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【コミックス2巻発売中!】転生幼女は前世で助けた精霊たちに懐かれる  作者: えぞぎんぎつね
四章

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169 領民の直訴

「ふむ? 屋敷にだれかきたか?」

「いっぱい人がきてるみたいだけど……だれかな?」


 サラが不安そうにミアのことをぎゅっと抱きしめる。


「トマス。なにがあった?」


 あたしは近くに待機している従者トマスに尋ねた。


「おそらく領民が直訴に来たのかと。お嬢様方、危険なのでお屋敷の中へ」


 そういうトマスをあたしは手で制す。


「領民っていうことは、サラちゃんにお願いがあるのだな?」


 いつもならマリオンが対応することだ。

 マリオンが対応できなければ、姉が対応してくれるだろう。


「マリオンもねーさまもご病気だものな?」

「……うん。サラがいかないと。男爵だもん」


 サラはそう言って、大きく深呼吸した。

 マリオンが病気の今、領主としての責任を果たそうと思ったのだろう。


 とはいえ、サラはしっかりしているし、頭も良いが五歳の幼女だ。

 その点、あたしには前世がある。ただの幼女ではない。


「ここは……ルリアが、がんばるしかないな?」


 あたしは心を決めて、サラに言う。


「…………サラちゃん、いっしょにいこ?」

「いけません。ひとまずお屋敷に……」

「トマス、ごめんね? これはサラがやらないといけないことだから」


 サラはじっとトマスを見る。


「……ですが、男爵閣下」


 そんなトマスの肩を、スイが叩いた。


「スイもいるから安心するのである! いざとなれば竜の姿になってやるのである」

「トマス。竜になったスイに勝てる者なら、屋敷ごと吹きとばされるよ?」

「それは……そうでしょうが……」

「うん、ありがと」

「ルリア様、私はまだ、なにもいってません!」

「でも、トマスは、サラちゃんと領民がお話しすることを、みとめてくれるな?」


 あたしは、馬具のついていないレオナルドにぴょんと飛び乗る。


「レオナルドにのってたら、ちいさいのがめだちにくいからな?」


 小さいと領民に舐められるかもしれない。

 だから、大きなレオナルドの背中に乗って威厳を増しておこうと思ったのだ。


「そっか、そだね!」

「スイもスレインに乗るのである!」


 あたしは馬上からトマスを見下ろす。


「うまの上にいたら、結構あんぜんだよ? にげられるし」

「矢をいかけられたら、スイが全部落としてやるのである!」

「……わかりました。ですが危ないと思ったら、脇目をふらずに逃げてくださいね?」

「わかってる」

「私の身を含め、従者や侍女のことを気にせずに、全力で逃げてください」


 そういったあと、トマスはサラをじっとみる。


「男爵閣下。我らはあなたを守るのが仕事です。あなたが逃げなければ我らも逃げられません」

「うん。わかった」

「ありがと。トマス」


 あたしは馬上でトマスに頭を下げた。


 その後、サラはトマスに手伝ってもらいサンダーに乗り、スイは一人でスレインに飛び乗った。


「じゃあ、いこー」


 あたし達はそれぞれの愛馬に乗って、棒を咥えたダーウを連れて屋敷に向かう。


 ロアはあたしの頭の上に、キャロとコルコはダーウの背中に、ミアはサラの前に乗った。

 トマスは、馬に乗らず、警戒しながら、あたしの横にぴったりついている。


 まだ屋敷の陰になって領民の姿は見えない。だが、騒いでいる声の内容が聞こえてきた。


「領主様に会わせてくれ!」

「閣下がいらっしゃるときいて、俺達はずっと待ってたんだ!」


 騒ぐ領民を、男爵家の使用人が止めている。


「だから、代理閣下はご病気だといっているだろう!」

「俺達だってもう持たないんだ! 待てるか!」


 どうやら、姉が倒れてから視察の予定に遅れが発生したようだ。

 そして昨日の時点でマリオンの体調が悪化し始めて、遅れが大きくなったらしい。


「みんな、一旦とまってな?」


 あたしがそう言ってレオナルドを止めると、サラとスイも愛馬を止めた。


「……サラちゃん、こはんの別邸を思いだすな?」

「そだね。あのときはおばさまがいたけど」


 湖畔の別邸にあたし達が隔離されていたとき、領民が押寄せたことがあった。


「あのとき、かあさまはルリアとサラちゃんを連れていってくれたな?」


 普通なら騒ぐ領民の前に子供を連れて行くなど、危険だと判断するだろう。

 だが、母はあたしとサラを同行させ間近で見せてくれた。


「あれは、きっと、今日のようなときのためだ」

「うん」

「あのときの、かあさまみたいにすればいい」

「わかった。でも、侍女がいないよ?」


 あのとき、母は直接話さず、侍女を介して会話していた。

 あれは殿下の称号を持つ母は、平民と直接言葉を交わさないのが礼儀だからだ。


 それだけでなく、身分の差を領民にわからせるためである。

 それによって、領民は心理的に母やあたしたちに、乱暴な手段をとりにくくなった。


「……むーん。安全性は……馬がいるけど……」


 馬に乗って、物理的に高所をとるだけで、向こうは乱暴な手段をとりにくくなる。


 侍女の代わりをトマスに任せるのは難しい気がする。

 おそらくトマスはそういう訓練をしていないからだ。


「そだな? ルリアが侍女の代わりをするな? だからサラちゃんは直接話さないでな?」

「え? ルリアちゃんが?」

「うむ。まかせるといい。とくい」


 あたしは演技力に定評があるのだ。

 偉そうな侍女を立派に演じることができるだろう。


「スイはなにすればいいであるか?」

「そだなー。スイちゃんは領民があばれそうになったら、竜になってくれな?」

「わかったのである。びびらせるのであるな!」

「そうそう。スイちゃんが竜になったらみんなびびる。それに」

「遠距離攻撃も警戒しておくのである!」


 張り切ったスイは尻尾を揺らす。

 昨日の反省を生かしたのか、スイは尻尾がスレインに当たらないように気をつけていた。


「わふ?」

「ダーウは合図したら大きな声でほえてな? みんなを静かにさせるためな?」


 きっと、あたし達が近づいても興奮した領民達は気づかずに騒ぎ続けるだろう。

 そうなると、お話し合いができない。


 だが、ダーウが大きな声で吠えたら、何事かと思って皆静かになるに違いない。


「ばう!」


 張り切ったダーウは、一旦棒を置いて吠えると元気に尻尾を振った。


「じゃあ、ルリアが先頭でいこ。あ、ダーウはルリアの横な?」

「ばうばう」


 あたしとダーウが先頭で並び、その後ろにサラとスイがついて屋敷へと向かう。

 あたしにはダーウという護衛がいるので、トマスはサラの横で護衛についた。


「ほんとは、レオナルドにサラちゃんがのったほうがいいかもだけどな?」

「ぶるる?」

「レオナルドが一番でかいからな? めだつし」


 そんなことを言いながら、あたしは空を見上げた。

 雲一つない青空が広がっている。


「鳥たちは、ねてるのかな?」


 あたしが外に出ると、いつも上空にいる鳥達が今日はいなかった。


「……」


 あたしは森の方を見る。いつもいるヤギ達もいない。


「なんか、しずかだな?」

「え? ルリアちゃん、さわがしいよ?」


 サラがきょとんとしている。


「そだな。領民たちがさわいでいるしな?」


 確かに騒がしい。うるさいと言っていい。

 でも、なぜか、あたしには静かに感じた。


 騒がしいのに、不思議な静けさを感じながら、あたしは屋敷を回り込んで正面に向かう。


 すると、三十人ほどの領民が屋敷の正面の門の前に集まっていた。


「サラちゃん、スイちゃん、いくよ?」


 そう言うとあたしはレオナルドを門に向けて歩かせる。


「いいから男爵代理閣下に会わせてくれ! それが無理なら男爵閣下でいい!」

「そうだ! このままだと俺達は全め……つ……は?」


 騒いでいた領民達が一斉に静かになった。

 ダーウに吠えてもらう必要がなくなってしまった。


「ダーウ、ほえな――」

「わおおおぉぉぉぉぉん!」


 吠えなくていいと言おうとしたのに、張り切っていたダーウは吠えてしまった。

 あたしの言い方が悪かった。「ほえな!」と命じられたと思ったのかもしれない。


「ひぃぃぃ」

「い、いえ! 我らは閣下に逆らう意思など、露程もなく!」

「どうか、どうか命ばかりは!」


 領民達は一斉に土下座した。

 怒った男爵が、巨大な魔獣をけしかけようとしていると誤解したのかもしれない。


(そういえば、前の男爵はあいつだったな?)


 あたしはそんなことを思った。

 前男爵、つまりサラの父はクズなので、そのぐらいのことはやりかねない気がする。

 魔獣は用意できなくとも、私兵をけしかけて数人殺すぐらいのことはやるに違いない。


「ど、どしよかな?」


 あまりにも領民をびびらせすぎた。

 ふと横を見たら、吠え終わったダーウは、棒を拾ってどや顔でこちらを見ていた。


 頑張ったから褒めてと目で言っている。


「ダーウ、えらいな? みんなしずかになったな? あとで撫でてあげるな?」

「ぁぅぁぅ」


 レオナルドに乗っているから撫でられないのだ。


「どうか、どうか、命ばかりは!」


 あたしは領民に向かって優しい声で言う。


「顔をあげてな?」


 すると、領民達はゆっくりと顔を上げる。

 馬にのった幼女二人と少女を見て、領民達はみな怪訝な表情を浮かべていた。

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― 新着の感想 ―
川の水を飲む動物も全てか…あのダムどうなってんのかなぁ
更新お疲れ様です&ありがとうございます 今回ばかりは結果オーライ?…まぁ、実際に魔獣がいたら腰が抜けますけどね   で、鳥たちにも被害が出ているというわけですか。これはマズイ状況ですね では、ま…
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