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呪われた第二王子は骨になる~「大丈夫、骨まで愛します!」「っていうか君が好きなの私の骨だよな?!」~  作者: 砂臥 環
第二章

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親友・モイラの婚約①

 

 翌、休み明け。

 学園にいつも通り普通に登校したイヴェットを待っていたのは、どこかソワソワしたモイラだった。


「ねえイヴェット、今日のお昼はふたり分お弁当を作って貰ったの。 折角だから外で食べない?」

「まあ! 嬉しいわ、是非そうしましょう」


 シレッと答えたけれど、彼女の様子や外への指定から『これは多分、相談事かなにかなんだろうな』と予想できた。

 果たして内容はいいことか、悪いことか。

 

(まさか誰かが骨になったとかじゃないわよね……)


 オリヴァーのことがあるだけに不安だったが、モイラの様子を見るに悪いことではなさそう。


 そしてお昼休み。

 中庭の四阿(ガゼボ)──は恋人達などに人気が高いので、学舎前広場の四阿を選んでランチを摂ることにした。花壇や噴水はあるが全体が見渡せるからか、あまり人気がないのだ。馬車待ちを兼ねた放課後は、それなりに賑わう。


「実は……婚約が決まったの」

「ええっ?」


 少しだけそんな予想はしていたけれど、随分急だ。勿論、他家のこと。正式に決まるまでモイラが話すことはしなかったにせよ、全くそんな素振りを見せなかった。


「ヤダー、私そんなにわかりやすい? 当たりよ、急なことなの。 ほら、一昨日イヴェットが先に帰ったでしょう? あの後、話し掛けられて……」


 そのお相手はなんと、翡翠騎士団の副団長レナルド・ゲラティ卿。

 彼は12歳上の28。生真面目で実力もある。実家は代々騎士を輩出している武芸の名家。


 名家とはいえ騎士爵自体は一代限りだが、逆に平民女性にしたら、貴族では捕まえやすい超優良物件である。

 だがレナルドは立派な体躯に強面(こわもて)で寡黙。怖がられがちな上、生真面目なのもあって『シブちんで気が利かない』と、まあ……一言で言えばモテないらしかった。

 故の28独身。


「まあ! ゲラティ副団長って、モイラの一番の推しじゃなくて?」

「そうそうそうなの!」


 しかし、レナルドは素敵な筋肉(すてきん)の持ち主。

 強面など、すてきんの魅力の前では些細な問題……尚、当然モイラの個人的見解だ。


 彼女もこだわりが強いので、ただ筋肉がついてりゃいいってモンでもない。そんなモイラの推しのすてきん、それがレナルド。選ばれし筋肉である。


 なんとも幸運な偶然──などではなく。


「私はまだ知らなかったのだけど、婚約を申し込んでくださったそうなの。私が見てるのに気付いて、意識するようになったって仰ったわ 」


 モイラが彼を一際熱く見つめるご令嬢だったからこその、納得の流れ。

 両親への打診はされていて釣書も来ていたが、届いたのはつい先日。彼女にはまだ知らされていなかったらしい。





「ヘザー嬢。 その、少しお時間を頂けないだろうか……」


 緊張した様子でレナルドはそう声を掛けてきた。

 モイラは推しのすてきんが自分の元に現れて大慌てだったが、実は釣書を送ったばかりだったと言う。

 練習場から少し離れた休憩用の中庭へ。たまに打ち上げをする場所だけあり、開けてはいるがいい季節なので花壇の花は満開。当然侍女も離れたところにいるが、それなりにいい雰囲気。

 ただ、話しながらもレナルドはこちらに背を向けたまま。だがモイラはそれが全く気にならなかった。


(ああ……上着を着ててもわかる、なんて素敵なお背中の筋肉! 僧帽筋(そうぼうきん)がセクシー過ぎるわァ~!!)


 理由はコレだ。

 彼女のお気に入りは特に背筋である為、背を向けられてこちらを見ないなど、思う存分眺めるチャンス。しかも間近。


 まさにイヴェットの親友、類は友を呼ぶとはこのこと。


 眼福に心を潤しときめかせているモイラに、レナルドはやや控え目にこちらを向くと、気まずげに尋ねた。


「ヘザー嬢……君がもし私の見た目や年齢が気にならないなら、前向きに考えてくれないだろうか。 私は口下手で、この通り気の利いたことも言えないが」


 確かにまるで気の利いたところがなく、話した内容は主に説明──

 だが逆にモイラはそれが堪らなかった。

 言葉に裏がなく、ついでに自信もなさげだが、その分横柄なところもない。元々人柄や評判も耳には入ってくるだけに、考えるまでもなかった。

 すてきんなだけでなく、無骨で素敵……「是非!」と即答したという。


 その後もレナルドがモイラに気の利いたことを言うことはなかったが、家まで送ってくれたそう。

 本人が乗り気であることや彼が丁寧に挨拶を行ったことで当日にはもう暫定的に決まり、翌日には正式に婚約が結ばれた。





「婚約したら、夜会でエスコートして貰えるのよね……考えただけでドキドキしちゃう!」


 曲げられた肘。盛り上がる上腕二頭筋に挟まれながら、引き締まる腕撓骨筋(わんとうこつきん)にそっと触れて寄り添うのを想像し、モイラは胸を高鳴らせながら身悶えする。


「推しが婚約者だなんて夢のようね!」

「そうなの! 一番にイヴェットに知らせたくて……!」

「嬉しいわモイラ……! ただ、関係ないけど『無骨』ってちょっと嫌な単語よね~、骨がないだなんて」

「ブレないイヴェットが好き!」


 モイラは筋肉だけでなく、以前から彼に好感を抱いていたようだ。

 それは恋と自覚できる程ではなかったものの、為人(ひととなり)を好ましく思うと、すてきんが更に素敵に見えてくる不思議。


 最初はすてきんとの婚約にはしゃぐモイラだったが、どうやら心配事があるようで。


「……でも、筋肉が好きなことは隠した方がいいかしら?」


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