第41話 音姉との再開
今日はアリサと小鳥と中学の制服の採寸に来ている。
「では採寸させていただきます」
店員さんは素早くサイズを測っていく。
「お母様、その……実は……ゴニョゴニョ……」
あっ、これサイズないやつだ。まあ、ないなら仕方ないな! うん! 仕方ない! 制服は着たかった! 着たかったけどサイズがないんだから仕方ないな! あー残念残念!
「そうですか……じゃあオーダーメイドで」
は? 小鳥? 一体何を言ってるんだ? っていうかアリサじゃなくて小鳥に言うのか店員さん……
「ところでお姉さんの時はどうしたんですか?」
「えっと……あはは……オーダーメイドですよー」
アリサ、顔に出てるぞ……そして、目が死んでるぞ。
数十分後……
「ではこちらの住所に発送させていただきます。ありがとうございました」
「じゃあ何処か食べに行こうか」
「私はアリスが家で待ってるから先に帰るね。イリス、ちゃんと小鳥お姉さんの言うこと聞くのよ」
コイツは一体俺を何歳だと思ってるんだ。
「じゃあ何処か行こうか」
「そうだね」
俺たちはアリサと別れ、ギャストに向かった。
「ねえ、あそこに居るの琴音さんじゃないの?」
「ホントだ……」
音姉……久しぶりに見たな。元気そう……には見えないな。なんか今にも泣きそうな顔してるし……編集者さんがどんだけ怖いんだよ……
「ほら、エイルさん早く原稿仕上げてください! 今日中ですよ! 今日中! もう1ヶ月も〆切過ぎてるんですから!」
1ヶ月も〆切過ぎてるのにクビにならない図太さ……さすが我が姉だ。ちなみにエイルは音姉のペンネームだ。
「こちらにどうぞ。本日のおすすめはハンバーグカレーです。ではごゆっ……ベビーチェアは要りますか?」
おい。それって3歳ぐらいまでの子どもが使うやつだろ。
「はい、お願いします」
「ではこちらに。ごゆっくり」
「あれ? 小鳥ちゃんじゃないですか」
店員さんは立ち去って行った。
小鳥貴様! っていうか音姉の隣かよ!
「お久しぶりです。琴音さん。この娘はイリスちゃんです」
「可愛いですね。アリサちゃんの妹?」
アリサが聞いたら落ち込むな。
「娘ですよ。ほら、挨拶して」
……ここは人見知り風にしておくか。
「イリスです……」
俺は小鳥の後ろで少しだけ顔を出しながら言う。
「(仕方ないなぁ……バレたら面倒だし乗ってあげますか)すいません、こんな無愛想で……」
「残念ですね。もっと顔を出してくれれば今日中に提出出来るんですが……この分だと無理そうですね」
嫌な予感がするんだが気のせいだよな?
「っ!? イリスちゃんでしたよね? 少し失礼します!」
「きゃっ!?」
俺は編集者さんに抱っこされて編集者さんの上に座らされた。
「……うーん。あまり浮かばないですね……そうだ! こうしましょう!」
ん? 何故にこうなった?
「モフモフですねーこれは捗ります」
「良かった……これでクビは免れた……(ボソッ)」
まあ、編集者さんを救ったと思えばこれくらいは我慢しよう。別に座らされて髪の毛とか触られてるだけだしな。
「ご注文は……」
「あの娘で」
「売り物じゃありませんよ……むしろ私が欲しいです」
何か後ろでヤバいこと言ってる奴らが居るんだが……
「終わりました。イリスちゃん、ありがとうございました」
「では! 私はこれで!」
シュンっ!
消えた!? せめてお金は払っていけよ。めっちゃ食べるだけ食べてるじゃねーか。っと、そうだった今の俺は人見知り設定だ。今すぐ小鳥の背中に行かなければ
「あっ、逃げられてしまいました……」
「お腹空いたんですよ。そうだよね? イリスちゃん」
「(こくり)」
ああ、早く食べたいぞ。
「すいません。ハンバーグカレーとお子様ランチください。あとお子様ランチは全部温かくしてください」
「かしこまりました。こちらガチャガチャのコインになりますので、あそこにあるガチャガチャができますよ」
懐かしいな。ギャストのコイン……
「イリスちゃん、やってきていいよ」
俺はガチャガチャのある方に向かう。
「きゃ!」
ばたんっ! ガンっ!
「あう!」
上からお品書きとお盆が降ってきた……
「痛いよぉ……」
「あちゃー仕方ないなぁ、よいしょ。こっちよ。よしよし、痛かったね」
俺は小鳥に抱っこされながらガチャガチャを回した。
「イリスちゃんはアリサちゃんにそっくりですね」
「ホント似すぎてて怖いですよ……特にこの前なんて5秒間にお皿を4枚を割ったんですから」
……反論出来ねーな。しかも見事に紙皿を避けて普通のお皿だけを割ったからな。
「アリサちゃんならお皿と同時にテーブルすらひっくり返すでしょうね……」
ホンマそれな!(外国人風)
そしたら俺はテーブルの下敷きになってたな。
「イリスちゃんはアリサみたいにならないでよ?」
「(こくり)」
なる訳ねーだろ。誰がどうしたら教室全壊とか出来るんだよ。俺がやらかしたのなんて『ハンドボール投げ顔面衝突事件』と『お餅爆散事件』だけだぞ。あと両足骨折ぐらいだな。
「お待たせしました。お子様ランチとハンバーグカレーです」
ハンバーグにカレーが乗ってるだけだ……ご飯ぐらい付けておいてやれよ。本日のおすすめだろ?
「じゃあ食べようか。いただきます」
「い、いただきます……」
俺って演技ちょー上手くね? ちょっと誰か褒めてくれ!
「美味しい?」
「おいしい……」
「そう、良かった。琴音さんは何か食べないんですか?」
「私はまだ他の〆切が……」
あっ……お疲れ様です。まあ、1ヶ月も〆切過ぎてるんだったら当然だな。
「イリスちゃんを私がいただいてもいいならすぐに終わるのですが……」
この姉は一体何を言ってるんだ? 妹が失踪して、弟が死んだから頭おかしくなったのか?
「いいですよ。イリス、あそこに座りなさい」
小鳥のやつ……貴様それでも人間だと言うのか!
「ほら、座りなさい。座らないなら……」
俺は音もなく移動した。
「はやっ!?」
「モフモフです~最高ですねーティアちゃんといい勝負ですねー」
もうすでに犠牲者が居たのか! 誰だかわからないけど、うちの姉が迷惑掛けてすいません!
2時間後……
「……おトイレ」
「そうですか。では漏らしてください」
「え? ここがどこだかわかりますか? 飲食店ですよ? 頭おかしいんじゃないですか?」
「えっ、そっち?」
「イリスちゃんが初めて会話してくれました!」
え? それが目的? いや、全然離してくれない。ヤバいそろそろ本気で……
「琴音さん! なんだかイリスちゃんがヤバいです!」
「可愛いですねー」
小鳥は無理やり音姉から俺を奪い取り、トイレに駆け込んだ。
「ふぅ、セーフ……」
「(特殊な効果音)」
洋式が使えないのは不便だよなぁ……和式じゃないと便座で低温火傷するし……ホント不便な体だよな。
「(蛇口の音)」
「ありがとう小鳥お姉ちゃん」
「危うく私の買って上げた服が台無しになるところだったわ……」
そっちかい! 確かに白いワンピースだから染みたらヤバいだろうけど、お前のせいで1度コートを含んだ服一式がヤバくなったの俺は覚えてるからな!
その後、音姉から解放された俺は小鳥とギャストを出た。『本日のイリスちゃん貸し出し料金はこれで』という置き手紙と伝票を音姉の元に残して……音姉お金大丈夫かな? まあ、編集者さんが戻って来てたし、大丈夫だろ。
「エイルさん、いまいくら持ってます?」
「900円……」
「一緒に皿洗いしません?」
「あっ、私は執筆があるので……さらばっ!」
「ちょっ!? まさか裏切られるとは……まあ、こんな時のためにこれがあるんだけどね。
すいませーん。(エイルさんの)キャッシュカードでお支払いできますか?」




