第55話 自分勝手に起こした行動でも、それが誰かの役に立つのなら
ちょっと、シンオウ地方に行ってました。
ただいまです。
「灰咲、仲間を助けてくれるのはありがたいんだけど、ごめんなさい。私も、みんながどこにいるかは知らないの」
精霊のアイから受け取った錠前でドラゴニュートの侵略者を撃退した。
そのままの勢いで仲間を助けに行こうと提案したが、どうやらアイ自身、他の精霊がどこにいるのか知らないらしい。
「マジか……」
「灰咲に渡した錠前の能力でもわからない? 空間を司る精霊である私が作った錠前だから、空間に関する大体のことはできるはずなんだけど」
「できるかもしれないけど、今は無理だな」
言いつつ、手に握った錠前を改めて見た。
脳裏に、鮮明に浮かび上がるのは、錠を開いた瞬間のこと。
脳を焼き尽くす。
とでも言えばいいのだろうか。
生半可な覚悟で開いたわけじゃなかった。
アイの口ぶりからして、相当の反動があることは覚悟していた。
それでも、カギを開けてしまったとき、最初に感じたのは後悔だった。
まるで自分が自分でなくなるような感覚。
扉を開いた刹那の間に俺が体験したことは、既知の概念では筆舌しがたい。
足元にあるはずの地面が消えて、空が大地に落ち、深海の中で呼吸もできずにもがき続ける。
時間と空間が液体のように流動し、凝固し、再び融解する遊戯盤を宙から見下ろす感覚。
今まで絶対だと信じてきた世界が、いかに脆く儚いものかを思い知らされるには十分すぎるものだった。
「できる限り、この錠前は開きたくない……」
もう一度、錠前を握りしめた。
その手を、優しく包み込む手があった。
誰の手だ?
いや、本当はわかっている。
「灰咲、ごめんなさい」
小さな、小さな手。
アイの手だ。
「どうした、急に謝って。お前の年齢詐称についてはもう怒っちゃいねえよ」
「そっちじゃないわよ‼ というか詐称した覚えはないんですけど⁉」
「そうやってムキになるところが怪しい」
「あんたの話はどこに向かってるの⁉」
彼女の手は、震えていた。
それだけで、彼女が言いたかったことはわかった。
後悔。
彼女もまた、悔いていたんだろう。
俺にカギを握らせたことを。
力及ばない自分のことを。
「あー、要するにだな」
アイがこちらを見上げている。
つぶらな瞳が、揺れている。
「俺がやりたくてやったことだ。自分勝手に起こした行動だ。でもな?」
俺が言いたいことは、一つだけ。
「それが誰かのためになるっていうなら、それも悪くねえ」
だから。
「お前が謝る必要なんて、どこにもねえんだよ」
つい、気恥ずかしくなって。
「以上! とりあえず、お前は仲間の居場所を探しとけ。見つかったら連絡をよこせ。いいな?」
「灰咲……」
「なんだよ」
顔を、そむけた。
そんな俺に、アイは笑いを向けた。
「ありがとう。あんたを頼ってよかったわ」
こうして、俺たちの異世界からの侵略者迎撃戦緒戦は幕を下ろした。





