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呪われた第二王子は骨になる~「大丈夫、骨まで愛します!」「っていうか君が好きなの私の骨だよな?!」~  作者: 砂臥 環
第三章

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西の森の守護者(仮)①

 

 翌朝、ファティマは眷属の馬で迎えに来た。


 西の森は王都からそこまで離れているわけでもないけれど、それでも通常馬車で向かえば、往路だけでも3日は掛かる地だ。雨でもこの馬で二人乗りだったのだろうが、幸い天気に恵まれ、久々の晴天。


「お嬢さん、怖くはない?」

「いいえ!」


 快晴の空を馬は駆けていく。

 瞬く間に点となった王都の景色は線のように流れ、きっと下にいる人達の目にも、馬が走っているだなんてわからないであろう速さ。

 イヴェットはそれを『早朝の流星に乗っているよう』と表現し、ファティマが『洒落た(たと)えだ』と笑う。

 そんな会話をしている間にも、もう目的地。





 西の森……手前の村とはいえ、そこはとても長閑(のどか)で。

 そして、思いの外栄えている。


 村は小さいなりに商店街を備えており、間近に行われる慰霊祭の為に華やかに飾りつけられていた。村民達はファティマを知っているらしく、朗らかに声を掛けてくる。


「どうしたんだい?」

「失礼なことを申しますと……正直なところ、西の森はもっとおどろおどろしく、そこの近くとあって、村も寂れた場所かと想像しておりました」

「ふふふ、まあ間違ってもないよ。 ほんの数年前迄はそんなモンだったんでね」


 村が栄え出したのは、国が尽力している証拠なのだと彼女は語る。


 西の森の問題、唯一の解決策は『守護神を奉ること』。

 この場合の神とは『土地を守護できるだけの力を持つ者』である。


「……あっ! もしかして契約が『異界との扉が繋がる慰霊祭迄』と言うのは」

「ご明察。 話が早いねぇ……そう、私に委託せざるを得なかったのは、この地の守護者となる者が現れなかったからなんだ」


 慰霊祭に招かれた客人、或いはその伝手により、土地神として招請する──魔界からの客人との交流には、そういった側面もあったようだ。


「国と交わされる契約は大体300年ってトコ。 色々制限はあるんだけど、魔界で悠久の時を生きる閑人(ひまじん)の感覚ではそう長くもない」

「ですが……この地の守護者は現れなかったのでは?」


 そう、西の森には依然『神が不在』のまま。

 契約のことはわかったが、今の話ではファティマが未だに管理している理由もわからなければ、村が栄えている理由にも繋がらず、イヴェットは困惑した。


「う~ん、ごめん。 『現れなかった』だとちょっと語弊があったか。 現れたには現れたというか……慰霊祭の際に招請を受けてくれた魔族はいたんだよ。 だけどソイツ、なかなか面倒臭いことを言い出してね……」


 曰く、『折角だから旅行したい。 奉じられたら行ける範囲が限られちゃうから、しばらく神にするのは待って』と宣い出したのだとか。

 なんでも『人に興味が沸いた』のだそう。


「まあ信仰が集まるのって、奉ってから結構後だし……人として動く分、加護代わりになる魔力を困らない程度の範囲の土地に付与して行ったから、『順番変わるけどいいか』みたいになってさ。 アタシとの契約も月一のデータ収集が四半期に一度になって、その余剰金は元々あった費用に足して周辺の町村の発展に充てたみたい」


 そのお陰もあってか、既に神殿もある。

 まだ神はいないのに。


 結果論ではあるが、それは大変良かった。

 相変わらず森は危険なままだが、付与した魔力により村への被害まではなく、国の働きかけもあって村には人が戻ってきた。

 日々の生活に感謝する人々の信仰により、付与した魔力は本当に加護になった。


「なんだか嘘みたいな話ですね……」

「だろう? 実際、普通は同じことをしてもそうはならない」


 ファティマは『全てが予想外だった』と言う。


 魔族の中でもかなりの力がある者だったからそうなったけれど、そもそもそういう者は、わざわざ人間界の神になる為の招請になど応じないらしい。

 そして国も当然、そこまでの大物をわざわざ自国の小さな森周辺を治めるだけの神として奉じようとは、露ほども思っていなかったのだ。


「ま、有閑貴人の考えることはよくわからんがね……これからソイツに会いに行くんだよ」

「今は『人として動いて』らっしゃるんですよね?」

「それもねぇ……まあ人って言っても魔女(アタシ)に近い存在かな。 もっともアタシと違って、奴はそれすら装ってる(・・・・)だけだけど」


 比べものにならない、らしい。

 なにがとは言わないが、おそらく持つ力の強さが全く違うのだろう。

 充分魔女(ファティマ)の凄さを見たイヴェットには想像もできないが、ファティマの相手を指す口調からも、ふたりの仲は良さそうなのはわかった。


 村の小さな商店街では、手土産として数種類のパイとワインを購入した。

 これは自分達の昼食も兼ねているらしい。





 再び馬に乗り、向かうのは神殿──ではなく。西の森の奥だそう。


「アイツは瘴気が濃くて森を通ってはいけないところに、わざわざ居を構えてんのさ。 たまに帰ると自分の魔力と馴染ませて、必要以上の瘴気発生を防いでる」

「それもう神じゃないですか……?」

「それな」


 ファティマは苦笑する。


「でもこんな前例ないから、国もどうしていいかわかんなかったんだよね」


(魔女様の新しい条件での契約更新は、いつの慰霊祭からなのかしら?)


 魔女の管理は前例のないデータの取得と、念の為の措置なのだろうとイヴェットは思った。

 守護者がまだ不在を続けるにせよ村の様子を鑑みるに、年数がある程度経っているのであれば、次からはファティマとの契約は終了で構わないのではないだろうか。或いは、新しい契約条件で更新をするか。


 森の奥上空に差し掛かると、虹色の道が現れた。馬はそこをゆっくりと降っていく。


 現れたのは、小さく可愛らしい一軒家だった。


 玄関に備え付けられたバルコニーにはクッションで飾られたブランコが揺れ、階段下から延びるアプローチは煉瓦の小路。

 芝生で整えられた庭の小さな噴水からは水がキラキラと散り、家の軒先には可憐な花々が咲き誇っている。


「……守護者様は女性の方ですか?」

「いや……」


 可愛いけれど、やや少女趣味でもある。

 何故かファティマは眉間に皺を寄せ、その皺を伸ばすように指で摩った。


「ファティマ!」


 馬からイヴェットを降ろす手助けをするファティマの名を呼び、扉を勢い良く開けて出てきたのは──



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