178 呪者の襲撃その2
それは矢の形をした呪者だ。
「あ、ありがとうございます。なんだ、これ……ば、化け物」
地面に突き刺さった呪者はどろどろと溶けながら、姿を変えつつあった。
「まったく、いろんな形があるのだな」
あたしはその呪者をかっこいい棒で叩き潰しながら、上を見る。
「…………やっぱり、うえか?」
上空に呪者の気配が集まってきた。その数は三十を超えている。
「ほ……ほぅ」
「フクロウ、むりすんな。ルリアにまかせろ」
消耗しきった体で、無理に飛び立とうとするフクロウを止めた。
あたしは上空を睨み付ける。
フクロウ達には任せろと言ったが、数が多すぎる。
上空にいる全ての呪者に矢に変化されて、一斉に地上に向けて降り注いできたら、相当厄介だ。
(どしよっかな? みんなを守るためには……)
全身から精霊力を出して、弾き飛ばすしかないかもしれない。
だが、それをすると一気に疲れてしまう。
これから化け物と会うというのに、疲れすぎたらまずい。
「まあ、あとのことはあとでかんがえるかな?」
今、みんなを守ることの方が大切だ。
それに力を抑えて、吹き飛ばせば、ギリギリ大丈夫な気がしなくもない。
かっこいい棒でたたき落とせるなら、それでいい。
落とせないようななら、吹き飛ばすことにしよう。
「ルリア! 上の奴もスイが――ちっ、しつこいのである!」
スイやダーウ達は、地上の呪者を倒すので精一杯だ。
一匹一匹は弱いが、とにかく数が多いようだ。
「だいじょうぶ、むりすんな。」
「ばう!」
そう言ったのに、ダーウは無理してあたしの前に来た。
ダーウをあたしのもとに送るために、キャロとコルコとダーウが無理をしたのだ。
そのため、ダーウもキャロもコルコも、怪我をしてしまった。
「ダーウ。こんなに怪我して」
「がうう~~」
ダーウはかっこいい棒を咥えて、姿勢を低くし、上空を睨み付ける。
「ダーウ。ルリアと力をあわせような?」
あたしは、あたし用のかっこいい棒と木剣を構えて、ダーウの背にまたがった。
「ダーウ。おもいっきりあばれていいよ?」
「りゃむ!」
あたしの頭の上で、ロアも気合いを入れていた。
「わぉぉぉぉぉぉん!」
ダーウは上空の呪者を目がけて、威嚇するように遠吠えした。
次の瞬間、三十体の小さな呪者が矢のようになって、高速で地上に降り注ぎ始めた。
「ふおおおおおおお!」
「わおおおおおおおん!」
あたしはダーウの背に乗って、呪者をかっこいい棒と木剣をふるってたたき落としまくる。
ダーウも跳ね回って、口に咥えた棒と爪で呪者をたたき落とす。
「……ルリアちゃんすごい」
「あんなに暴れるダーウの上で……跳ね回りながら……」
サラとトマスは感動していた。
「えへへ、まだまだ!」
「ばうばう~~」
少し良い気分になった。
激しく飛び跳ねて呪者を倒すダーウの背中でぴょんぴょん跳びはねながらあたしは戦う。
前世では敵の大群と一人で戦ったりもした。だから、戦いには慣れている。
とはいえ、あたしの体はまだまだ小さいし、前世のようには動かない。
「でも、このぐらいならよゆう!」
「ばう!」
あたしもなかなか頑張っていると自分でも思うが、なによりダーウが凄い。
あたしが背中から大きく跳んだら、ちゃんとダーウは着地点まで移動してくれる。
だから、あたしはダーウを信頼し、背中に降りたら、またすぐに跳びあがることができる。
「ほわぁぁぁぁ」
「わぁぁぅぅぅ!」
ダーウはあたしを見ながらも、自分自身も棒と爪で呪者を倒しているのだ。
「ダーウ、つよいな? すごいぞ!」
「わふ~!」
そんなあたしとダーウを見て、狩人親子は、
「まるで……舞っているようだ……」
「……美しい」
感嘆の声を上げていた。
「ふひひ」
「わふふ」
あたしとダーウは気持ちよくなりながら、上空から降ってくる呪者を倒しきったのだった。
「……なんか、おもったよりうごけたな?」
「わふ」
精霊力で吹き飛ばさなくてもなんとかなった。
「いつものくんれんのせいかだな? ダーウ」
「ばう!」
暇があれば、棒を使って剣術の練習をしていたおかげに違いない。
あたしとダーウが空からの呪者を倒した頃には、スイ達も地上の呪者を倒しきっていた。





