65 帰路
『精霊の雨なのだ』
そうクロが空を見上げて呟く。
空には雲はあるが、雨雲という感じではないし、太陽が出ている。天気雨というやつだ。
「雨が、雨が! 降り始めた!」「こ、こうしちゃいられない!」「失礼します!」
村人達は一斉にあたしたちに深く頭を下げると、一人を残して、走り去った。
どうやら、雨の間にするべき作業があるらしい。
走り去った村人達は本当に嬉しそうだった。
「あめがふってよかったなぁ」
「本当に、本当にありがとうございます」
残った一人の村人が雨の中、あたしたちに土下座していた。
「我が村の収穫物にとって、雨は特別なのです。お嬢様。雨をありがとうございます」
「ルリアがふらせたわけじゃないよ?」
「……それでも、ありがとうございます」
ただ、村人はお礼を繰り返した。
「頭を上げなさい。先ほどもいいましたね?」
「これは大公爵家の皆様への敬意を表わしているにすぎませぬ」
そういって、村人は頭を上げなかった。
「これで、村の皆も、妻も、子も孫達も救われます。本当にありがとうございます」
そんな村人に母は優しく言った。
「あなたたち、なにも心配はいりません。代官の件も水利権も、大公殿下に万事任せなさい」
「ありがとうございます」
「……ただ、もう一度重ねていいます。我が娘のことは他言無用ですよ?」
母の言葉には圧があった。
「か、畏まりました。肝に銘じます。ただ大公さまが水路を開通させてくれたと口裏を合わせます」
「それで構いません。……後事は任せます。ルリア、帰りますよ」
従者たちのリーダーに後を任せると、母は歩き出した。
あたしと侍女も母を追いかけた。
別邸への帰り道、雨に打たれながら、あたしは母に尋ねる。
「このあとって、どうなるの?」
「そうねえ。調査次第だけど、代官は許されないでしょうね」
「そっかー」
「官職の褫奪のうえ、十年単位の労働刑かしらね? グラーフがどう判断するか次第だけど」
ここは大公家の領地なので、裁判権を持つのは父である。
「ぜいは?」
「税は……農作業が間に合うかどうかね。間に合うとしても、減らすかもしれないわ」
「まにあっても、へらすの?」
「そうよ。ルリア、サラ。覚えておきなさい。代官は領主の代理人なの」
「うん」「はい」
「だから、代官の罪は、領主の責任なの」
きっと、代官がかけた迷惑に対するお詫びの意味で税を減らすということなのだろう。
「めえ~?」
母の話に興味があるのか、ヤギが鳴いている。
ヤギも牛も猪も、それが当然であるかのように付いてきていた。
キャロとコルコは、いつも通り大人しいが、ダーウはヤギたちにじゃれついていた。
自分よりずっと大きい存在と遊べて嬉しいのだろう。
「む? みずうみ、なにかかわった?」
「母には何も変わってないように見えるわね」
歩いている途中、ふと湖を見たら、何か変な感じがした。
『精霊がもどったからかもしれないのだ』
「なるほどー」
湖畔の別邸に来た時、精霊が少ないと感じた。
呪術回路の効果が消えたので、湖の雰囲気も変わったのかもしれない。
「でも、それだけじゃないきがする」
精霊の気配が増えた。同時になにか威圧感のようなものを感じる。
「ふむ~」
あたしが湖を見て考えていると、母が近くを歩くヤギを撫でながら言う。
「……そんなことよりルリア、このヤギたちは一体?」「めえ~~」
「うーんと、ちかくの森にいたどうぶつたち」
「そ、そう。森にこんなに大きな動物がいたなんて……」「ぶぼぼ」
「べっていをでたときから、ずっとこちらをみてたよ?」
「気づかなかったわ」「もおぉ~」
結局、ヤギたちは別邸まで付いてきた。
「みんな、今日はありがとうな?」
「めえ~~」「もおお」「ぶぼぼ」
あたしはヤギたちを撫でまくった。
しばらく撫でたら、ヤギたちは満足したのか、森の中へと帰っていった。
ヤギたちが去ると、母は本当にホッとした表情浮かべた。
「飼うと言い出さなくて……良かったわ」
「かいたいけどなー」
「ダメよ。大きすぎるわ」
「そっかー」
別邸に戻ってから、あたしとサラはお風呂に入って、ご飯を食べて過ごしたのだった。
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