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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第58話 キャラクリエイト

「すぐにそっちに行ってやるから待ってろよぉ!」


 それだけ言い残すと雫は通話を切った。

 親友としてこの状況が見過ごせなかったのだろう。


「水河さんここにいらっしゃるのですね。お掃除しておかなくちゃ」


 対して元凶である花恋さんは呑気なものであった。

 静電ハタキ棒と掃除機を持ってダイニングの掃除を始めている。

 本来僕がやらなければいけないのに自分から気づき、さも当然のように掃除してくれる。

 こういう姿は本当に理想の嫁みたいなんだけどなぁ。


「花恋さん。僕は雫を迎えに行ってくるね」


 雫がここを訪れるのは初めてだ。

 近場とはいえ迷うかもしれないので迎えにいってあげなければ。


「いってらっしゃい」


 掃除機片手に手を軽く振ってお見送りをしてくれる。

 新婚みたいなやり取りにドキッとしてしまった自分が悔しかった。







 徒歩5分圏内にあるスーパーの前で雫の姿を探す。

 シャトー月光とマンションアルカディアは大通りを真っすぐ進むだけで到着する。

 雫が寄り道さえしなければ中間点であるこのスーパーを通るはずなんだけど……


「わわっ。キュウちゃんがいる! ど、どうして!?」


「おっと。雫の方が見つけてくれたか。一応迎えに——」


 言葉が途中で止まった。

 文化祭以来の外出着の雫に見惚れてしまったのが原因だった。


「迎えにきてくれたんだ。嬉しい。ありがと。って、どーしたの? なんか硬直しているけど」


「あっ、そ、その、んと、そのお召し物とてもよくお似合いでございます」


「本当にどうしたの!? 雨宮さんだけじゃなくて今のキュウちゃんもなんか様子おかしいよ!」


 部屋着姿の雫は正直見慣れていた。

 前回マンションを訪れた時もそうだったし、いつも通話する時もラフな格好をしていた。


 でも今回はかなりのオシャレさんである。 

 文化祭の時も思ったけど、雫は服のセンスいいんだよなぁ。

 ラベンダー色のブラウスにネイビーカラーのツイードスカート。淡い色のスカーフを首に巻いている。そして雫の可愛らしさを際立たせているホワイトのケープが春風で小さく揺れていた。


「雫は自分の可愛さを自覚しているタイプだね? 自身のキャラメイクが完璧すぎて思わず見惚れてしまった」


 僕が正直な感想を述べると、雫は頬を赤らめて両手で突き出しながらパタパタ手を振ってきた。


「か、可愛くなんかないよ! 背は低いし、髪も切っちゃったから髪型であまり遊べないし、胸も小さいし」


「小柄、ショートヘア、貧乳か。ロマンが詰まっているね。良いと思うよ!」


 今雫が申し上げた3点は小説キャラに例えれば絶対人気が出る神器の要素だった。

 そんなアニメキャラみたいな雫の容姿設定は僕みたいなオタクにはぶっ刺さる物がかなりあると思う。


「キュウちゃんは小柄な女の子は好き?」


「うん」


「ショートヘアは好き?」


「うん」


「貧乳は好き?」


「……うーん」


「最後だけ迷うなや!」


 雫の鋭いツッコミチョップが脳天にヒットした。


「けっ! これだから男の子は巨乳巨乳って! みんな瑠璃川さんみたいな大きな胸がすきなんでしょ。いいもんいいもん。雫ちゃんは一人でちっぱい同好会結成するんだもん。キュウちゃんに送る挿絵のキャラも全員ちっぱいにしてやるぜ」


「じょ、冗談だよ。僕は小さい胸も好きだから! 雫の胸も大好きだよ!」


 ズビシッ!


 再度僕の脳天に雫チョップが炸裂した。


「い、言い回しが変態っぽいよ! ほら、周りの人もなんかざわざわし始めたから早くいくよ!」


 雫は僕の右手を引っ掴みこの場から逃げ去るように駆けだした。

 僕を引っ張りながら隣を走る雫はボソッとこんな質問を繰り出していた。


「本当に小さい胸好きなの?」


「……うーん」


「だからそこで迷うなぁっ!」


 手を繋ぎ走りながら本日3回目の脳天しずくチョップがヒットする。

 隣を走りながら僕は思った。


 ——走っていてもこの子の胸は揺れないな、と。







「到着っと。雫、ここが僕の部屋だよ」


「おぉう。本当に近いね。徒歩圏内なの嬉しいな」


 僕が初めて雫の部屋に行った時と同じ感想を漏らす。

 雫が隣の部屋のドアをじっと見つめだす。


「そして隣が雨宮さんの部屋、と」


「う、うん」


 なぜか声のトーンが一つ下がっていた。


「……雨宮さんずるいなぁ。私もこっちに引っ越そうかな」


「羨ましがってたの!?」


「キュウちゃん。今からでもルームシェアしない? 雫ちゃんをキュウちゃんの家で飼ってみない?」


「飼わないよ!?」


 最近の女の子はみんなこうなの?

 男女でルームシェアとか普通の時代なの?


「ねえ雫。これから男の部屋に上がり込むわけだけど大丈夫なの? 怖いとか思わ——って、もう上がり始めてる!?」


「おじゃましまーす」


 警戒心!

 雫さん! 警戒心をここに置き忘れていますよ!? おーい!


「お邪魔します。わっ、本当に雨宮さんがいる」


「…………」


 雫の登場に気づいていないのか、ダイニングの椅子に座っている花恋さんは僕のPC画面をじ—っと見つめ続けたまま硬直していた。

 若干息が荒い。

 エロゲの続きをやっているのかなと一瞬思ったが音声が全くない。

 それにマウスのクリック音も一切聞こえてこなかった。


「「……??」」


 顔を合わせて互いに首を傾げる僕と雫。

 僕らはゆっくり花恋さんの後ろに移動し、彼女が見ているモニター画面に視線を移した。


 ——メガネ巨乳アイドル女ケ沢雪乃ちゃんの全裸画像がフル画面で表示されていた。


「うわあああああああああああああああああっ!!!」


 僕の秘蔵画像だった。

 慌てて花恋さんからマウスを奪い、慌てて右上の×ボタンで画像を閉じる。


 ——その下から眼鏡美乳アニメキャラ赤井アカネちゃんの裸アイコラ画像が表示されていた。


「うわああああああああああああああああん!!」


 何枚画像を開いているんだ花恋さんは。

 ノートPC本体自体をバタンと閉じ、物理的に視界からシャットアウトさせた。


「あっ!? ゆ、弓くん、おかえりなさい。そ、その、つい手が滑って、えと、『歴史人物』フォルダを開いてしまって、えと、ご、ごめんなさい」


「どうしてピンポイントで秘蔵画像フォルダに手が伸びたの!? フォルダ名を古風にした意味がないじゃん!」


「だ、大丈夫ですよ! お、男の子なんですもん。エロゲだけじゃなくて、むしろちゃんと『そういう画像』も持っているようで、私は安心しましたので!」


 なんという羞恥。

 花恋さんに僕の性癖を全て見られた気分だった。

 PCを見えるところにおいて出かけたのが間違いだったようだ。


 顔を手で隠していると、雫が無言で僕の腕を引っ張って来た。

 紅潮させながらぷるぷる顔を震わせていた。


「やっぱり巨乳好きなんじゃないか! キュウちゃんのバカぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「ち、ちがっ! そういうわけじゃなく——」


 たまたま開いていた画像が巨乳系だっただけでして、決して小さい胸が嫌いなわけではない。

 その事実を花恋さんが代弁してくれた。


「大丈夫ですよ水河さん。胸が小さい女の子のえっちな画像もちゃんとありましたので」


「そ、そう? うーん。なら許そう♪」


「許すんだ!?」


「でも巨乳画像の比率の方が高かったです」


「許さんお前」


 雫の両手が僕の首に巻き付かれ徐々に力が込められていく。

 死にかけ状態の僕の袖を今度は花恋さんが引っ張ってくる。


「胸のことよりも——弓くんもしかして眼鏡の方が好きなのですか? 巨乳比率以上に眼鏡比率が高かったのが非常に気になりました」


「そうだったの!? 初めて知ったぞ!? 意外過ぎる事実だよ! 雫ちゃんに隠し事するなっていったのに~~!」


「殺して! いっそ殺して!!」


 眼鏡に関しては……眼鏡に関しては何も言い訳が聞かない。

 知的な雰囲気の眼鏡美女が恥じらいを見せる姿がたまらないという特殊な癖を二人の美少女に知られ、羞恥で心臓がはみ出そうなくらい大爆音を鳴らすこととなるのであった。


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