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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第65話 恋の雫

 

 【main view 雨宮花恋】



 顔を真っ赤にしながらも揺るぎない強い視線が私に突き刺さる。

 水河さんの想いの真剣さが伝わってくるようだった。


「ず、ずるいです。『愛している』って言い方! なんだかそちらの方が位高いみたいじゃないですか」


「雫ちゃんの気持ちは『好き』程度では収まらないということで」


「ずるいずるい~!」


 あまりに悔しいので胸を掴む。


「……胸なら勝っているんですけどねぇ」


 ズビシッ! ズビシッ!!


 水河さんの連続チョップが私の頭と胸に命中する。


「だから私のちっぱい弄りやめぃ! ずっとノーブラだったのに誰も気づかないレベルのちっぱいで悪かったな!」


「水河さんブラ付けてなかったんですか!? その状態で弓くんの腕に絡みついていたのですか!?」


「だ、だって! 下着も濡れちゃったんだもん」


 だからといって弓くんの腕を引っ掴む理由が一個もないことにお気づきでしょうか?

 この人、油断なりません。

 純真ぶっているくせに見えないところでお色気アピールしてました!


「って、ちょっと待ってください! も、もしかして、し、下も着けてなかったりしますか?」


「…………えへへ」


「ド変態はそっちじゃないですか!」


「ふ、不可抗力なんだよぉ!」


「ノーパンノーブラで男の子に引っ付いてエロゲをするって私以上の異常癖の持ち主ですよ!」


「うぅ、言い返せない……」


 私のライバルさんは色々な意味で手ごわい人でした。

 わ、私ももっと弓くんをドキドキさせられるようなアピールを考えないと!

 とりあえずノーパンノーブラ策は私もやろう。水河さんの技をラーニングです。


「ねね。雨宮さんはキュウちゃんのどういう所が好きなの?」


「わっ、急にガールズトークっぽくなりました! ノーパンのくせに」


「ノーパン弄りやめい。なんか思っていたよりもガンガン心の内を言ってくるなキミ。結構良い性格しているよ」


「弓くんを落とすためには内気の子じゃいけないと思ったので。でも性格イメチェンのおかげで随分弓くんと仲良くなれた気がします」


「……そうだね。正直アピール具合では私は一歩遅れているかな」


 どうでしょうか。

 ノーパンノーブラで接触する時点で私の方が遅れを取ってしまっている感があるのですが……


「質問の答えに戻りますね。えと、弓くんって本当に私の好みドンピシャなんですよ。私、イケメンよりも可愛い顔の男子好きですし、グイグイくる人よりも一緒に並んで歩んでくれる人が好きですし、高身長の人よりも目線が一緒くらい背の方が良いですし、こっちが嫉妬するくらい肌が綺麗な男の子って最強だと思うのです」


「ビシッと雨宮さんの好みにハマったんだね。運命レベルで好みのタイプがキュウちゃんの特徴に一致していたんだ」


 もちろんそれだけではありません。

 一番のクリティカルな出来事といえば私の転生未遂事件。

 あれがあったから私は彼から目が離せなくなった。

 でもあの出来事は二人だけの秘密にしたいので水河さんには内緒です。


「水河さんは弓くんのどういう所が気に入ったのですか?」


 この人の場合、相手の容姿とか自分の理想とかで気に入ったのではない気がする。

 だからこそ水河さんが弓くんに入れ込む理由が気になった。


「んと……実は私ってさ、根暗で卑屈でぼっちだったんだよね」


「う、嘘ですよ!」


 水河さんは私が今まで知り合った女の子の中で一番と言って良いほど明るくて笑顔が素敵な人です。

 そんな方が根暗で卑屈だなんて到底信じられません。


「本当だよ。ほら、どのクラスにも一人はいるんじゃないかな? 休み時間や昼休みに誰とも絡まずに机でずっとお絵描きして過ごす人。その正体が雫ちゃんなのだ」


 確かにそういう方も私のクラスにもいらっしゃいました。

 黒滝さんに見つかると厄介でしたのでその方は隠れてやっていましたけど。


「正直私の高校生活は灰色一色だった。不登校だった時期もあったくらいでさ」


 不登校のお話も正直信じられない気持ちがありました。

 こんなに明るくて才能あふれる人が『学校に行かない』という選択を取った事実。

 恐らく私なんかでは想像もつかないくらい深い事情があるのでしょう。

 私が転生未遂のことを隠したいように水河さんも不登校の事情について隠したいように見えた。

 だから私は黙って彼女の次の言葉を待つ。


「でもね……キュウちゃんとお話している時だけ私は私になれたんだ。在りのままな自分、素のままの自分、そんな私を見つけ出してくれて今の私を作り出してくれた人。そんな男の子が現れたんだよ? そんなの……惚れるに決まってるじゃん」


「わかる……気がします」


 共感できることが多すぎる。

 弓くんと一緒にいると、まるで自分が自分じゃないみたいな……

 自分でも知らない自分の姿を見つけ出してくれるのです。


 今の私がいい例だ。

 高校時代の私に今の自分を見せたら、きっと信じられない気持ちになるでしょう。

 弓くんが私を今のように変えてくれた。

 一緒にお風呂に入ろうとしたり、洗濯物を同じベランダに干したり、一緒にエロゲしたりしているのも、つまりの所弓くんが私を変えたせいからなのです。


「あの男は私達にどんな魔法をかけたのやら」


「本当にそうですよね。女の子二人をこんなに変えてしまうだなんて……不思議な人です」


 ただ一緒にいるだけなのに、それだけであの人の色に染まってしまう。

 あっ、今のフレーズちょっといいなぁ。小説に使おう。


「てなわけで、キュウちゃんのことは雫ちゃんにお任せってことでいいからね♪」


「あー! 何勝手に弓くんを持っていこうとしているんですかぁ! 弓くんは私の物って決まっているじゃないですか」


 急に主張が始まる弓くん争奪戦。

 彼の気持ちなどお構いなしに彼の所有権争いが始まった。


「ライバルだね」


「はい! ライバルです!」


 三角関係かぁ。

 恋愛小説だとドロドロな展開になること必至だ。

 ですが私と水河さんはベッドの中で向かい合いながら小さく微笑み合っていた。

 不意に水河さんの手が私の頬を撫でてくる。


「どうしてライバルがこんなに可愛い子なんだろう……うぅ、私に勝ち目薄すぎじゃない?」


「それは100%こちらのセリフです! 水河さん自分の可愛さに気づいていないのですか!?」


 可愛すぎて今すぐもう一度抱きしめたくなる。

 女の私ですら真っすぐ見つめられるとドキドキしてしまう。

 うぅぅ、可愛いよぉ。甘えたいよぉ。よりによって恋のライバルがこんなに超絶美少女だなんて、神様は私に恨みでもあるのでしょうか。


「正々堂々勝負だよ。全力で勝負してさ、キュウちゃんが最後にどっちを選んでも恨みっこ無しってことで」


 弓くんが水河さんを選んだ未来。

 仮にそうなってしまってもその時に後悔だけはしないようにしよう。

 たぶん相手も同じことを考えているはずだから……


「は、はい! 負けませんからね、ママ!」


 水河さんを『雫さん』と呼べないのは残念だけど、私たちはライバル関係なのだから仕方ない。

 勝っても負けても情や遺恨が残らないように割り切らないといけなかった。


「ねね、もしキュウちゃんと恋人同士になれたら、まず何したい?」


 わわっ、真面目な話から急にガールズトークに戻りました!?

 しんみりした空気を変えようとしてくれたのでしょうか。

 なんという気配り力。早速ライバルに差を見せつけられてしまったようで焦る。


「水河さんが先に言ってくださいよぉ〜」


 茶目っ気を出しながら戯れ合うようにホッペをツンツンする。


「私は〜、そうだなぁ……ず〜っとナデナデしてもらいながら、二人で同じ小説を読んでみたいな」


「あー! 良い! 良過ぎですよ! 水河さん天才ですか!?」


「いいだろ〜っ! 雨宮さんも言えよぉ」


 さっきのお返しと言わんばかりに私の頬を突いてくる。


 私が弓くんと恋人になったらしたいことですか。

 うーん……


「舌を絡め合うようなキスがしたいです」


「欲望に忠実だな!? キミは! ナデナデとか言っていた私バカみたいじゃないか!」


「水河さんもベロチューしたいですよね?」


「…………………………したぃ」


 顔どころか耳や首まで真っ赤にして照れている。

 可愛いぃぃぃ!!

 この人、一体何回私に可愛いと思わせれば気が済むのでしょう。

 もっと……もっと可愛い所を見て見たい。

 もっとこの人の顔を真っ赤にさせたらそれが見られるのでしょうか。 


「二人の意見を合わせて、なでなでしてもらいながらキスしてもらいましょう」


「~~~~~~~~~~っ!」


 水河さんが茹で上がる。

 妄想しているんだろうな。

 妄想だけでこんなに真っ赤になるなんて、実際にその時が来たらこの人はどこまで赤くなるのだろう。

 茹で上がり過ぎて蒸発してしまいそうな危うさがあった。

 ……蒸発させてやりたくなってしまった。


「ナデナデちゅ~の次はいよいよアレですね」


「ア……アレ……?」


「さっき、みーやちゃんがやってたヤツです」


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!」


 茹で上がり具合が加速した。

 わわわ、赤すぎる。

 水河さんのほっぺが私の手よりも熱くなった。

 もう一押しかなぁ?


「私で……練習しましょうか?」


「ふえええ!? れ、練習……って?」


「……ん~~」


 唇を尖らせて徐々に水河さんの顔に近づいていく。

 もちろん本当にキスしたりしませんが、可愛らしい反応を間近で見る為の行為だった。

 彼女の眼前でピタっと止まり、静かに目を開けてみる。

 目を細めてジトっと睨め付けてくる彼女の怒り顔が目の前にあった。

 ギュムっ! と両頬を捕まれる。


「や~~り~~す~~ぎ~~だ~~ぞっ?」


「ぎょ、ぎょめんなしゃーい!!」


 照れ顔水河さん蒸発計画は不発に終わってしまいました。

 可愛かったのになぁ。またいつか再挑戦したいです。


「反省するまでこの毛布はお預けです」


 一緒に包まっていた毛布を私から剥ぎ取り、一人で包まって壁側を向いてしまった。


「わーん! 4月とはいえ毛布無しは寒いですよぉ!」


「反省を態度で示せたら毛布返してあげるぞ」


「ごめんなさい~! お詫びに私のお胸揉んでもいいですからぁ~!」


「雫ちゃんの怒りポイントが50上がった」


「なんでですかぁ~!」


 やり過ぎてしまいました。

 水河さんの声色から結構本気で怒っていることが伺えます。


「せめて……せめてこっちを向いて寝ましょうよ~! 寝ている間に唇奪ったりしませんから向かい合って寝ましょうよ~!」


「雫ちゃんの警戒ポイントが100上がった」


「うわ~~~~~ん!!!」


 結局この日はもう水河さんのお顔を見ることができず、就寝することになった。







 翌日私は毛布に包まった状態で起床する。

 先に眠った私に毛布を掛けてくれた人が居るということだ。


「……えへへ」


 細やかな優しさが嬉しくなり、私は口元を緩ませながら暖かな毛布に包まり二度寝した。


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