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猫種の私が聖女?〜サブストーリー〜  作者: まるねこ
サイドストーリー2

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3/6

討伐した魔獣の活用法

 ある日、いつものように私は医務室へ騎士の治療のために向かっていた。廊下を歩いていると、向こうから大きな荷物を背負ったケイルート兄様がやってきた。


「兄様、そのおっきな荷物はどうしたの?」

「あぁ、これか? これは先日騎士団で倒した魔獣だ。珍しい形だったので研究室に相談したところ、素材になると言われてな。下処理をして乾燥させたものを持ってきたんだ」

「そうなの? 私も見てみたい!」


「ならマートス長官に言っておくから後で見にくるといい」

「分かった!」


 私はどんな魔獣の素材があるんだろうと少しワクワクしながらこの日の治療に当たった。


今日は思ったより怪我人も少なくて楽に治療を終えることができた。


 私はすぐに研究所へ戻り、マートス長官に先ほどの話をして素材を見せてほしいと頼むと、長官は箱から取り出して素材を見せてくれた。


「ローニャ様、この素材が珍しいと言われているのは色もそうなのですが、強度があり、加工するには時間がかかりそうですが、騎士の装備に取り入れることができたらとてもいいものになると思っています」


「そうなの? 確かに、この毛皮、触ってみるとふわふわなのに引っ張ってもビクともしないね。この毛皮には油が塗ってあるの?」

「いえ、これは魔獣特有のものだと思います。水が掛かっても水を弾いてくれるので軽いままですし、油ではないようで火を近づけても燃えにくいようなんです」

「それって凄いね!」


 私は魔獣の素材を手に取りながらじっくりと眺める。確かに見たこともないような色合いの毛皮だ。


 鈍色に見えるけれど、よくよく見ると玉虫色にも見える。不思議な素材だ。

 その箱の中には毛皮の他に骨も入っていた。


 骨を何の気もなしに手に取ってみる。乾燥させているせいかとても軽くて丈夫そうだ。

 とても軽く、私でも扱いやすい。


 削って尖らせた骨の剣ってなかなか面白そう!

 軽いし、ちょうどいいかもしれない!

 私は耳をぴんと立たせ、骨を剣にして振ってみた。その様子をマートス長官も笑顔で見ている。


「これ、軽くていいね! 剣がいいかなー。でも私は魔法使いだから杖もよさそう!」


 私はそう言いながら近くにいたゼロさんに向かってふざけてみる。


「ゼロさんが元気になるようにヒエロス♪」と人間界のおとぎ話にある魔法使いのような素振りをして見せた。


 本当に、何気ない遊びのつもりだったの。

 詠唱無しで指輪も付けていない状態だったのにゼロさんが淡い光を帯びた。


 ……すっごく驚いた。


 厳密に言うと、回復魔法は掛かっていなかったんだけど、私の魔力が魔獣の骨を通してゼロさんを包んだみたい。ゼロさん自身も、「え? え? 俺、光ってる?」って驚いてた。もちろんその場に居たマートス長官も他の研究員も目を丸くしている。


「ゼロさん! 身体は大丈夫??」

「あぁ、俺は大丈夫だけど、回復魔法使ったの?」

「詠唱してないから私の魔力がゼロさんにかかっただけかも……?」


 半信半疑になりながら言ってみる。


「でも、指輪をしていないよね?」

「うん。あのね、ふざけてヒエロスと言った時にこの骨に魔力がスッと移った気がしたの!」

「確かに回復はした気がしなかった。ローニャ様、ヒエロスの詠唱言ってみて」

「分かった。やってみるね」


 私は骨を持ちながら詠唱をする。そして最後に『ヒエロス』と言うと、骨を通してゼロさんに回復魔法が掛かった。


「この骨、凄いよっ! ゼロさん凄いの!」

「凄いというのはどういうことかな? 詳しく教えて欲しい」

「んとね、魔力がしっくり馴染むっていうのかな? 私の魔力を無駄無くそのまま流してくれる感じがするの」


「この骨は魔力を通すのか。金属より軽いし、いいね!色々石や木とか金属も試してたのに魔獣の素材は試していなかったから知らなかった」

「もしかして、魔獣は魔力を持っているのかな?」


 私は魔獣と戦ったことがないのでゼロさんの疑問に当然答えられなかった。もしかしたら持っているのかもしれない。


「分かんない。私は魔獣と戦ったことがないもん。でもね、この骨もそうだけど、毛皮も魔力を通しやすい感じがする。


 もしかしたら魔獣は魔力を持っているのかも?」


「研究することが増えたね」

「うん。感覚的なものだったけど、これからのことを考えればもっと試して数値を出してどんな風に使えるのか調べていかないといけないね!」


 ゼロさんと雑談をしている時、私は良いことを思いついてマートス長官にお願いをしてみた。


「マートス長官、この骨、貰っていい?」

「骨を、ですか?」

「うん。今度おねえちゃんの誕生日なの。この骨を削って何か小さなアクセサリーでも作ろうかなって思って!」


「でも、骨なんか貰って嬉しいかな? ローニャ様、それって趣味悪くない?」


 ゼロさんはおねえちゃんのプレゼントはもっと可愛いものがいいと諭すように言ってきた。

「大丈夫! 絶対おねえちゃんなら喜んでくれるもん!」

「ローニャが自分で作るんだろう? 良いじゃないか」


 私がゼロさんに反論していたところ、ケイルート兄様が話に加わった。どうやら第三研究室に寄った後、この第一研究室に戻ってきたみたい。

「兄様!」


 私は立ち上がりケイルート兄様に抱っこを強請るが、兄様は苦笑しながらもう大人だからだめだと断られてしまった。


 私としたことが成長前の感覚が抜けないことで失敗してしまった。


「おねえちゃんのためにこの骨をもらってもいい?」

「えぇ、もちろん構いませんよ」



 再度お願いすると、マートス長官は微笑みながら頷いた。

 ふと私は嫌な予感が頭を掠めた。

「あ、そうだ! 骨に魔力が通ることを研究所以外に漏らさないで欲しいの」

「なんで?」

「だって、確実な話じゃないでしょう? まだ実験もしていないし、私たちには指輪があるからあまり必要としていないんだし。全て結果が出るまで内緒にしておきたいの」

 ゼロさんやケイルート兄様たちは不思議そうにしている。

「私もばれないようにこっそりと自室に持って帰るから!」

「? まぁ、いいよ? どうせ検証結果が出るまで何か月も掛かるかもしれないしね」


 あの馬鹿女が近いうちに何かを仕掛けてくる予感がするの。


 予感は当たらない方がいいけれど、もしものことを考えて作っておくに越したことはない。


 自室に戻ると侍女のエリスにお願いしてヤスリと錐を用意してもらい削り始めた。

 時間が掛かったけれど、小さなわっかをなんとか削りだせた。


 途中、心配して見に来たケイルート兄様に穴を開けてもらったのは内緒ね。

 もちろんおねえちゃんの分も作った。


 穴にリボンを通して可愛く仕上げた。尻尾に付ければとっても可愛い!

 周りからみたらリボンに装飾品が付いている程度で違和感がない。我ながら上手に作れたと思う!

 ウシシシ!


『おねえちゃん、誕生日おめでとう』

 誕生日にプレゼントが間に合って良かった! とっても喜んでくれた。

 ゼロさんはちーっとも私たちを分かっていないわ!

 確かに可愛い小物やキラキラ光る装飾品を貰うと嬉しい。でもそうじゃないの!


 どんなに不格好でも一生懸命その人が作ってくれたものが一番なの。


 その想いは何物にも代えられない。家も家族も住んでいる世界までも失った私たちだからそう思えるのかもしれないけどね。


 実用的なものならなおさらいいと思わない?


 おねえちゃんが喜んでくれて本当によかった。

 こうして上機嫌のままベッドに入ったローニャだった。


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