表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/128

第86話 淀川藍里の謝罪

    【main view 和泉鶴彦】



 入学2日目、昼食時。

 俺と藍里はユキ先生——雪野弓くんに謝りに行くため学食へとやってきた。

 だけど見渡す限り雪野くんの姿はない。昨日と同じようにテラスで食事をとっているのかもな。


「つ、つつつつ、鶴彦。ま、まま、待って。待って。待って。こ、ここここ、心の準備ががが」


 藍里が面白いことになっている。

 こんな出来損ないのロボットみたいな様子の幼馴染初めて見た。

 言葉では気負いしているが殴ってしまったことを謝罪する気持ちはちゃんとあるようで、それは服装に現れていた。

 襟付きの白いシャツにグレーのスーツジャケットと同色のスカート。

 普段は見たこともないようなフォーマルな恰好に身を包み、装飾品類も全て外している。


「ほら。あそこにいたぞ。覚悟を決めろ藍里」


「わ、わかったわ」


 雪野くんは昨日と同じ女子を三人とテーブルを囲っている。


「……?」


 だけど様子が変だ。

 そのテーブルは昼食が並んでいるわけでもなければ、楽しそうに談笑しているわけでもない。

 女子三人が険しい顔でうつむいており、雪野くんが宥める様に振舞っていた。

 何か並々ならぬ問題が発生した様子だ。

 この空気の中に入っていくのは中々勇気がいるな。ほら。隣に立つ藍里が完全に縮こまっちゃったよ。

 まぁ、行かなきゃ何も始まらないし、声を掛けてみよう。


「取り込み中の所悪い。ちょっといいか?」


「えっ? ど、どなたですか?」


 雪野くんが驚いた顔で俺を見る。

 まぁ、そうだよな。彼にとって俺は全く関わりのないモブAのはずだ。

 憧れのユキ先生。本当に男だったんだな。未だにちょっとショックだよ。

 恋心は昇華されてしまったが素晴らしい作品を書けるクリエイターであることは間違いない。

 個人的にお近づきにはなりたいと思っているが、それは今じゃない。

 今日の要件は別にある。


「突然申し訳ない。俺は和泉鶴彦って言います。んと、用があるのはコイツなんだ。ほらっ、藍里っ」


 促され、藍里は恐る恐る前に一歩前に出る。

 手を臍下で合わせ、表情を沈ませながら藍里は謝罪の言葉を——


「——やってくれたね。淀川藍里」


「——えっ?」


 藍里の謝罪を制するように雪野君の隣に座っている女子が敵意の言葉を投げてきた。

 藍里から聞いたな。この人は確か水河雫さん。

 同じイラスト科の新入生であり、雪野君の作品にイラストを付けている人だ。

 彼女の鬼クオリティ挿絵はだろぉの異世ペンで見たことがある。

 恐らく藍里と同格か、それ以上のクリエイターだ。


「淀川さん。貴方の狙いは何なの? 雪野君に制裁を与えること? それとも雪野くんを破滅にまで追い込まないと気が済まないのかしら?」


 雪野君の向かい側に座っている美人さん——この人もイラスト科だろうか?

 人形のように可愛らしい女の子がその容姿とは反するように物凄い形相で藍里を睨んでいた。


「あ、あの……」


 何が何だかわからないまま二人に圧されて藍里は完全に委縮してしまっている。


「雫。瑠璃川さん。まだ淀川さんが犯人って決まったわけじゃない。不確定な情報で彼女を責めるのは違うと思う」


「キュウちゃん……」


「雪野君……でも……」


 犯人?

 何のことだろうか?

 俺の知らない所でまた藍里が何か問題を起こしていたのか?

 そんな風に考えていると、雪野君がその場でゆっくりと立ち上がり藍里に向って頭を下げた。


「淀川さん。ビックリさせてしまい申し訳ありませんでした。二人の言ったことはどうか気にしないでください」


 えっ?

 どうして雪野君が謝罪をしてくるんだ?

 謝罪をしなければいけないのはこちらの方だというのに。

 突然頭を下げられ、その場に居た全員が驚きの表情で狼狽する。

 藍里は慌てて姿勢を取り直し、雪野君よりも深い角度で頭を下げた。


「あ、謝らければいけないのはこちらです! き、昨日の無礼な振舞い誠に申し訳ございませんでした!」


「「「「……!?」」」」


 藍里からの突然の謝罪に今度は俺以外の全員が驚愕の表情を浮かべていた。

 それはそうだろう。向こうからしてみればまさか藍里の方から謝ってくるとは思いもしなかったはずだ。


「こ、こちらは謝罪の品でございます。それと……少ないですが……こちら慰謝料の代わりです」


 表書きに「深謝」と記された菓子折りと、お金を包んだ封筒を両手添えで手渡す。

 ネット知識ではあるけれど謝罪の流れを二人で学び、繰り返し練習も行った。

 正式な謝罪など行ったことはないので作法として不格好な所があるかもしれない。

 それでも藍里からの反省の姿勢は伝わっただろう。


「な、なんなのですか!? 昨日急に現れて弓くんのことを殴りつけてきたと思ったら、それだけで飽き足らずネットで追い撃ちまでして! かと思えば謝罪って……貴方何がしたいのですか!?」


 今まで唯一ずっと黙っていた女子がバッと顔をあげて激昂してくる。

 その表情は困惑と怒りが混ざり合っていた。

 ていうかさっきから俺の知らない情報が飛び交ってくる。

 この女性が言っていた『ネットでの追い撃ち』。これが何を示しているのかが俺にはわからない。

 ちらっと横を見ると、藍里も俺と同じように困惑していた。

 藍里も知らない事象なのか?


「あの、今の私は貴方へ謝りたいだけです。昨日の無礼からは想像もできないのは承知です。つい昔の恨みで暴走してしまいました。本当に申し訳ございません。謝罪を……受け取ってはいただけませんでしょうか?」


 『つい昔の恨みで暴走してしまった』。

 藍里……余計な一言を加えるんじゃない。

 心の中では納得言っていないとバラしているようなもんだぞ。

 そう感じたのはきっと俺だけじゃない。

 テーブルに座っている女子3人は眼光を細めてにらみつけるように藍里を捉えている。

 これは出直した方が良いかもしれないな。

 そう——思っていたのだが……


「わかりました。謝罪を受け入れます」


 叱咤されるかと思いきや、予想外の言葉を掛けてくれたのは雪野君本人だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ