179 未来の大剣豪ルリア
「スイちゃん、キャロ、コルコ、レオナルド、イノシシもありがと」
「余裕なのである」
「きゅ」「ここ」「ぶるるる~」「ぶぼぼ」
ダーウの背に乗るあたしの元に、スイ達が集まってくるので、順番に撫でていく。
もちろん、スイの頭も撫でまくった。
「みんな、ありがと」
サンダーに乗ったサラもみんなのことを撫でている。
キャロとコルコはサラに撫でられるためにわざわざサンダーの鞍に乗りにいった。
「またせたな? これでとりあえず、ここはだいじょうぶだ」
「ルリア様。大丈夫なのはここだけですか? いまの奴らが村人達の言う化け物では?」
トマスは今のが化け物ならば、もう村に戻ってもいいのでは? と言いたいのだろう。
「ちがうな? な?」
あたしは狩人達の方を見る。
「…………は、はい」
ぼおっとしていた狩人の長が慌てたように返事をする。
「化け物というのは、今の奴らに少し似ていますが、もっと大きくて川にいます」
「うむ。すぐに、向かおう。サラちゃんもそれでいい?」
「ルリアちゃんは大丈夫?」
「よゆう」「ばうばーう」
あたしはそう言いながらダーウの背から跳び降りる。
そして、全員を魔法で診察していった。
怪我しているのは戦っていた者達だ。
サラやトマス、狩人達は、無事だった。
「よかったよかった。すぐになおすな?」
あたしは順番に傷を治していく。
「ダーウとキャロと、コルコ……いたかったな?」
「ばう~」「きゅう」「ここ」
ダーウ達はかすり傷だと言っているが、痛かったはずだ。
「スイちゃんとイノシシとレオナルドも……いたくない?」
「治ったのである! ありがと」「ぶぼぼ」「ひひぃん」
「よかったよかった」
そして、あたしは呪者が襲ってくる前に解呪して治療した守護獣達を見る。
ヤギと牛と鳥達が二十羽に、あたしに助けを求めに来た猪だ。
「みんな、まだ元気ないな?」
「めええぇぇぇ」「もおお」「ほほうほう」「ぴぃぴぃ」
「むりすんな」
ヤギ達は一斉にもう元気だと言うが、そんなわけが無い。
「とりゃああああ」
あたしは全員にまとめて治癒魔法をかけた。
これで少しはましになったに違いない。
『ルリア様、精霊力を使い過ぎなのだ!』
すかさず地中から出てきたクロが忠告してくる。
「……でも、ひじょうじたいだからな?」
あたしは誰にも聞こえないよう、小声でささやいた。
「ヤギたちはここで休んでいてな?」
「めええ~」
「だめ。つれてかない。イノシシはみんなをまもってな?」
「ぶぼぼ~」
猪はあたしについてきたそうだったが、納得してくれた。
「イノシシ、ありがと。あっ」
「ぶぼ?」
「これがおわったら、みんなにちゃんとした名前をつけてあげるな?」
「め!」「ぶぼぼ?」「もお~」「ほうほう!」
ヤギたちは驚いて、それから喜んでくれた。
「だから、おとなしくまってるんだよ?」
「めえ~」
「いいこいいこ」
そしてあたしはクロに、声を潜めて尋ねる。
「……精霊たちはなおせない?」
あたしの目には精霊達も元気がないように見えたのだ。
『治癒魔法は効果ないのだ。でも時間経過でなおるのだ』
「ふむ~」
あたしは守護獣達の中にいる精霊達のことを撫でていく。
とはいえ、精霊達の数はとにかく多い。数千はいる。
だから、精霊達がいるあたりを手でふわっとふれる様に動かすだけだ。
「みんなもげんきになってな?」
当然、精霊達は何も言わない。でも、撫でずにはいられなかった。
数分かけて、全ての精霊に触れたあと、あたしはサラに言う。
「サラちゃん、ヤギたちはだいじょうぶ。化け物とやらのとこにいこ」
「うん。ルリアちゃんも、本当にむりしないでね?」
「よゆう」「ばうばう~」
あたしは走って、ダーウの背の上で跳んで、レオナルドの背にしがみつく。
「ふうふう。じゃあ、いこっか。狩人のみんなもだいじょうぶか?」
「は、はい。我らは大丈夫です」
「じゃあ、案内たのむな?」
「かしこまりました」
そして、狩人達は静かに歩き始める。
するとレオナルドの背にクロがやってきた。
『むむう……ルリア様、ひとまず休んだ方がよいのだ』
「んー。でも、ロアを助けたときより、つかれてないかも?」
あたしは他の人に聞こえない様にささやいた。
「りゃむ?」
ロアを助けたとき、あたしは精霊力を全身から出して、呪者を吹き飛ばした。
それに、手のひらをかざすだけで、吹き飛ばしたりもした。
無我夢中だったから、あまり鮮明には覚えてないけど、なんとなく覚えている。
「今回はふおおおーて、精霊力をだしてないからな?」
『確かに棒に精霊力をまとわせて戦っていたから……消費量は少ないのかもしれないのだ』
手から精霊力を出して吹き飛ばすより、木剣に精霊力をまとわせた方が効率が良いのだろう。
「だから、だいじょうぶだよ?」
『本当に無理はしたらだめなのだ』
「心配してくれて、ありがと」
『…………ルリア様……その棒と木剣……』
「む? このかっこいい棒と剣がどうした?」
これは湖畔の別邸に到着したときに見つけた棒である。
罠探りに活躍し、最近は剣術の練習に活躍している。
そして、木剣は兄にもらった普通の木剣だ。
『なんか、特殊な状態になっているのだ』
「ま、まさか!」
あたしはサラとミアを見る。
「どしたの? ルリアちゃん、真剣な顔して」「……」
「…………まさか……このかっこいい棒が……ミアみたいに……?」
『それはないのだ』
「ないのか」
がっかりである。
かっこいい棒が、守護獣になったら楽しいと思ったのだ。
「でも、それもそうかな?」
ミアは、サラが辛いときからずっと一緒にいたのだ。
サラを慰め、そして、サラにかわいがられ大切にされ続けたからこそだ。
『その棒……魔導師の杖みたいになっているのだ』
「ふむ?」
『魔力を通しやすくなって、魔法の威力を増幅しているのだ』
狩人達の目があるので、声を出しにくいあたしに向かって、クロは一方的に語っていく。
簡単に言うと、かっこいい棒を使うと、魔法を発動させやすくなるようだ。
精霊力の消費も抑えられるし、威力も高くなると言う。
「ほほう」
『ルリア様は、その棒と木剣で呪者を叩き切っていたのだ』
あたしは叩き潰しているつもりだったが、斬っていたらしい。
「……きっていたか」
あたしは、もはや剣豪と言ってもいいかもしれない。
『精霊力をまとっているときは、剣みたいに使えるのだ!』
それは良いことを聞いた。
『ダーウのその棒も……ルリア様のと同じ感じなのだ』
「ばうばうばうばう」
それを聞いて、ダーウは嬉しそうに棒を振り回す。
ダーウは最近ずっと棒と一緒にいた。そのおかげで棒に不思議な力が宿ったのかもしれない。
「よかったな? ダーウ」
「わふ!」
「ルリアは……名のあるけんごうになってしまうかもな?」
「わうわう」
「ダーウはけんせい犬だな?」
ダーウは歩きながら、ぶんぶんと棒を振り回している。
その姿をよく見たら、どこか剣聖みたいな雰囲気が出ている気がした。





