第53話 光ちゃんのドラマと月美さんのお店
俺は今日も小鳥と登校した。最近光ちゃんは学校に来ないことが多い。任務か何かで忙しそうにしている。
「ありがとう小鳥お姉ちゃん」
「じゃあ私は職員室行くから。じゃあね」
小鳥を見送り、俺は教室に入ると人だかりが出来ていた。なんだあれ?
俺は人だかりの中に机があるので、そこに向かった。
……あれ? あそこの席って光ちゃんの席じゃ……
「五十鈴さん凄い!」
「後でイリスちゃんに聞いてみようよ!」
ふあっ!? え!? なに!? 光ちゃん、遂に自衛隊のことバレたのか!?
「あっ、イリスちゃん。聞いてよ。五十鈴さんがドラマに出てるよ! しかも主人公で!」
なんだと!? モブD、本当か!?
俺は即座にタブレットを取り出し、調べる。
……まあ、本名で出てくることはないよな。さて、どうするか。とりあえず中学生子役で検索を……
「……あった」
これがっつり光ちゃんだな。名前は吉田 光ね。
「ちょっと見てみよ」
ガタガタっ!
……なんでみんなして俺のタブレット覗いて来るんだよ。自分の携帯で見ろよ。
『小さくなっても迷宮無しの名探偵! 真実はいつも』
プツン!
間違えた。こっちだ。
『つまり、この事件の犯人は3日前に細工を出来た人物のみということになる』
『だが、そんな人物は何処にも居ないじゃないか! 3人ともアリバイは立証されてるじゃないか!』
『いえ、1人だけいます』
『なんだって!?』
おー探偵役やってる。なかなか上手いじゃん。
『そう、今回の犯人はこの3日間全く警察に監視されておらず、自由に行動できた人。それは……私だ!』
『なんだって!?』
お前が犯人かよ!? 警察無能過ぎだろ!? それぐらい気づけよ!? っていうか主人公捕まったらその話終わりじゃねーか!?
『いえ、犯人は私です』
なんか勝手に自白してきた真犯人がいるんだが……
『私は3日前に予めワイヤーで遺体を固定していたんです。そしてタイミングを見計らった所でワイヤーを切ったんです……
まさか自分を囮にして私が犯人であることを自首させようとするなんてあなたは優秀な探偵ですね』
『あ、あははは……ま、まあ私ですから! こ、これぐらい当然ですよ!』
光ちゃん無能過ぎぃぃぃ!! どっかの迷探偵になっておらっしゃる! っていうかお前が犯人じゃないのかよ!? せめて共犯にしとけ!!
「イリスちゃん、おはよう」
「月美さんおはよう」
「なに見てるの?」
「んーとね。光ちゃんの黒歴史だよ」
うん、これは黒歴史確定ですわー光ちゃん、今後たくさん弄ってあげるから期待しとけよ?
「はい、みんな席着いて、ホームルーム始めるよ! じゃあ号令は三日月さん!」
「起立! あっ、スバルに餌やり忘れたわ。ちょっとあげて来まーす!」
月美さんは教室の扉を開けて廊下に出ていこうとしたところで小鳥に取り抑えられた。
「家に帰ってからやりなさい!」
「でも私のスバルが……白い毛並みの大きなお犬さんが……」
へぇ、月美さんも犬飼ってるのか……ん? 白くて大きい犬?
「お母さんがあげてるわよ! じゃあホームルーム始めるよ! まずは……」
放課後……
今日は部活もないし、早めに帰ろう。たまにはルーシーと散歩もいいな。
「さて、エレベーター使うか」
俺は小鳥に頼んでエレベーターを使う許可書を発行して貰った。これにより、俺は4階だろうが、5階だろうが、気兼ねなく行くことが出来るようになった。
唯一の欠点は知らない先生が同乗してきて、エレベーター内の空気がヤバくなるぐらいだ。
しかも先生によっては話しかけくる先生もいるが、これはまだマシな方で
『若者は階段を使わんか! お前はまだ幼いだろ! 階段ぐらい余裕だ!』
とか言ってきた教頭は『さっさと退職して◯ねっ!』と思ったが、今になって考えると、『幼いなら体力ないからエレベーターを使おう』という結論に至った。
どうも最近は『幼い』という単語を聞いただけで『ジジイ◯ね!』と思ってしまう。口には出さないが、たぶん表情には出てると思う。
「イリスちゃん、私先に帰るね! スバルに餌あげないと!」
速っ!? なんだ今の速度は……まあ、俺も帰るか。
「ルーシー、散歩行こ!」
「わんっ!(拙者、いざ、参る!)」
また変な影響受けてるし……
俺はルーシーと散歩に向かう。今日のコースはいつもと違って確認したいことがあるので、別のルートだ。
「わんっ!(主? あっちじゃないんですかい?)」
「そうなんですかい。こっちですかい」
「わふっ……(こっちなんですかい……)」
この語尾はいつまで続けるつもりなんですかい? おっ、ここだな。犬を連れてもいい喫茶店、その名も『七星』。月美さんのところのお店だ。
「いらっしゃいますー」
独特!! いらっしゃいますーってなんだ!?
「ってイリスちゃん! あら? なんでうちのスバルがそこに居るの?」
「これはうちのルーシーなんだけど……」
「あらそうなの?」
やっぱり同種犬か。まあ今日は喫茶店も目的だったし、ゆっくりしていこうじゃないか。
「じゃあこの券使っていい?」
「いいわよー。はい、これメニューですよ」
俺は月美さんからメニューを受け取り、開くと……
「うえすたんすたーる らんちふぁすと てぃー らてあーと すとろーべれーくりーむふらっぺの?」
……なんだこれ。呪文やわー
「それは『ウェスタンスタイル ランチファースト ティー ラテアート ストロベリークリーミーフラペチーノ』だね」
※適当に食事やカフェとかに関係した英語並べただけです。特に意味はありません。
全然違った……っていうか何このメニューは!? あとメニューの字が汚い!
「もっと簡単な名前はないの?」
「あるわよ。コーヒーのことを示してるんだけど……これだわ」
『泥水』
※これは現実世界には存在しない喫茶店、『七星』のコーヒーの神秘の味ですので気にしないでください。
「今すぐ全国のコーヒー好きに謝ってこい!」
「ちなみに紹介文がこれよ」
『この濁ったお茶、まるで泥のよう。これこそが泥水。間違いないこの味をご賞味ください』
※コーヒー好きの皆様、度々申し訳ありません。これは現実世界には存在しない喫茶店『七星』のみが生み出せる幻の味です。
あくまで不味いのではなく、美味し過ぎて我々の口では泥と同じように感じてしまうのです。
「今すぐ全世界のコーヒー好きに謝ってこい!」
「そんなことよりもこれとかおすすめよ」
そんなことより!?
俺は月美さんおすすめのメニュー名を見た。
『ショートソルオールミルクココアアドリストレットショットマッハキリマンジャロメニーシロップスイカチョコレートバナナアドイチゴホイップダブルグレイトフルフルリーフカプチーノ☆アルゴリズムアストリア@ナナセリュウダークモカラテ!!』
やべぇ、全然わからねぇ……




