第24話 幼女、車イスに乗る
結局あれから守護霊さんがどうなったのかは知らないが、音楽室は特になんともなかった。
一体いつになったら死神と戦うのだろうか……まあそんなことより今日から水泳の授業が始まる。もちろん俺は泳がない。死にたくないからな。
どうした? ブレスレット? 知らんな。あくまで俺は泳がないだけだ。泳げないわけじゃない。そう! 泳げないわけじゃないんだよ!
べ、別に泳げなかったり、ドジ踏んだから保健室にいるわけじゃないんだからな! 水に触れたら危ないから保健室いるだけなんだからな!
「いきなりそんなツンデレ台詞出してどうしたの? イリスちゃんがすぐに溺れることくらい悠司なら予想ついてただろうから有り難かったんじゃないの?」
「誰が溺れるの! あとヒトの心を読まないで!」
コイツしれっとヒトの心読んでくるよな。マジ小鳥さんチートっす。
「誰がチートよ! まあ、イリスちゃんはどうせ水中だろうと転んでおしまいよ」
「ヒトをすぐに何処でも転ぶようなドジにするな!」
全く、ヒトを見た目で判断するのは良くないと思うぞ!
「じゃあその足の包帯と車イスはなんなのよ」
「いや、これは朝転んで階段から落ちただけだから……」
「転んでるじゃないの」
俺は今朝アリサに小鳥を呼ぶように言われたので、小鳥を呼びに行く時に階段で滑って落ちたのだ。その結果、両足を骨折した。不思議とその時に痛みはなかったが、接骨院で医者に足を殺られた。物理的痛みでのガチ泣きは今世初めてだったぞ……
「あれはアリサが悪い! 私は悪くない!」
「全部アリサ(の遺伝子)が悪いのね」
「そうだね、ところでリハビリはいつからやるの?」
「だいたい2ヶ月くらいかな? イリスちゃんは体力とか皆無だからリハビリは時間掛かるよ?」
遅っ! 2ヶ月!? 骨折なら確かにそんなもんだが、なぜここでリアリティーを追求した!? 7日で治せよ! アニメを見習え! アイツら翌週には完治して帰ってくるだろ!
「まあ、任せなさいよ。1週間で治してあげるから!」
確かに要望通りの1週間だが、小鳥がやると体が耐えきれずに1週間で全身骨折しそうだな……俺は生きて帰れるのだろうか……
「それよりも家に置いて来なくて正解だったわね。もし置いて来てたら今頃心配してただろうね……」
「あはは……」
なぜ俺が病院や家に居ないのか。それは午前中に1度入院したが将吾が5分毎に様子を見に来るので、病院に迷惑を掛けないために小鳥に言って病院から出して貰った。家に居ない理由は……まあ、お察しください。それで合ってるだろうから。
「イリスちゃん、授業は出なくていいの?」
「なんで小学生の授業なんてやらなきゃいけないの……タブレットのおかげさまで高校全範囲と大学の一部まで出来るよ」
「授業中に寝てないよね?」
「逆にどうやって起きてるの?」
あんな簡単な問題1秒で解けるわ! ドリル算数とか言うやつも全部まとめて1時間掛からなかったわ!
「授業中に寝てるとその癖がついちゃうからせめて本を読んでるようにしなさい」
小鳥が本を持ってきたので受けとる。
「ありがとう小鳥、でもガチホモ戦隊ホモレンジャーの小説は要らないから返すよ」
「読みなさいよ!」
「捨てるよ!」
「ごめんなさい!」
どんだけ大事なんだよ!
「失礼します。ってイリスちゃん、今日居たんだ。足大丈夫?」
水泳の授業だったからか髪が濡れている光ちゃんが保健室に来た。何かあったのか?
「光ちゃん、さっき来たんだよ。ただ骨折しただけだから大丈夫だよ。光ちゃんはどうして保健室に?」
「え? 大したことじゃないんだけど日高先生が誰かを庇った時に頭打って誰かの名前をずっと呼んでるの。◯◯って……」
「それ重症!」
それが大したことじゃない光ちゃんは普段どんな怪我をしてきたんだ!? 致死レベルの怪我とかざらにあるのか!? っていうかそういうのは着替える前に来るものじゃないか!?
「なんだその程度なら保健室に連れて来ればいいじゃない」
お前も乗っかるな!
数分後……
保健室に悠司が搬送されてきた。
「◯◯、ああ◯◯よ。どうして◯◯は◯◯なんだ……」
それは◯◯が◯◯だからなんだよ……ってそうじゃねーよ! まるで放送禁止用語みたいじゃねーか!? いやたぶんそうかもしれないけどさ!?
「頭、イってるわね」
「そうだね。悠司、いままでありがとう」
「ああ、◯◯……」
ばたんっ!
悠司が倒れた所に謎の白い物体が落ちていた。
「ペロッ……これは!?」
青酸カリ!?
「イリスちゃん何をふざけてるの。白い物体なんて落ちてないじゃん」
「光ちゃんはこんなことも知らないんだね」
「どういうこと!?」
「そんなことより早く教室行こうよ」
俺は悠司にお花を添えて、光ちゃんに車イスを押されて教室に移動した。
「はい、それでは帰りのHRを始めます。まず連絡事項は白石さんが両足を骨折して車イスなのであまり迷惑掛けないようにしてください」
「「「「…………」」」」
おい、その『アイツ遂にやったな』っていう感じの顔はなんだよ。
「先生! イリスちゃんがいつも迷惑かけてると思います!」
「…………そうね」
いくらハンドボールの被害者だからって否定しないのは良くないだろ!!
「イリスちゃん、今後は気をつけましょう」
「なんで今言われるの!?」
「掃除は4班の人! 以上! 号令!」
「起立! 先生さようなら!」
「「「さようなら!!」」」
小学生の挨拶は馴れないな……いつも起立! 着席! 礼! だったからわからんな。
※琴道の号令時のみ。琴道が通っていた学校は基本、起立! 礼! 着席! です。帰りの時のみ起立! 気をつけ! 礼! になります。
「イリスちゃん、帰ろ」
「うん、そうだね」
俺と光ちゃんは下校した。
「光ちゃんは家で何してるの?」
「光? 光はね。おやつ食べて、宿題やって、夕飯食べて、雑誌とか読んで、お風呂に入って寝てるよ」
雑誌か……服に興味ないし、読むこともないな。
「イリスちゃんはどうなの?」
「私は……タブレットで動画みて、夕飯食べて、小鳥お姉ちゃんたちと適当なお話して、お風呂に入って、寝てるよ」
「そうなんだ。なんていうか時代の差を感じるよ……」
雑誌とタブレットだからな。
「宿題はいつやってるの?」
「え? 貰ってすぐだけど?」
「なんで授業中に寝ててそんなにすぐに解けるの……」
それは転生したからなのだよ。
「それはね、わt……むぐっ!?」
ガクッ!
俺は後ろから何者かにハンカチを当てられて眠らされてしまった。
ーー光視点ーー
体力が無いにも関わらず自力で頑張って、自分の車イスを押していた友人のイリスちゃんが急に後ろから来た男の人に眠らされた。
「イリスちゃん!」
「コイツがどうなってもいいのか?」
男はイリスちゃんに刃物を突きつけた。
どうしよう。このままだとイリスちゃんが……
「お前も来い。ほら、乗れ!」
男の人が車に乗るように言った。私が乗るとイリスちゃんは車に放り込まれた。
「イリスちゃん! しっかりして!」
「無駄だ。強力な睡眠薬で眠らせてるから数時間は起きないぜ。その前に携帯を寄越しな!」
すると中にいた別の男の人が携帯を要求してきた。私は携帯を差し出した。
「おう、確かに1つは貰った。もう1つを出せ!」
「えっ!?」
「誤魔化せてるとでも思ったか? バレバレなんだよ。そのイリスちゃんとやらのコートのポケットに携帯を入れてるのはバレてるんだよ。頭が少しキレるようだが所詮はガキだな。ほら、早く出せ。にしてもこの時期にコートとか頭イってんじゃねーのか?」
バレてたの!? どうしよう……折角の希望が……イリスちゃんは携帯なんて持ってないだろうし……
「残念だったな。じゃあ相棒、拘束しとけよ」
「おう、任せておけ! 今回は臨時収入だなぁ。こんな可愛いロリっ娘だけじゃなくて俺たちのおもちゃがもう一度手に入るなんてよぉ」
「ーーーっ!?」
もう一度!? コイツらどこかで!?
「安心しな。お前らを楽しんだ後に外国にでも売り払ってやるよ。ただイリスちゃんは俺らのおもちゃになって貰うがな! 昔のお前のようにな! そしたらお前とは違ってイリスちゃんは死んじゃうかもな! ハッハッハッハッ!!」
「そんな……許さない!」
ガシャ!
手枷で手が動かなかった。
「ハッハッハッハッ! ざまあないな! お前少し眠ってろ、ウザイんだよ!」
男が私を殴った。そして私は気絶した。




