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【コミックス2巻発売中!】転生幼女は前世で助けた精霊たちに懐かれる  作者: えぞぎんぎつね
四章

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180 狩人娘の思い

 そんなことを話していると、サラがサンダーを寄せてきて言う。


「ルリアちゃん、ほんとうにすごかった! 絵本の剣聖みたいだった」

「えへ、えへへ」

「サラも、剣の練習しよっかな……」

「うんうん。それがいい。ルリアとダーウと一緒に練習しよ」

「…………」


 サラの前に座っているミアが無言で両手をぶんぶんと振った。


「ミアもれんしゅうしよ。な?」

「……!」


 こくこくと頷くミアをサラが優しく撫でる。


「ルリア様。お見事でした。歴戦の勇士のような動きでしたよ」

「そっかー、やっぱりわかってしまうかー」

「わかるとは?」

「なんでもない」


 前世のあたしは強大な魔物群れのなかに一人、放り込まれたりしたものだ。

 本当に死にそうになりながら、生き延びるために必死になって戦った


 前世の王族達は、あたしが死んだらどうするつもりだったのだろうと思う。


 あたしが死んだら困るのはあいつらだと思うのだが、頭が悪かったのだろうか。

 いや、きっと、頭が悪かったに違いない。


「あ、あの!」


 そのとき、狩人娘が緊張した様子で声をあげてあたしを見る。


「お前、ご領主様方に声をかけるな! 無礼だぞ。申し訳ありません、子供ゆえ分別が――」

「いい。周りに誰もいないからな? 気にするな。どした?」


 慌てて止める狩人父を止めて、あたしは笑顔で応じる。


「あ、ありがとうございます。あの、お嬢様は一体何者なのですか?」

「けんごうみならい?」

「え?」

「いや、なんでもない」


 あたしは少し考えた。


「サラちゃんの、めのとご?」

「乳母子というと、男爵閣下の乳母のお嬢様ということですか?」

「ちがうよ~。サラがルリアちゃんの乳母のむすめだよ」


 サラの言葉に、狩人親子は困惑している。

 そんな狩人親子を見てサラは楽しそうに笑う。 


「えっとね、ルリアちゃんは大公殿下の娘で、サラより、ずっとえらいの」

「つまり、どういうことでしょうか?」

「ルリア様は、王子たる大公殿下の娘にして、国王陛下の孫娘なのだ」


 まだ理解していなそうな狩人親子に、トマスがあたしの正体を語る。

 隠すことではないので、邪推されるより明かした方が良いと判断したのだろう。


 姉の代わりに、父の名代をあたしが務めることになれば、どうせばれることなのだ。


「な、なんと、そうだったのですね。知らずに無礼を」


 狩人父が深く頭を下げた。


「きにすんな。言ってなかったしな? それに領主はサラちゃんだし」


 あくまでもこの領地における主役はサラなのだ。

 裁判をしたり、法律を作ったりできるサラの方が偉い。


「あ、あの大公爵公女殿下は治癒術師様なのですか? それに動物達と会話しているようにも」


 狩人娘が緊張した様子で尋ねてくる。


「ど、どうしてそうおもった? あ、ちなみに、あたしはでんかではない」

「し、失礼いたしました」


 我が家で殿下の称号を持つのは父と、嫡子たる兄だけなのだ。

 そして、普通に使ってしまっていたが、あたしが治癒魔法を使えることは内緒なのだ。


 祖父を治したことがばれたとき、母にそう言いつけられている。


「ち、ち、治癒魔法は、つかったことないな? き、気のせいではないかな?」

「そう……ですか」


 あたしは完璧な演技力で誤魔化したが、なぜか納得していなそうだ。


「ルリア様。私にお任せを」

「ん。頼む、トマス」 


 トマスは馬を止めると、狩人親子を呼び止める。


「お前達に厳命しなければならないことがある」


 狩人親子は緊張した様子でトマスを見つめる。


「ルリア様は治癒魔法を使われた。だが、それは誰にも口外してはならぬ」

「かしこまりました」

「もし、他の者が、ルリア様が治癒魔法を使ったことを知っているようなことがあれば――」


 トマスは一度区切って、狩人親子をじっと見る。


「大公爵家が、口外した者を徹底的に調べ上げ、厳罰に処すであろう」


 ごくりと狩人親子が同時に息をのむ。


「命に替えましても口外いたしません」

「その言葉、まことであることを願う。お互いのためにな」


 トマスが脅し終わると、あたし達は再び歩き始めた。


 しばらく歩いて、また川の側を歩いていく。

 時折、川の右岸と左岸を交互に行き来しながら、あたし達は登っていく。


「ルリアちゃん、川の水って汚れてる?」

「そだなー。汚れてる」


 あたしが魔法で川を調べると、即座にクロが出てきた。


『ルリア様! 川の水を調べるのはまた今度にするのだ! 精霊力を温存するのだ!』

「すまぬ。つい」

『クロ以外の精霊がいないから、いつもより大変なはずなのだ!』

「あ、そっか、そうだな?」


 あたしが魔法を使うとき、いつも精霊達が力を貸してくれる。

 精霊達に力を借りなくても魔法は使えるが、消費量が多くなるのは当然だ。


 極力、魔法を使わないようにしなければなるまい。



 だから、あたしはレオナルドの背中から、魔法を使わず川の様子を観察する。


「うーむ。やはりビトはいないな? ダーウはそれっぽい匂いしない?」


 ビトとは、村の子供の友達のビーバーの名前だ。


「わふ~」「きゅ」「ここ」「りゃむ」


 ダーウとその背に乗るキャロとコルコも、ビトっぽい匂いはしないという。



 もっとも、あたし達は誰もビトにあったことがない。

 ダーウ達が探ってくれているのは、水辺に住む大きな獣の匂いだ。


 そしてあたしの頭の上に乗るロアは、多分、ダーウ達の真似をして鳴いただけだろう。


「きっと、川が汚れたから、ビトは避難したのである」

「あ、あの!」


 すると突然、狩人娘が大きな声をあげる。


「どした?」

「どうして、ビトのことをご存じなのですか?」

「村の子供がおしえてくれたからな? でっかい友達だって」


 すると狩人娘は、右手で後ろ髪をくくっている白いリボンに手で触れた。


「友達をたすけてくれってお願いされたからな? 探しておこうと思ってな?」

「そう……だったのですね」

「む? そなたもビトの友達か?」


 あの子供は十歳ぐらいだった。そして狩人娘は十代前半ぐらいに見える。

 四年前は六歳と、八か九歳。一緒に遊んでいてもおかしくない。


「はい。でも……ビトはもう……きっと」

「まあ、野生動物だしな? 四年はながいな?」


 あたしは動物図鑑を沢山読んでいるので、動物に詳しい。

 ビトがどんな動物なのかは知らないが、野生動物の寿命は長くても十年程度のことが多い。


 そのうちの四年は四割だ。果てしなく長い。


「だけど、生きてるかもしれないしな?」

「あの! とても厚かましいお願いなのですが」

「やめろ! 申し訳ありません。無礼が過ぎるぞ」


 狩人父がたしなめるので、あたしは笑顔で言う。


「よいよい。他の者が見ていないところなら、これからも気にしなくていいよ。ね?」

「うん。サラもあまり礼儀はわからないし」

「実はルリアもだ……えへへ」


 本当は、ルリアは礼儀にめちゃくちゃ詳しい。

 専門家と言っていい。なぜなら、母に徹底的に教え込まれたからだ。


 だが、礼儀を知らない振りをした方が、みんな緊張しないと思ったのだ。


「そうであるな! ルリアの礼儀のしらなさは、尋常ではないのである!」


 スイはあたしが完璧なことを知っているのに、調子をあわせてくれた。

 さすがにスイは頼りになる。


「寛大なる言葉、ありがとうございます」


 狩人父は深々と頭を下げた。

 親としては、娘の無礼をたしなめなければならないのだろう。


「そなたなまえはなんという?」

「あ、はい。ナザニンと申します」

「そうか、ナザニン。きけるかはわかんないけどな? お願いをいってみるといい」

「ありがとうございます」


 ナザニンと名乗った狩人娘は深々と頭を下げた。


「ビトがもし苦しんでいたら、助けてあげてください。私からもお願いします」

「いいよ。見つけたらな?」

「ありがとうございます」


 ナザニンは深々と頭を下げる。すると後ろ髪をくくる白いリボンが見えた。


「そのリボンは、友達のあかし?」

「ご存じだったのですね」

「うむ。あの子供にきいた。あの子もリボンを大切にしていたな」

「そうですか」


 ナザニンは、少し嬉しそうに微笑んだ。


 その後、あたし達は狩人の案内で、川から離れたり、川を渡ったりしながら歩いていった。

 川は大分細く、水量が少なくなりつつあった。


「普段はもっと水量が多く、大体、膝あたりまではあるのですが」

「水量はすくなくても、なるべく水のなかに入らない方がいい。毒がながれているからな?」

「かしこまりました」


 あたし達に説明しながら、狩人父は河原をどんどん進む。


「足が滑りやすいのでお気をつけください」

「うん。サンダー、だいじょうぶ?」

「ぶるる~」


 サラを乗せたサンダーは堂々と川の近くを歩いて行く。

 水に濡れた岩でも、滑る様子もなくどんどん進む。


 最後尾をついてくるスイがぼそっと言う。


「どんどん、川が汚くなってるのである」


 スレインに乗ったスイが、魔法で球体にして宙に浮かべた川の水を指でつついていた。


「そっか。あまりふれないほうがよさそうだな?」

「うむ。ダーウ、絶対飲んだらだめなのである」

「ばう!」


 そのとき、狩人父が、緊張気味の様子で言う。


「男爵閣下、化け物とそのダムまで、もうすぐです」

「うむ。スイが先頭に立つのである。スイは強いゆえな?」


 そうスイが言った次の瞬間、強烈な呪いの気配が上流の方から漂ってきた。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様&ありがとうございます 相変わらず誤魔化し方がアレなルリアで安心します。で、ビーバーのビト…前任ビーバーはビヘですかね?←イロハ順 では、また次回の更新もお待ちしております
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