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現代のダンジョン化が始まる前に  作者: 一ノ瀬るちあ/エルティ


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第33話 神代語勉強会

 小学校の頃、お金持ちの家の子が塾に通っていた。

 習っていたのは高校数学や英語などで、そのころはなんとなく「ああこういうやつが将来いい大学、いい企業に進んでいくんだろうな」とか思っていたのを覚えている。


 全然そんなことなかった。

 そいつは中学の勉強でつまずいて、そもそも俺より偏差値が低い高校に入った。

 今思うと、遊ぶ時間を削って作った勉強時間が役に立たなかったってことだし、なんかちょっとかわいそうではある。


 逆に、俺と同じ時間、俺と同程度のやる気で授業を受けていたのに、定期テストでは毎回きちんと点を取っていく奴もいた。


 あの差って何なんだろうなってずっと思ってたんだ。でも今日、なんとなくわかった気がする。


「えへへー! 満点だったよー!」

『うっ、6割……』


 目の前では、二人の女性が一喜一憂していた。


 一人は桃井茜。

 知力を体力に回したような印象を受ける女性だ。

 一人はナターシャ。

 ロシアの諜報機関に所属していて機械にめっぽう強くてハッキングもできるエリート。


 ダンジョンから帰ってきて、俺とルナは約束通り神代語を二人に教えることになった。


 いくら茜がコード:ソフィストの錠前を使っていると言っても、地頭の違いでナターシャの方が先にマスターしそうだなって思った。

 が、現実はまさかの逆。


『だ、だいたい! 現代において言語学習なんてナンセンスなのよ! 何百何千と時間をかけて勉強するくらいなら翻訳プログラムの一つでも組んだ方が早いじゃない!』

『おい、いざというとき連携を取るために必要とか言ってたのはどうした』

『ぐぅぅぅ』


 すげえなスキルって。

 いや、まだ茜が外国語を得意としている可能性もあるか。


「茜は英語とか得意だったの?」

「うん!」


 マジか。

 意外だ。


「基本五教科で英語だけはいっつも3だったんだぁ! 5段階評価で!」

「待って5段階評価の3で得意って言い張るの強くない?」


 他の科目全部3以下なの?

 1か2じゃん。

 え、すごい。


 まじか。

 俺は一気に10まで上げちゃったからわからなかったけど、たった1レベルでも結構な恩恵を授かれるんだな。


「うーん。じゃあ次のサイクルはナターシャがコード:ソフィストを使うか。一緒に勉強するのに、理解度がバラバラだと効率が悪いからな」


 ナターシャが翻訳アプリを使って俺の言葉の意味を理解して、弱々しい感じで『ううっ、面目ない』って言ってた。




 んで、次のターム。

 ナターシャは満点を取って、茜も満点だった。

 なんで?


 でも、ナターシャはめちゃくちゃ喜んでた。

 茜はそれに対していい子いい子しながら彼女を褒めていた。


 と、言うところで今日の神代語勉強会は終了。

 解散!



 カズマの家での勉強会が終わって、私は星降る夜を駅まで歩いていた。

 隣に並んで歩くのは、彼の元同僚だという桃井茜という女性。


(今日のダンジョン探索は、彼女のおかげで大変だったなあ)


 見え見えの罠に突っ込んでいくし、常に元気全開で動き回るし、というか、今なお私より元気なの何かのバグでしょ。いったいどうなってるのよ。


「えへへー! 勉強会楽しかったね、ナターシャちゃん!」


 にへらと、締まりのない笑顔で彼女は言った。


 本当に、なんていうか。


(邪気が無いっていうか、警戒心を抱けないっていうか)


 彼女の腕には、ダンジョンから連れていたスライムが見守っている。正直、危険じゃないのかと思うけれど、まあ他人だし怪我しても関係ないかくらいで考えてる。

 私はこれで結構ドライなタイプなのだ。


 でも、ま。


『そうね。楽しかったわね』


 気兼ねすることなく接することができる間柄ってのは、存外心地いいって、気づかされた。


 彼女の考え無しの部分はちょっとしんどいけど、裏表がない性格ってのは気に入ってしまったみたいだった。


「じゃあね! ナターシャちゃん! また明日!」

『うん。また明日……え?』


 今、なんて?


『明日も来るの?』

「うん? もっちろんだよ!」


 わ、私の体力、いつまで持つかな……。


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