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呪われた第二王子は骨になる~「大丈夫、骨まで愛します!」「っていうか君が好きなの私の骨だよな?!」~  作者: 砂臥 環
第二章

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20/33

不安と焦燥

 

『秋の長雨』はこの国でも通じる言葉。

 例年通りなら、大体3日から一週間程ぐずついた天気が続き、これを境に夏の面影を残した秋は、冬の準備の季節である秋へと変化を遂げていく。


 夜半頃から降り始めた雨は今も続いている。

 今日は王妃宮の庭園でお茶をする予定だったが、残念ながら中止になりそうな気配。


(先に『本日はご遠慮させて頂く』と伝えた方がいいわよね)


 ただ雨とは別に、昨日からイヴェットは考えていることがあり、今日は王宮に行くのをやめるか、少し遅らせようかを決めかねていた。雨によって『やめる』の方に傾いた、といった感じだ。



 しかしナサニエルはまだ来ていないらしく、クラスのどこにも見当たらない。


(なにかあったのかしら……)


 そのままHRが終わり、不安に思いながらも科目毎に講堂に移動した。いつも通りに授業を受けたが、まるで頭に入ってこない。


 そうして落ち着かないまま3時限目が過ぎた。


「あの」

「はい?」


 モイラと共に広い廊下を歩いていると、不意にひとりの女生徒に声を掛けられた。


「コレ、落ちましたよ」


 娘はイヴェットにハンカチを渡す。礼をいう間を与えず、女生徒はペコリと会釈をして足早に去っていった。

 まだ午前の授業はある。時間が時間なのでおかしなことではないが、イヴェットは僅かな違和感から女生徒の方を見続けていた。


「あら、素敵? な図案ね」


 そんなイヴェットをよそにモイラは、ハンカチを見てそう言い「イヴェットらしい」と続けふふっと笑う。


「……!」


 なにしろ四つ折りにしたハンカチには、髑髏(どくろ)の刺繍。

 こんな図案を刺繍する令嬢はイヴェットくらいだが、それは彼女のモノではない(・・・・)


 四つ折りにされたハンカチには『本日は中止──N』というメモが挟まっていた。

 

 イヴェットが骨好きなのを知るのは極一部。


 そもそもイヴェット以外の誰が好き好んで、わざわざ骨について話すのか、という……

 当たり障りなく皆と仲良く話を合わせるイヴェットに、モイラ程の情熱を以て仲良くなろうとしてきた人はいないのである。


 メモの『N』や妙な印象の薄さなどからも、おそらく先の女生徒は『ナサニエルの婚約者』で間違いないだろう。


(魔女様がいらしたのならいいけれど)


 可能性としてそれが一番高いことはわかっているが、不安だ。



 オリヴァーやナサニエルが案じたように、イヴェットは気になったら動くタイプだ。

 ただ、それはあくまでも子供の頃のこと。


 囮作戦はいいアイデアだと思った。だが軽い気持ちで言ったわけでもないものの、重い気持ちでもなかったと気付いたのは、影をつけられてから。

 アレに『カッコイイ』とテンションが上がったのも嘘ではないけれど、内心慌ててもいた。まだ婚約者でない以上、影を借りる理由など本当はないのだから。衝動で現場を引っ掻き回すのはそれだけ危険なのだ……と、それなりに教育を受けた貴族令嬢であるイヴェットは気付き、自重せざるを得なかったのだ。


 ナサニエルの協力(・・)は結果として、イヴェットの牽制(・・)に役立っていたと言っていい。とはいえ、それでアッサリ諦めるタイプでもない。


(足を引っ張らずに役に立つ方法が見付からないのよね~)


  結果『足を引っ張らなければ』という前提ありきで動く気でいるのだ。まだいい方法が見当たらないだけで。 


 イヴェットは割と誰とでも気負いなく喋れる方だけれど、社交的な訳ではない。学園では関わった人達と当たり障りなく付き合ってきただけだ。

 そんな自分が、オリヴァーがいないこのタイミングで急に交流に精を出すのは、不自然に見られるのでは──と考え、できそうなことすらできずにいるのが現状。



「イヴェット、なんか元気ない?」

「そ……んなことないわ、趾骨(しこつ)から頭頂骨(とうちょうこつ)まで元気一杯よ!」

「あら通常運転ね」


 尚、趾骨とは足先の骨を構成する部分を纏めた名称である。頭頂骨は言うまでもないだろう。


「今日は天気も悪いから城下町アーケード内だけれど、買い物に付き合ってくれない? 新しいカフェができたらしいし……」


 無駄だとは思いつつも、このところオリヴァーの呪いについてばかり考えている。


(ちょっと頭を冷やした方がいいかも)


「まだ忙しいかしら?」

「ううん、大丈夫よ」


 イヴェットは、モイラの誘いに乗ることにした。



 城下町には大きなアーケードで覆われた商店街がある。

 そこでモイラは慰霊祭で婚約者に贈る為に『手芸屋で組み紐の材料を買いたい』らしい。


 慰霊祭には特に誰かになにかをあげるといった風習はないのだが、学園を開放して行われるパーティーにエスコートして貰えることになったそう。


 王宮での夜会はそもそもが魔族の方々をもてなす意図であり、招待状及び、それを持つ者の家族であることが必須条件であり厳守される。基本的に招待状が贈られるのは高位貴族のみ。

 その為、平民の学生や低位貴族は学園でのパーティーに参加する場合が多い。こちらに必要なのは身分証か学生証だ。

 どちらも夜会とはいえ慰霊祭は仮装パーティーなだけに、入口での確認は細かい。だがパーティー自体は形式ばらないので、勿論ホールへの入場時も名前を呼ばれることはなく、自由。婚約のお披露目にもならないし、挨拶回りも特にないのである。


 モイラにしてみれば実質、初デートみたいなモノ。なので『エスコートのお礼に』と、なにか贈りたいのだとか。


※エピソードの置換を行った折、天気の記述でおかしな点がありました。訂正しました。

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― 新着の感想 ―
趾骨の説明ありがとうございます(笑) どこの骨?でした(笑)
つま先から頭の天辺まで的な?w
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