177 呪者の襲撃
みなに警戒してもらい、あたしは診察に集中する。
「ヤギ。かなりつらそうだな?」
「めぇぇ」
ヤギ達はイノシシに比べて、かなり症状が重かった。
ヤギと牛は息をするのもしんどそうである。
鳥達はみな飛べそうにないほど具合が悪そうだ。
「この子が一番症状が重いな?」
あたしは、ほとんど意識のない雀の守護獣を抱き上げる。
体が小さい分、毒にやられてしまったのかもしれない。
「……ぴ」
ほとんど意識がないのに、雀はあたしの指を優しくくわえた。
「だいじょうぶだ。すぐになおすからな?」
あたしは魔法を使って、雀を診察しながらヤギに尋ねる。
「みんな、急にわるくなった?」
「めえ~」
「そっか……。そんなに急だったか」
ヤギがいうには、ほんの数十分前に急に悪化したという。
「めえぇ」
数十分前、守護獣達が療養していたところ、沢山の精霊達が集まってきたのだという。
そして直後、呪者が現われた。
呪者は精霊を食らう。そして呪者から精霊を守護するのが守護獣である。
呪者に襲われた精霊達は、本能で守護獣達を頼ったのだろう。
守護獣達は、幼い精霊達を呪者から守るために戦った。
なんとか返り討ちにしたが、その直後に急に体調が悪くなったという。
「うーむ、毒にひみつがありそうだな?」
呪者は命と引き換えに守護獣を呪ったのだろう。
だが、本来、守護獣を呪うのは簡単ではない。
これほど短い時間で、一斉に呪うとなると何か仕掛けがあるはずだ。
あたしはヤギと話しながら、雀を解毒し解呪し、体を癒やした。
「だいじょうぶか? いたかったりしんどかったりしないか?」
「ぴぃぴぃ」
「よかった、でも、かなり重症だったからな? 無理しないでな?」
そして、あたしはどんどん守護獣達を治療していく。
体が小さい鳥達の方が、比較的症状の重い者が多い。
だから、鳥達から治療を進めていると、
「キュキュ!」「コココ!」
キャロとコルコが鋭く鳴いた。
突然、周囲が呪者の気配で埋め尽くされた。
幼い精霊達が怯えて震える。
「みんな。だいじょうぶだからな?」
あたしはぼそっと精霊達にいう。
幼い精霊は言葉を理解できないが、声をかけずにいられなかった。
「ダーウ! まかせた! ミア! トマス! サラちゃんを守って!」
「ばう!」
「…………」「お任せを!」
ダーウはかっこいい棒を咥えて、張り切っている。
ミアはサンダーの背の上で身構え、トマスはサラの横で剣を抜く。
「スイちゃん!」
「任せるのである!」
あたし達が緊迫している中、狩人親子はきょとんとしていた。
だが、その五秒後、
――GYAAAAA
奇声をあげながら藪から飛び出してきた呪者を見て、
「ひぃぃぃい」「ば、ばけもの!」
と狩人親子は悲鳴をあげた。
「怖がることはないのである!」
次の瞬間、その呪者はスイが吹き飛ばした。
「偉大なる水竜公、スイがいるのであるからな?」
スイはどや顔で、狩人親子を見て、ヤギ達に囲まれて震える幼い精霊達をみた。
「ルリア! 数は多いが雑魚である! スイとダーウたちで充分である!」
「ばうばう!」
「ルリアは治療に専念するのである!」
「ありがと!」
あたしは大急ぎで守護獣達を治療していく。
呪いと毒に相乗効果があるに違いないとあたしは考えている。
呪者が守護獣達にとりついてより強い呪いをかけたら、症状が急に重くなるかもしれない。
そうなったら、もしかしたら死ぬかもしれない。
だからこそ、治療を急がねばならないのだ。
あたしは守護獣達を、診察し、解毒し、解呪して、治癒する。
その近くでは、ダーウが、スイが、キャロとコルコ、レオナルド、猪が戦っている。
ダーウは爪で呪者を切り裂き、かっこいい棒でたたきのめす。
スイは素手でぶん殴り、水魔法でとどめを刺す。
キャロは爪と牙で、コルコは爪とくちばしで、呪者を仕留めていく。
レオナルドも強い。後ろ足で蹴り飛ばし、呪者を一撃で仕留めている。
先ほど治したばかりの猪も突進して牙で斬り裂いていた。
「ルリアも負けてられないな?」
最初の雀から数えて、五羽ほど治したところで、コツを掴んだ。
「いけそうだな? ほぁぁぁぁぁ!」
残りの十五羽とヤギ、牛をまとめて診察し、解毒し、解呪し、治癒した。
「ふう、みんなまだ、無理しないでな? 重症だったのだからな?」
『ルリア様こそ、無理しすぎなのだ!』
「でもひじょうじたいだからな?」
背が伸びなくなるのは確かに困る。
だが、ヤギ達の非常事態に、背など気にしていられない。
「ふう。みんな、ルリアも手伝うな?」
あたしも呪者と戦おうとしたのだが、
『それこそ、必要ないのだ! ダーウ達で充分対処できているのだ!』
「むむ? そうかな?」
『そうなのだ! 見るのだ!』
確かにクロの言うとおり、ダーウ達は呪者達を圧倒していた。
「ふむ? ならあんしんだな?」
あたしはサラの近くへと歩いて行く。
「サラちゃんだいじょうぶか?」
「うん。だいじょうぶ」
サラの近くには、ミアとトマスと狩人達がいる。
ミアは奇襲からサラを守るため、緊張した状態で身構えていた。
「みんなもこっちこい」
「めぇ」「ほほう」
治療を終えたヤギ達がサラの周りに集まった。
「みんなで固まってたほうが、みをまもりやすいからな?」
「えっと、あの、この動物達はみな、水竜公様のお友達なのですか?」
狩人娘が不安そうに尋ねてきた。
「そうだよ。この子たちはみんないい子だからな? こわくない」
「そ、そうなのですね――」
「あぶな!」
あたしは危険を察知して、狩人娘に思いっきり体当たりして突き飛ばす。
その直後、狩人娘が立っていた場所に、ヘドロでできた矢のような物が突き刺さった。





