6 町 へ
暫くすると、キラが草原の上空に姿を現した。
陽が沈みかけて薄暗い空にありながらも、その姿は辛うじて確認できる。
なにせ2m近いサイズの、巨大女王蜂だんもなぁ……。
で、キラは空中を高速で飛び回っているけれど、ただ飛んでいるだけではない。
実際、キラの下にいたゴブリンやオークが、次々に倒れていく。
「あれは……何か起こっているんだ?」
エルシィさんは訳が分からないという顔をしていたけど、キラがやっていることは単純だ。
「あれは『猛毒生成』のスキルで作った毒を、空中からまき散らしているんです。
毒への耐性を持っていないと、触れただけでも即死でしょうね」
「怖っ!?」
私とクルルは毒への完全耐性を持っているけど、持っていないエルシィさんとカトラさんは蒼白となった。
しかもゴブリンやオークにとっては、空中にいるキラを攻撃する術が無い。
今行われているのは、一切の抵抗を許さない一方的な虐殺だと言える。
「あれなら時間さえかければ、キラだけで敵の大半は倒せると思います。
ここはキラに任せて、私達は町へ向かいましょう!」
そんな訳で私は、転移魔法で町に戻ることにした。
「ラヴェンダ、キャロルさん、大丈夫!?」
「ご主人様ー、おかえりなさいっ!」
うん、ラヴェンダは勢いよく私に抱きついてきたので、実に元気そうだ。
「ええ、この程度、なんともないわ」
キャロルさんも問題無し。
我らが家の周囲には、無数のゴブリンやオークが倒れていた。
ラヴェンダのスキル「即死突き」によるものなのか、一撃で倒されたと思われる綺麗な死体とは対照的に、物凄い力で叩き潰されている凄惨な有様の死体が転がっている。
キャロルさんのステータスやスキル構成が武闘家みたいなのは分かっていたけど、やっぱり凄いな……。
というか、拳や足が血に染まっていて、ちょっと怖いんですけど!?
ともかく、家の無事は確認できた。
ただ、町に魔物が入り込んでいるこの状況は、見過ごすことができない。
「え~と、カトラさんはラヴェンダと一緒に、家の防衛をお願いします」
「ええ、分かったわ」
カトラさんは走り回るのが苦手だから、1ヶ所に留まった方がいい。
それに市街地では建物が邪魔で魔法は使いにくいし、この郊外の広い場所での方が戦いやすいだろう。
「クルルとエルシィさんは、町に入り込んだ敵の排除を!」
「おう!」
「グウ(分かったー)!」
町に入り込んだ魔物の数はそれなりに多いようだけど、あの草原のように数十体以上の敵を同時に相手にするような状況にはならないだろう。
それにあの草原での戦いを経て、私達のレベルはまた大幅に上がっている。
単独で戦っても、今更ゴブリンやオークの集団に、後れは取らないはずだ。
命の危険は無い……と思う。
「キャロルさん、店の様子を見に行きましょう!」
「あら、いいの?
町からの魔物の排除を優先してもいいのよ?」
「あの店は私達にとっても大切ですし……。
それにキャロルさんには、この家を守ってもらいました。
今度は私達が恩を返す番です。
まずは店の周辺から、敵を排除しましょう!」
「ええ、ありがとう、マルルちゃん」
そんな訳で私とキャロルさんは、店がある区画へと向かった。
その途中、何度かゴブリンやオークに遭遇したけど、1度に襲いかかってくるのは精々2~3匹で、私達の敵ではない。
キャロルさんに殴られたゴブリンなんかは、頭が吹っ飛んだりしていた。
うわぁ……なんたら神拳みたい。
ただ、私達にとっては雑魚でも、一般人にとっては恐るべき存在だ。
逃げ遅れたと思われる人達の遺体を、私達は何度か見ることになった。
冒険者達も外側からの攻撃に対応するだけでやっとなのか、町の内部に入り込んだ魔物に対しては完全に出遅れているらしい。
結果、生きている人の姿はまだ見当たらない。
みんな何処かへ避難しているのだろうか?
それとも、自宅に引きこもっている?
……う~ん、索敵で気配を探ると、家の中に立てこもっている人もいるようだけど、今のところ魔物が家の中まで入り込んでいる様子は無いから、それで正解なのかな?
ただ、一部には壊されている家屋もあるから、絶対に安全だとも言えない。
でも、何の為に壊したのだろう?
中に入り込む為にしては、外壁には大きな穴は空いておらず、精々壁板を割ってへこませたり、装飾を剥がしたり、柵を折ったりする程度だ。
特に明確な目的がある破壊行動には思えない。
まるで感情に任せて、八つ当たりで壊したかのような……。
……あ。
私はあることに気付いてしまった。
ヤバいな、これはヤバいな!
私の予想が正しいのならば──、
「壊されている……」
茫然自失といった感じで、キャロルさんは呟いた。
大切にしていた店のある場所に辿り着くと、そこには無残に破壊された店の姿があった。
他の破壊されていた家と比べると、その程度はかなり酷かったのだから、彼女のその反応も仕方がない……。
ああ……でも私の予想は当たってしまった。
壊されていた家の共通点は、派手な色だ。
その昔、「闘牛は赤い色で興奮する」なんて言われていたことがあったけど(実際には布の動きに反応しているそうだが)、ゴブリンやオークにとっても、派手な色にはそういう効果があったのだろう。
特にキャロルさんの店は、カラフルだからなぁ……。
まあ、店の中には食料とかもあったので、それを狙ったというのもあるのかもしれないけれど……。
ともかくゴブリンやオークは、いまだに店に対して破壊活動を継続している。
「なにしとるんじゃぁ、貴様らーっ!?」
あっ、キャロルさんがぶち切れた。
そして物凄い勢いで、敵を血祭りにあげていっている。
彼女の冒険者時代って、あんな感じだったのだろうなぁ……。
正直、ちょっと恐ろしいような、頼もしいような……。
まあ、あの調子なら、キャロルさんだけで、この周辺にいる敵を駆逐するのも時間の問題だろうね……。
と、私は油断していた。
「ぐはっ!!」
唐突にキャロルさんが吹き飛ばされ、近くの家の壁に突っ込む。
「え……?」
一瞬唖然としたが、いつまでも思考停止している場合ではない。
え~と、ステータス、ステータス!
……よし、キャロルさんの生命力は、3分の2ほど残っているから無事だ。
逆に言えば、今の一撃で、3分の1も持っていかれた。
しかしゴブリンやオークが、キャロルさんに対してそんなことできる?
いや、できないはずだ。
オークキングでも無理だと思う。
ならば何か別の存在がいる……!
私が直前までキャロルさんがいた場所を見てみると、そこには──、
「子供……!?」
そこには1mほどしか身長が無い、小さな存在がいる。
一瞬子供かと思ったけど、少なくともその姿は人間のそれではなかった。
なんか、額に2本の角があるし……!
明日は用事があるので、更新は休みます。明後日も次回分をまだ書いていないので微妙。
休みの間、お暇ならば私の過去作でもどうぞ。作者名や作者マイページのリンクからいけますので。
特に最近まで連載していた『乗っ取り魂~TS転生して百合百合したいだけなのに、無慈悲な異世界が私の心を折りにくる。』は、本作と少し繋がりがあるかも?




