変わらないふたり②
「殿下……交流が復活したのを私、とても嬉しく思ってますのよ?」
「っ!」
(わ、私もだ……!)
しおらしく、少ししょんぼりと言うイヴェットに、オリヴァーはうまく声が出せない。
(何故声が出ない! くっ、これも骨になったせいか?!)
そして、ヘタレなのを呪いのせいにした。
まあ、ある意味呪いのようなモノではある……無自覚な恋心の。
──しかし、イヴェットがしおらしいのは最初だけ。
オリヴァーに対し『変わってない』と度々思う彼女だが、実のところイヴェットも大して変わっていない。
見た目は優しげで口調はおっとりしているが、彼女もオリヴァーに負けず劣らずの我の強さ。当然これで終わらない。
「ですからここは、私が大人になりますね」
「!?」
大人はそういうことを口には出さない。
「それにまたいちゃもんをつけられたからといって、もう喧嘩はしたくありませんもの……」
「──イヴェット……」
ついでに『いちゃもんをつけられた』と文句もしっかり付け加える。
「君、やっぱり根に持ってるな?」
「それよりも殿下、それだと私はどう協力したら宜しいのですか?」
再び質問を流し、眉を下げた困った笑顔で問い返す。今回はほんの少し口調にケンがある。
信頼云々もあるけれど、『囮作戦』が妙案だと思っているイヴェットは、正直なところ大変不服なのである。
「……ここに来て、話を聞いてくれればそれでいい」
「ええ?」
交流が復活して嬉しい気持ちはオリヴァーの方が強い。おそらくそれが言えれば、この場はなんとなく丸く収まるのだろう。
だが拗らせている彼が素直にそんなことを言える筈がない。
また彼はイヴェットに危ないことを絶対させたくない上、照れ臭さでどうしても強い口調になってしまうのだ。
イヴェットはイヴェットで、当事者で被害者のオリヴァーの意に添うつもりではいるものの、彼の言い方のせいもあってやや不貞腐れている様子。
すかさずナサニエルが助け舟を出した。
「ウォーラル嬢、殿下は自室謹慎中なので。 それに骨ですよ? 怖がらずこちらにいらしてくれるだけで本当に有難いのです。 女性の視点は参考になりますし」
「う~ん……そうですか……でも」
(殿下、話を逸らすんです!)
(わ、わかった!)
そして抜群のアイコンタクト。
「とりあえず今日はもういい。 ほらケーキでも食え、コレ好きだっただろ?」
「あら殿下、覚えてらしたんですか?」
「フン、私も好きだからな。 君と取り合って母に『紳士なら譲れ』と叱られたケーキだ」
「ふふ。 結局、半分こにしたんでしたっけ」
納得がいかない様子のイヴェットを、王宮パティシエの特製ケーキと、昔の素敵な思い出で誤魔化すことに成功。
オリヴァーの呪いについての話は一先ずここで終わり。
暫くただの歓談を楽しんでいると、父が迎えに来た。
「では殿下、明日また来ても?」
「明日も来てくれるのか」
「お休みですし、お邪魔でなければ」
「そ、そうか。 ……君が好きなものを用意しておく」
「嬉しいけれど太ってしまいそう」
「私の分も肉をつければいい」
「まあ! 今の殿下の分、お肉がついたら大変ですよ~」
イヴェットの後ろで父、ホレイショが苦虫を噛み潰したような顔をしているのにも全く気づかず、気軽に冗談を言い合う。
ふたりの様子が伝わり、呪いの件でピリピリしていた王宮の空気は和んだ。(※ホレイショは除く)
イヴェットが帰ったあとで、そんな周囲に毒吐くオリヴァー。
「フン、まだ呪いも解けていないというのに……」
「でもわだかまりは解けたみたいですね」
それにナサニエルが気の利いた事を言う。
オリヴァーは眼球のない眼で睨みつけるが、彼が微笑みで返すので「フン」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
実際オリヴァーは、イヴェットと仲直りをしたかったけれど、元々素直でない性格に加え複雑な気持ちから謝罪できずにいたのだ。
なんなら有耶無耶になっただけで今も謝罪はしていないが、再び以前のように気安く話せたことが嬉しくない筈はなく、毒吐いたのは勿論照れ隠し。
久々の楽しい時間を思い出し、骨だけの姿なのに満更でもない様子がありありとわかる状態で、その夜はベッドに入った。
──この後、まさか彼の身に新たな予想外のことが待ち受けていようとは、誰も思わなかったのである。
翌朝。
「うわぁぁぁああぁぁぁぁぁぁッ!?」
オリヴァーの部屋から、従者の叫び声が王宮に響いた。再び。




