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5 王都へ行こう

 領主と会った後、晩餐会は無事に終わった。

 予想よりは、(なご)やかに事が進んだと言える。


 ただ、そこでもたらされた情報は、あまりにも重大だ。

 もしかしたらこの国の命運を、大きく左右するかもしれない。

 そしてその渦中に私の眷属と、友人……と呼ぶにはまだ微妙だけど、少なくとも顔見知りがいる。


 これは……無視できないよなぁ。

 そんな訳で私達は、翌日から行動を開始した。

 つまり、引っ越しの前倒しである。


 引っ越し先はランガスタ伯爵領だが、その先には王都がある。

 まずは全員でランガスタ伯爵領まで行って、そこからキャロルさんとティティのような非戦闘員を残して、私達は王都へと向かう。

 キャロルさんには、新しい家や店の準備を進めてもらう予定だ。


「ごめんね……。

 私の都合で、みんなを巻き込んでしまって……」


 事実としては、ラムラス様とクリーセェ様を助けることは、必須の要素では無い。

 でもこれは、親しい人を見捨てるのは嫌だ……という、私の気分の問題だ。


「あのお二方は、私達にとっても知り合いだから、遠慮しなくてもいいんだぞ」


「そうですよ」


 エルシィさんとカトラさんは、そう言ってくれた。


「お姉ちゃんにとっては知らない人だけど、マルルが助けたいのなら、反対する理由は無いな。

 あたしだって、マルルに助けられた立場だしね」


「私もです、ご主人!」


『我が命はご主人様の為に……。

 ご主人様がお望みならば、地の果てまでも付いていきます』


 だから重いよ、ティティ……。

 

 でもありがたいことに、みんなは私に賛成してくれている。

 甘やかされているなぁ、私……。

 たとえこれが、『百合』の影響によるものだとしても、この恩恵に見合うだけのものを私は眷属のみんなには返していきたい。

 今回はその返す相手に、ラムラス様が入っているというだけの話だ。


 これが他の誰かであったとしても、私は助けに行く。

 ……とは言っても、まだカプリちゃんが来ていないから、出発できないんだけどね。

 転移魔法は、行ったことがある場所じゃないと失敗する可能性が高くなるので、カプリちゃんが行ったことがある場所まで転移で運んでもらおうと思っている。


 そしてそこからはカプリちゃんに、飛行魔法で行ける所まで行ってもらい、そこから私達を転移魔法で呼び寄せてもらう──というのを繰り返して進む予定だ。

 一応相手の正確な位置が分かっていれば、そういう転移魔法の使い方も可能らしい。

 

 それによって旅の日程は、劇的に短縮できるだろう。

 で、ランガスタ伯爵領に到着したら、ラムラス様の実家である伯爵家に連絡をつけて、状況を教えてもらうことにしよう。

 

 ……まあ、カプリちゃんがいないと始まらないので、今は待つしか無い。

 出発の準備自体はもう終わっているし、眷属達と(たわむ)れて時間を潰そうかな。


「クルルー、キララー、遊ぼぉー!」


「グゥー(わーい)!」


『ん!』


 クルルは「伸縮自在」で小さくなっているから、ぬいぐるみみたいで可愛いし、キララも蜂なのに意外と毛深くてモフモフなので、癒やされるなぁ。

 

 だが、平穏だったのは、その時までだった。

 

 翌朝、家の前には、縛り上げられた男達が転がっていたのだ。

 ……その数15人……って、多いね……。


「マルル、家に襲撃をしかけようとしていたから、取り押さえておいたぞ」


「ありがと、お姉ちゃん。

 後で血を飲ませてあげるね」


 お姉ちゃんは夜行性だから、基本的に夜は眠らない。

 だから夜間の警備は、お姉ちゃんが主に担当している。


 いやぁ……レベル50超えの吸血鬼がいる屋敷に襲撃をかけるなんて、馬鹿な人達もいたもんだ。

 この世界って、冒険者ですらレベル20を超えている人は少ないからなぁ。

 

 ちなみに現在では、ティティですらレベル20を超えている。

 ただ、初期値が低すぎたのと、戦闘系のギフトを持っていなかったので、たぶんまだレベル10台の冒険者にも勝てない。

 まあ、防御や回復系のスキルを「下賜」してあるので負けもしないけど、レベルが全てではないことは確かだ。


 でもお姉ちゃん、最初から強かったし。

 そのお姉ちゃんが戦闘系のギフト『戦乙女(いくさおとめ)』を得て、更に吸血鬼化して人間をやめた強さを得ている。

 うん、魔王候補以外で、勝てる存在はいないんじゃないかな?


 それはさておき、問題はこの捕らえた男達だ。

 なんとなーく、誰からの刺客なのかは察することができるけど……。


 取りあえず空き部屋に運んで、尋問かな。


「わ、なんですか、これ?」


 あ、ラヴェンダが起き出してきた。

 最近は夜の警備をお姉ちゃんに任せきりだから、すっかり油断して朝まで惰眠を(むさぼ)っていることが多い。

 番犬としては完全に失格だ。


「あ、ラヴェン()、この人達を空き部屋に運ぶの手伝って」


「え、今発音がおかしくありませんでしたか?」


「いいから、この襲撃者を運ぶよ」


「襲撃者!?

 は、はい、ただいま!」


 襲撃者に気付かなかったことを失態だと感じたのか、ラヴェンダは失点を取り戻そうと慌てて動き始める。


 さあ、男達を運び終わったら、尋問の始まりだ。


「くっ、何も話さんぞ。

 死ぬ覚悟くらいはできている!」


「そうだ!」 


 男達はそんなことを言っているけど、この時点で何かしらの組織に所属し、そして上位の者を庇っていることは明白だ。


「ふ~ん、いつまでそんなことを言ってられるかな?」


「拷問には、屈せぬ!」


「拷問なんて、しないよ……」

 

 ただし、『女体化』のスキルは使うね?

 ある意味では人間1人を、まったくの別人へと変えてしまうので、もしかしたら拷問よりも酷いことなのかもしれない。


 だけど、私達の家に襲撃をかけてきた連中に、情けをかけるつもりは無い。


「な……なにをするつもりだ……?」


「君達には、理解できないことかなぁ……」

 

 それから私は男達に対して、1人ずつ「女体化」を使って女性化させていく。

 それを見ていた順番待ちの男達は、恐怖に顔を引き攣らせた。

 中には途中で、「なんでも喋るから」と言い出す者まで出たほどだ。


 えー?

 そんなに怖いかなぁ?

 百合の花園は、素晴らしいところだよ?


 どのみち男のままにしておくと、今後の扱いに困るから女体化させるね……。

 いつまでも監禁していく訳にもいかないし、かといって官憲に突き出しても、私の想像通りならば彼らはすぐに解放されるか、口封じに消されてしまい、結局は黒幕にはダメージは無いだろう。

 それならば彼らを味方に付けて、有効活用した方がいい。


 そして女性化したが最後、私の『百合』に(あらが)って、口を閉じ続けることは不可能だと思う。

 で、口を割った後は、私の眷属として従業員達の護衛役になってもらおう。

 なんか体調が微妙……。

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[一言] 百合の魔王!
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