第123話 古典なんて全然わっかんないよ!
「イリスちゃん、明日から中間テストだね」
アイちゃんが理解不能な魔法の呪文を呟いた。
「なにそれ?」
「テストできないとお母さんに怒られるよ?」
小鳥のやつ、こういうところだけはうるさいからな。
……また補習させられるのか。あれしんどいんだよな。俺と同じぐらいの厚さがあるプリントの山を終わらせるまでトイレは行けないし、風呂にも入れない、ごはんは無く、娯楽もない。ただの地獄。
「勉強、しよっか?」
「うん……」
家に帰るなり、俺は日本史から始めることになった。
「ぜんぜん違うんだけど……授業聞いてた?」
「うっ」
微塵も聞いてない。だってアレは呪文だもん。理系にはわからん。
「ただの日本語だよ。ほらここの問題はХидэёси Тойотоми объединил мир……」
ヤバい何を言ってるんだこの金髪少女は……もはや俺には解読できん。解読班はどこにいる……
「……大丈夫?」
「むり」
「私が教えてあげようか?」
葉姉がやってきた。そういえばこの人いま何歳なの? ちゃんと学校行ってる?
「大丈夫! 私これでも中卒だから!」
ずいぶん頼りねーな! 高校ぐらい通えよ!
「まあまあ、そんなこと言わずに! ほらやるよ! まず794ウグイス平安京。はい、復唱!」
「なくようぐいすへいあんきょー」
「もう一回!」
葉姉のよくわからない復唱し続けるだけの講義が始まった。
そしてテスト当日……
「はじめ!」
あれ? なんでかわからないけど分かる。まさか葉姉のおかげ!?
それから順調に問題を解いていき、テストが終了した。
……ん? 昨日って日本史以外何もやってないような? あっ、世界史詰んだ。国語は明日だから大丈夫だけど世界史は終わった。
そしてテスト1日目が終わり、家に帰宅すると小鳥様がいた。
「日本史、頑張ったんだって?」
「うん!」
「でもね。世界史をやらないなんておかしいと思わない?」
いっさい思わないな。だって世界史の先生ならワンチャン途中点とかくれたりするだろうし、世界史って何を言ってるのか全然わからんし。
「もういいわ……じゃあ国語やりましょうか?」
「えー」
「やるのよ?」
「はい」
小鳥様に無理やり国語のテスト勉強をさせられた。
「まあ、現代文の範囲は日本語さえ読めれば大丈夫ね」
そうだな。日本語さえ読めれば余裕だな。そう、読めればな。でもね。読めないんだよ。この漢字なに? ってなる。
「とりあえず古典やりましょうか?」
そして古典のよくわからない授業が始まった。
「……というわけなの。わかった?」
「わかんないよ……」
「え?」
ドンッ!
「わっかんないよ! 小鳥お姉ちゃんの言ってることがひとつも分かんないよ!
小鳥お姉ちゃんが分かるって言ってるもの、何のか分かんないよ! 私には分かんないの!
光源氏って何がカッコイイの? ロリコンなんて嫌だよ! 変態なだけだよ! これのどこがカッコイイの!?
万葉集のどこがいいのか分かんない! 和歌って何なの? 恋愛しかないのの何がいいの!?
そもそも漢詩って何? 中国語? だから何なの!?
置き字って何? 読まなければいいの!?
現在と過去だと、何で過去がいいの? 何で過去の方がいいの? 古いから過去なんじゃないの!?
戦が入ると何でカッコイイの?
『嫉妬とは、ほどよく焼くのがいいのだよ』って、何それただの光源氏の迷言じゃん!
嫉妬なんてさせない方が絶対カッコいいよ! 立派だよ!
普段は色んな女の人に会いに行くことの何が凄いの?
そんなのただの不倫だよ! 不倫しないで全力で農作業取り組む人の方がカッコいいよ!
どうして二つ名とか異名とか色々付けるの? いっぱい呼び名があったって分かりにくいだけじゃん!
漢字でもなんでも返り点つけないでよ! 覚えられないんだよ!
『耳』って書いて『のみ』って読まないでよ!
『自』って書いて『おのずから』って読まないでよ!
『当』って書いて『まさに~べし』って読まないでよ!
竹取物語とか古今和歌集とか日本書紀とか土佐日記とか、ちょっと調べたくらいでそういう話しないでよ!
内容もちゃんと教えてくんなきゃ意味が分かんないよ! 教えるならちゃんと教えてよ!
平家物語に出てくるおっさんの説明されても楽しくないよ……
紫式部も紀貫之も藤原道綱母も和泉式部も、藤原定家も意味不明だよ!
何がカッコいいのかぜんっぜん分かんない!
他の用語も謎なんだよ! 故人とか丈夫とか、所似とか寡人とか何則とか……
名前がいいだろってどういうこと? 雰囲気で感じろとか言われても無理だよ!
徒然草とか十六夜日記とか宇治拾遺物語とか、ちょっとネットで調べただけで知ったかぶらないでよ!
中途半端に説明されてもちっとも分からないんだよ!
日蓮とか阿仏尼の言葉引用しないでよ!
知らない人の言葉使われても何が言いたいのか全然分かんないんだよ!
自分の言葉で語ってよ!!
お願いだから私が分かること話してよ!
古典って何なの? 漢文ってどういうことなの?
わかんないわかんないわかんないわかんない! わかんなーい!!
小鳥お姉ちゃんの言う古典は、さっきから何ひとつ、これっぽっちも、わかんないのぉ!」
俺は泣きながら小鳥に迫っていた。
「あっ、言いたいこと終わった?」
お前酷ぇな!? 俺がこんだけ長いセリフを言ったのに返しのセリフたったのそれだけかよ!!
「じゃあ続きやるわよ」
わかんないって言ったのに……
それから小鳥様による古典の勉強は夜中まで続いた。
古典がわからないからソレを必死に読者の皆様に伝えただけですよ。
つまりこれはただ1人の作者が古典わかんないとほざいてるだけ。断じてパクりじゃない。




