第61話 ルーシーの散歩とウニ好きの幽霊
今日は特に何もない休日だ。よって俺がすることはルーシーの散歩をして寝ることぐらいだろう。
「じゃあルーシー、行こうか」
「わんっ!(れっつごーなのです!)」
今度は一体何に影響を受けたんだ……
「わふっーー!!!」
……なるほど、大体わかった。さて、神無月公園行くか。
「イリスちゃん、おはよ」
光ちゃんが家から出てきた。
「おはよ光ちゃん、今日も仕事?」
「そうなんだよ。大変なんだよ。じゃあ私は反対側だから」
「うん、じゃあ頑張ってね」
「うん! いってきまーす!」
光ちゃんは駅の方向に走って行った。
光ちゃん頑張ってるな。ネットは雑誌の件以来切ってるからどんなドラマに出てるとか知らないのだ。テレビも別にそこまで見てないし。
「さて、今日もこの難関が……」
「わんっ……(糞してぇぇぇ……)」
来てしまった……今日こそは頼むぞ?
「わふっ!(スッキリしたナリ!)」
寒気がするからその『ナリ!』はやめてくれ! さて、いつ回収するか。回収は一瞬だ。タイミングを間違えたら終わる。……今だ!
ぷえぇぇぇぇぇぇ……
「わふわふわんわんっ!(世の中は不条理である。故にこの私は主に屁をかけてしまったのだ。つまりこれは屁の法則によって出してしまったものではなく、この世の摂理、神からの天命であるのだ。天命、それは神から私へと与えられた使命、私はこの使命を果たさなければならなかった。なぜかと言われると我々は神によって創られし下等生物の一種、人間から見れば親と子である。つまり親の言うことは絶対。例え主が私を育てていようと主はまだ幼女、よって我々は神の使命を聞かなければならないのだ。だから悪いのは私ではない、私に屁をするように命じた神が悪いのである!)」
まさか『わふわふわんわんっ!』1つにここまで深い意味があったとは……ってなるわけないだろ!
「ルーシー! 余計なことは言わない! 誰が幼女なの!」
「わふ?(主ですがなにか?)」
「なにか? じゃない! 私は幼女じゃないの!」
「わふっ?(主は幼女、それはこの世の摂理であり…………)」
あーはいはいわかったわかった! もういいからいい加減語るのをやめろ! 何がこの世の摂理だ!
「わかったから椅子で休ませて……」
「わんっ?(全く、仕方がないなぁ?)」
めっちゃウザっ! コイツ育てたの誰だよ!
「あれ? イリスちゃん?」
椅子の横には月美ちゃんが座っていた。
「月美ちゃん? どうして?」
「私はスバルのお散歩だよ。イリスちゃんはルーシーちゃんのお散歩かな?」
「そうだよ」
「さて、会ったところで悪いけど、そろそろ家のお手伝いしなきゃいけないから帰るね。お母さん1人だと逃げないか心配だし」
……そういえば月美ちゃんのお母さん、自分のことをゴミ同然のように扱うって言ってたな。
「うん、頑張ってね!」
「じゃあまたね。あっ、暇だったらお店に来てね!」
相変わらず抜かりない! こういうところで宣伝していく辺りお店が大好きなんだろうな。
「…………」
『あの? さっきから見えてますよね?』
「…………」
『見えてますよね! 絶対見えてるでしょ!』
見えてない見えてない、幽霊なんて見えてないぞー
『むぅ……そうだ変顔!』
幽霊が突然変顔し始めた。
「ぶっ!?」
『あっ! 今笑いましたね!』
……なんか無理そう。下手に無視し続けるとどこかのGみたいについて来そうだから話してやるか。
「はぁ……それでなんですか?」
『やっぱり見えてるじゃないですか! なんで無視したんですか!』
「普通の人は幽霊なんて見えないの! 今こうしてる間も私は変人扱いされるかもしれないんだから早くして!」
出来ればここから離れたい……理由は……
「ねーねー君だれ? 一緒に遊ぼうよ!」
これだよ。俺を勝手に同い年の女の子と勘違いして話しかけてくるやつ。
「ごめん、私今散歩中なの」
「あっ! ワンちゃん! 可愛い!」
「わんっ!(人気者はツライっすね)」
なに『モテない男が突然女に囲まれた時』みたいな台詞言ってんだよ。
……あの時は怖かった。
もしあの時囲んでいたのが小鳥と朱音とモブのクラスメイトじゃなくてアリサだったらどれだけよかったことか。アリサだったら俺は悠司と一緒に火あぶりの刑にならなかったのに……
「取り敢えずここを離れようか」
『そうですね。今にも集られそうですね。というか集られてますね』
……え?
俺は後ろを振り返るとたくさんの子どもたちがルーシーと俺を囲んでいた。
「…………」
これが本当の八方塞がりというやつか。仕方ない、この手は使いたくなかったけど……
パンッ!
俺が手を叩くとルーシーが目の前に跳んできた。
「わんっ!(おまかせあれ! 主! どうぞ!)」
俺はルーシーに乗り、ルーシーは走りだした。
「あっ! 待ってよ~」
子どもたちには悪いが、ここでおさらばさせてもらう!
「ルーシー、ありがと。ここまでくれば大丈夫だから」
「わんっ!(全然余裕なので気にしないでくだせー!)」
ほう、今後も乗せてくれるということだな? 取り敢えず学校まで行くか。
俺は神無月中学校の校庭まで移動した。
『どこまで逃げるんですか……』
ちっ! こいつ地縛霊じゃなかった!
「それでどうしたら消えてくれるの?」
『私を消すつもりですか!?』
「当たり前じゃん、私にとっては幽霊は邪魔なの」
啓介とかGとかGとかGとか! 幽霊はゴミばかりなんだよ!
『ところでそのコートは? もうすぐ6月ですよ?』
もうそんな時期か……中間テストかぁ……
「別になんだっていいでしょ」
『冷たいですぅ……さっきまであんなにお友達と仲良く話してたのに……』
「知らない、今すぐ消え失せて」
『そうですね、私の心残りはウニが食べたいです!』
うに? あのウニ?
『そのウニです! ウニを最初に食べた人間は尊敬するべきであると思いませんか? 思いますよね?』
「焼き鮭の方が美味しいに決まってるよ!」
焼き鮭オンリーワンっ! 我らが望むは焼き鮭である! 断じてウニなどではない!
『そんなわけありません! ウニの方が素晴らしいです! そもそもウニというのは……』
ウニ好きな幽霊が何かウニについて語っているけど、俺みたいな焼き鮭教徒には全く持って理解不能なお話であった。
「あっ、うん。そうだね」
何を言ってるのかよくわからないけど早く成仏して欲しいし、このままウニについて語られても困るので頷いておく。
『そういう訳でウニが食べたいです! 買ってください!』
なんで俺が見ず知らずの幽霊にウニを奢らなければならないんだ。
『ウニを買ってくれないと一生ついていきます!』
「今すぐ買ってきます!」
『変わり身早っ!?』
俺はルーシーを連れて魚屋に移動した。
「イリスちゃん、らっしゃい」
「おじさんウニと鮭ください!」
「ウニ? それまたなんで?」
「(幽霊に)頼まれたからです!」
「そうかい、合わせて2000円な……メ◯ペイだよな?」
「はい!」
この魚屋が◯ルペイ使えるのがホント驚きだよ。どうみても八百屋と変わりないような見た目してるのに……
「まいどあり!」
俺は商店街から離れたところでウニを差し出す。
『この殻剥きが楽しいんですよ。それでね……』
絶対焼き鮭の方が美味しいに決まってる。だって美味の味だぞ! 美味の味!
俺は帰るタイミングを失い、幽霊がウニを食べ終えるまで帰れなかった。その間、俺は焼き鮭の素晴らしいところをずっと心の中で訴えていた。
ちなみに幽霊はウニを食べたら消えた。
「わふっ(意外と似た者同士に見えた)」
どうやらルーシーは焼き鮭の素晴らしさがわからないようだ。今日は特別にルーシーにも焼き鮭を分け与えて焼き鮭の素晴らしさを教えて、そのまま焼き鮭教徒にしてあげよう。
「わんっ!?」
……え? あいそ◯たーんっ? 凄い面白い作品ですよね。あははっ……
でもこれだけは言わせてください。
『ウニ好きな幽霊さん』は偶然だから! 本当なら『秋刀魚好きな幽霊さん』にしようかと思ったけど、『秋刀魚』はこの先使う予定があったから使えなかったの! 他にもヒラメとかタイでもタコでもイカでもマグロでも良かったけど分かりにくいからウニになっちゃったの! だから偶然なの! 決してパクりとかじゃないから!




