第4話 イリスと小鳥
起きたら小鳥に膝枕されていた。
「起きた?」
「ここは?」
「イリスちゃんの部屋よ」
よくこんな暑いところに居られるな。ちょっと温度計見てこいよ。40度って書いてあるぞ。
「熱くないの?」
「この程度大したことないよ」
チート持ちは例え40度の空間もこの程度らしいです。アリサたちを見習えよ。アイツら10分居ただけで汗凄いぞ。
「イリスちゃんの為にこの万能のコートを用意してあげたよ。なんとコートの素材によってコート内部の温度が40度になるように設定されてるの。これがあれば夏だろうが冬だろうが余裕よ! でもちゃんと手袋とヘッドホンはしてね?」
俺は小鳥から貰ったコートを早速着てみた。おーなんだこれ! よく分からんがすげー!!
「どう、琴道?」
「ちょうどいいよ! ありがとう小鳥お……ねえ……ちゃ……ん?」
小鳥はニヤニヤしていた。……俺、この展開ネットの小説で見たことあるぞ。
「やっぱり琴道だったんだね」
「え? いや……これはちが……」
「ずいぶん動揺してるけど? 琴道は幼女になってから嘘をつくの下手になった? 昔はよく見てないとわからなかったのに」
よく見るだけで嘘を見破るお前はなんなんだよ。
「ほら、素直に認めなさいよ。今なら何もしないで黙っててあげるよ?」
万事休す。小鳥はあとから何かと脅してくる可能性があるからここで認めるべきだな。
「……そうだよ! 何か文句ある!?」
「まさか本当に幼女になってるなんて……面白いね」
いや、全く面白くないんだが!?
「それで何がしたいの?」
「いや、別に。琴道に私の凄さをもう一度理解させてあげる為にやっただけだから何もないよ」
もうお前の凄さは十分わかってるよ。
「じゃあイリスちゃんはこれから私の玩具ね?」
「は?」
「どうしたの? イリスちゃんならこうなることわかってたでしょ?」
「いや、だってお前さっき……」
「え? 私何か言ってた?」
もう許さんぞ。お前の彼氏が出来ないこと以外の唯一の弱点を教えてやろう。
小鳥自身以外誰も知らないはずの情報を教えたら小鳥がどんな顔をするか楽しみだ。
「あれは高校1年生の夏休みのこと……」
「急にどうしたの?」
「その日、琴道一行は天文部の活動で夜に部室に集まろうとしていた。しかし、1人だけ来ない人がいた。普段は必ず来るはずの人が何故か居なかった。するとメールが届き、その人は熱を出していたことが判明した」
「それが……どうしたの?」
お? 少し動揺し始めてるぞ?
「その後、星の観察まで時間が余った琴道は宿題をやろうと思い鞄を開けると宿題は入っていなかった。琴道は思い出した。教室の机の中に置いてきてしまったと……」
「ちょっと……それって……」
「琴道は教室のドアを開けようとした。すると誰も居ないはずの教室から声と水の音が聞こえた。その声には聞き覚えがあった。そうそれは……」
「うわあああああ!!」
小鳥の顔が赤くなってる! これは超激レアだ! 初めて見たぞ!
「それからその少女の声は次の年もその次の年も水の音とともに聞こえた。それは一体なんだったのか。それを知っている少年はもう死んだ。ではこれは誰が証明できるのか。それは声を出した少女と幽霊を見ることができる少女だけである!」
「私が悪かったからもうやめて……」
小鳥が涙目になってる……珍しい!
「イリス、小鳥、おやつ持ってきた……わ……よ? どういう状況? とりあえず写真撮らないと!」
パシャパシャ!
「よくわからないけど小鳥が涙目なんて珍しいわね。っていうか初めて見た。何があったの?」
「イリスちゃんが……イリスちゃんが……」
あっ、コイツ!
「イリス? 何をしたのかな?」
「うえっ!? 何もしてないよ!」
ちょっと色々やられたからその仕返しに小鳥の黒歴史を話しただけだぜ?
「嘘を言っても無駄よ? 素直に言いなさい? 何をしたの?」
目がヤバいぞ……正体バレたら殺されるな。
「幽霊さんが言ってたことを言ったら小鳥おねーちゃんがいきなりああなっただけだよ?」
「なんて言ったの?」
小鳥、俺に全てを擦り付けようとしたお前が悪い。自分の犯した罪を償いな。
「えーと、高校1年生の夏休みに教室から水の音が」
「うわあああああ!! やめて、それ以上は……やめて……」
ガチ泣き!?
パシャパシャ!
「えーと、イリス。これ以上はダメよ。小鳥お姉さんは意外と繊細なのよ。傷つけたら謝らないとね」
繊細なんだろ? なら何故追い打ちを掛けるように写真を撮ったんだ?
「うん。小鳥お姉ちゃんごめんなさい。
自分の立場くらい理解しとけよ?(ボソッ」
「……アリサ、今日は帰るね」
「あ、うん。お元気で……」
「また来てね」
「うん、また来るね……」
小鳥は部屋から出ていった。
さすがに可哀想だし、今度詫びでも用意しておくか。
小鳥が帰ってから俺はアリサにお風呂に入れられ、布団の上で暇をしていた。
『まさか俺のイリスたんが琴道だったとはな』
なんで居るんだよ……お前は霊園で永遠に待ってろよ。っていうか啓介の台詞2重カッコになったんだな。あと俺はお前のじゃない。
「どうかしたの?」
『いや、俺もお前みたいな幼女になれる日が来るのかなぁ。って思っただけだ。にしても今のお前からは想像もつかなかったな。すっかり女の子らしくなりやがって。それなのにそんなお前を見破るとは流石小鳥だな』
「アイツがチート過ぎるだけでしょ?」
『それもそうだな。にしてもアイツにあんな秘密があったとはな。アイツが死んだら俺からも攻めてやろう。あの時にさんざんやられた時のお返しをしてやらないとな』
お前じゃ無理だろ。すぐに反撃されて終わるオチが見えてる。やるだけ無駄だ。諦めろ。
「私はもう寝るから。外とかはもちろん、部屋でも話しかけないでよ? 周りからは見えてないんだから」
『そんな寂しいこと言うなよ。俺たちの仲だろ?』
「知らない。私は生前のお前なんて会ってないし、今の私とは関係ない。じゃあおやすみ」
『おいなんか冷たくねーか? 俺は1人で寂しいんだよ。なんか話してくれねーか?』
「すぅーすぅー」
『コイツ、あれだけ寝ておいてまだ寝るのか。子どもっていうのはすげーな』
数日後……
「おはようイリス。今日は朱音お姉さんが来てるよ」
「……おやすみ」
あんな奴に関わりたくもない。ならもう一度寝るのが正しい判断だ。
「ダメよイリス。朱音お姉さんがめんどくさい存在なのはみんなわかってるんだから。1人だけ逃げようなんてそうはいかないのよ」
みんなわかってるなら何故まだ関わってるんだ。アイツは運動部兼部なんだし、そもそもアリサにへばりついてる奴だろ? 俺には関係ない。さて寝るか。
「ほら、イリス。起きなさい」
「すぅーすぅー」
「寝たふりをするなら状況を考えなさい!」
だがしかし、俺は普段から何もすることがないから1日の大半を睡眠で過ごしている存在。ここで寝ることくらい朝飯前だ。
「すぅーすぅー」
「……ホントに寝たよ。もうすぐ小学生なのに大丈夫かな? 仕方ない、朱音は悠司を呼んでなんとかしてもらおう。……もしもし悠司? 今ちょうどイリスが暇してるんだけど……え? 超特急で来る? じゃあお願いね。
もうすぐ寒くなるし、今度イリスのランドセルとか買いに行かないと。そういえば小鳥がコートをくれたからそれを使ってみようかな?」




