも、/
語釈】
※古人のさほど嗜むとや聞こえざりける=同格の「の」。「古人で、さほど嗜むとや聞こえざりける古人」の意。
※嗜む=好き好む。好んで精を出す。心がけて励む。
※とや=①(文中で疑問)~と~か・~というのか。②(文末で伝聞・不確かな内容)~とかいうことだ。
※聞こえ(聞こゆ)=①聞こえる。②噂される・評判になる。③理解できる・訳が分かる。④受け取られる・思われる。
訳文】心がけて(和歌に)励んだとかいうことだとは思われなかった歌人に(比べて)も、
古文】詠める歌のさま、遥かに隔/て
語釈】
※さま=①様子。②品格。③趣。
※隔て=①隔てる。②区別する。③時間を置く。④疎んじる。
訳文】(花下連歌に入れあげる歌人の)詠んだ歌の品格(は)、遥かに隔たって
古文】て及ぶことなし。京極入道中納言/
語釈】
※及ぶ=①届く・達する。②なる・至る。③(打消の語を伴って)同じ程度になる・匹敵する・かなう。④目標に届くようにする・のしかかるようにする。
※京極入道中納言定家=平安時代末から鎌倉時代初頭にかけての公家で歌人、藤原定家のこと。藤原俊成の子。筆者である為兼の曽祖父。八番目の勅撰和歌集である『新古今和歌集』の選者であり、百人一首97番歌「来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ」でも知られる。邸宅が京極殿と呼ばれたことから京極殿または京極中納言と呼ばれた。
訳文】いて(昔の歌人に)及ぶことがない。京極入道中納言
古文】定家、千首を詠みて送る人の返り事/
語釈】
※京極入道中納言定家=平安時代末から鎌倉時代初頭にかけての公家で歌人、藤原定家のこと。藤原俊成の子。筆者である為兼の曽祖父。八番目の勅撰和歌集である『新古今和歌集』の選者であり、百人一首97番歌「来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ」でも知られる。邸宅が京極殿と呼ばれたことから京極殿または京極中納言と呼ばれた。
訳文】定家(が)、千首(もの歌)を詠んで(定家に)送る人への返事
古文】に書けるごとく、「歌は必ず千首/
語釈】
※必ず=①きっと・絶対に。②(打消の表現に対して用いて)必ずしもに同じ。
訳文】に書いたように、「歌は必ずしも千首・
古文】万首を詠むにもよらず。その/
語釈】
※にも=~でも。
※その道=和歌の道。
訳文】万首(と数)を詠むまでもない。その
古文】道を心得て詠む人は、十首二十首/
語釈】
訳文】(和歌の)道を心得て詠む人は、(たった)十首・二十首
古文】より見ゆべし。さればこれほどの/
語釈】
※より=~によって。
※見ゆ=①見える・目に入る。②見られる。③見せる・思わせる。④姿を見せる・現れる・来る。⑤会う・対面する。⑥結婚する・妻になる。⑦思われる・考えられる。
※されば=①そうであるから・そうだから・それゆえ・だから。②そもそも・いったい(ぜんたい)。③さて・ところで。
※これほどの=千首万首もの歌を詠むほどの。
訳文】によって(その成果が)現れるであろう。そうであるから(もし)千首万首もの歌を詠むほどの
古文】心ざしならば、歌のやうを問ひ聞きて/
語釈】
※心ざし=心ざすの名詞形。心がある方向へ向かうことを言う。①ある人や事柄に対する配慮。②歌道・芸道などを求める心。求道心。
※やう=①ようす・状態・姿。②様式・流儀・やりよう。③方法・手段。④事情・理由・わけ。
※問ひ聞きて=問いたずねて・聞きただして。
訳文】求道心であるのであれば、(正しい)歌の様式を(師に)問いただして
意訳】向上心が和歌に対してあるのであれば、正しい歌の形式を師に問いただして
古文】ぞ読むべき」と言へる、肝要なる/
語釈】
※肝要=最も重要な。
訳文】詠むのがよい」と(定家が)言っているのは、最も重要である




