第47話 空間の精霊(エレメンタル)
ざっと振り返ってみよう。
どうしてこうなった。
きっかけは、ルナがぷにきゅあにはまったことだ。
それからどうしてもぷにきゅあみたいに変身がしたいと迫られて、変身を手伝ってくれるマスコットを見つけるところから始めなきゃなって諭したんだ。
だって、わかるはずがないだろう。
それが実在するだなんて……!
「妖精?」
ルナが連れてきたのは、背中に虫のような翅を持った手のひらサイズの人型生物だった。
ぱっと思い浮かんだのは空想上の動物である妖精。
「妖精と一緒にしないでくれる?」
だったんだけど、違うみたいだ。
それと、機嫌を損ねてしまったらしい。
初対面で悪印象を持たれるのはあんまりよろしくない。
ここは少し歩み寄ろうか。
「お嬢さん。お名前をうかがっても?」
「あら? 精霊である私を妖精と勘違いするような愚物に私が名を名乗るとでも? 勘違いを訂正するのが先じゃないかしら?」
「失礼、おばさん。お名前をうかがっても?」
「誰が年齢の間違いを訂正しろって言ったかしら⁉」
翅をパタパタさせて近寄ってきた小動物が俺の耳を引っ張った。でも力が強いわけでもないのであんまりわからない。
とりあえず今の会話で分かったことがいくつかある。
この小動物はマスコットでも、まして妖精でもなく精霊であること。
高慢な性格をしていること。
そして結構年を食っているらしいことだ。
「確かに、高齢者を敬う気持ちが足りていませんでした。この度はとんだご無礼を」
「年齢でいじるのやめなさい‼」
……なんかそういうリアクションとられると実年齢がいくつか気になるなぁ。
まあ女性に年齢聞くのは俺ルール的にNGだから聞かないけど。
年齢いじりはOKなのか……って話になるけど、そもそもの話俺からすると精霊さんがいらっしゃるとぷにきゅあごっこをしないといけないかもしれない。
それは避けたい。
あまり関わり合いになりたくない。
俺の人生経験的に、好意的な感情を向けてくれない人相手に好意的に接することができるのは少数だ。
だからまあ、俺の方から突き放すような言動をとればおかえりいただけるんじゃないかなって算段なわけだ。
相手もプライドが高いタイプで、トゲのある言葉を使っても俺の良心が痛むことはなさそうだしね。
多分、そろそろ帰ってくれるんじゃないかな?
「本当にこんなのを頼ってもいいのか不安になってきたわね……」
「大丈夫だよ! マスターはすっごくすごいんだから!」
だけど、俺の考えとは裏腹に精霊は激高せずに頭を悩ませた。
ふむ、感情より理性を優先するタイプらしい。
だてに年を重ねていないというわけか。
「今も失礼なこと考えているでしょう?」
「失礼な。俺はただ宇宙の膨張と光の波長の変化について考えていただけだぞ」
「いや真面目に人の話を聞きなさいよ……」
「それは別料金だな」
俺は前方の空間に人差し指を向けると、ペケ印を描くように虚空をなぞった。
それに対して目を見開いたのは精霊だ。
「特に、こういう不意打ちまがいな真似をするやつ相手にはな」
なぞった前方の空間。
先ほどまで何もなかったはずの場所に、炎でできた矢が浮かんでいる。
「……よく見抜いたわね」
「ま、こんなお粗末な空間魔法、気づかないわけないわな」
「お粗末って……、一応私、空間を司る精霊なのだけれど」
そう。
俺たちが会話している間にこの精霊は魔法で炎の矢を生成し、空間をゆがませて隠ぺいしていたのだ。
「あんたが相当の実力者ってのは認めるわ。私を妖精と勘違いしたことも、今は不問に付してあげる」
「小さな悪なら見逃してもいいのか⁉ 見損なったぞ!」
「あなたの悪行よ‼」
「なんだ、それならそうと言ってくれればよかったのに」
「……調子狂うわね」
うーん。
ここまでふざけたらさすがに引いてくれるかなと思ったんだけど、引かないなぁ。
これだけめんどくさい対応してるやつと真面目に話し合いしないといけないとかどんだけ切羽詰まってるのさ、この精霊は。
あー、厄介ごとのにおいがぷんぷんする。
「あなたの実力を見込んで、お願いがあるの」
ほら来た。
「魔物に連れ去られた私たちの仲間を助けてほしいの‼」
え、嫌だけど……?





