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転生未遂から始まる恋色開花  作者: にぃ


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第26話 女同士がエロ系会話している時は「見」に回るべし

「本当に救急車呼ばなくて大丈夫? 大きな病院で診てもらった方がいいと思うのだけど」


「いえ! 先生の手当のおかげで本当にもう大丈夫です」


 保険医に傷の手当てをしてもらい、僕達は保健室を後にする。

 僕の左頬には朝僕が巻いていた包帯よりも大きなものが施されていた。

 血はすでに止まっている。

 どうやら殴られた時、黒龍が持っていたギターピックが頬をかすめてしまい、出血していたようであった。


「キュウちゃん。病院行こうよ。心配だよ」


「雫も雨宮さんも心配しすぎだよ。大きな怪我じゃないから」


「そんなわけありません! だって、雪野さん、思いっきり殴られてしまったじゃないですか! ほっぺも切ってしまって……とってもとっても心配なんです!」


「ありがとう雨宮さん。でも本当に大丈夫だから。見た目ほど痛くないよ」


 雨宮さんも雫も過剰なくらい心配してくれる。

 正直気持ちはすごく嬉しい。それに美少女二人が自分を心配そうに見つめてくるのは胸が高鳴ってしまう。


「キュウちゃん本当に格好良かったよ。友達の為にあそこまで出来る人他に居ないと思う。傍から見ていて惚れそうになったよ」


「あはは。ありがとう」


 惚れそうになったというのはさすがに冗談だろうけど、勇気出した行動が賞賛されるのは救われるものがある。


「雪野さん。本当にありがとうございました! いつも優しい雪野さんが私の為にあそこまで大喧嘩してくれて、本当に……なんてお礼をすれば……」


「雨宮さんも気にしないで。僕が勝手に突っ込んでいった喧嘩でもあるんだから。負い目を感じないでほしいな」


 そう。元はといえば才の里を馬鹿にした黒龍に腹が立ったのが大元の原因なのだ。

 この怪我も云うなれば自業自得。

 雨宮さんには一切の負い目を感じてもらってほしくない。そんな必要なんて一切ないのだから。







    キーンコーンカーンコーン


 チャイムの音が轟く。


『文化祭午前の部は終了いたしました。昼休み後午後の部は13時より開始となります』


 放送の音も続く。

 もう文化祭半分終わったのか。早いなぁ。


「キュウちゃん。私、そろそろ帰るね」


「え? もう帰っちゃうの?」


「うん。新幹線で片道2時間だから。暗くなる前に帰らないと」


「そっか。わかった」


 残念だな、雫。せっかく会えたのにこんな別れ方じゃ後味悪いだろうに。

 そうだ。帰っちゃう前にこれだけは言っておかないと。


「雫、僕さ、進路変えるよ。雫と一緒にノヴァアカデミーにいく」


 そういうと、雫の大きな瞳がより見開かれた。

 同時に僕の右手が雫の両手に包まれた。


「本当!? 本当に!? 嬉しい! 嬉しいよキュウちゃん! やったぁぁぁぁっ!」


 手をブンブン振りまわりながら前面に喜びを示してくる雫。


「僕さ。学びたいんだ小説の道を。そしていつか雫や雨宮さんと肩を並べられるクリエイターになってみせるよ!」


「「…………」」


 振り回されていた右手がピタっと止まってしまう。

 雫も雨宮さんも呆然としたまま小首を傾げている。

 あ、あれ? なんか変なこと言っちゃったかな?


「(水河さん。どう思われますか? この人の今の発言)」


「(この男は前々から自分の価値を超過小評価する節がございまして)」


「(ですよね。ご自身の作品がどれだけの影響力を持っているのか自覚してもらいたいです)」


「(ね。全くの同意だよ。なーにが肩を並べられるクリエイターになりたいだよ。それは100%こっちのセリフだよ)


「(これ以上、こちらを突き放さないでもらいたいですよね)」


「(それな)」


 女子同士がこちらにジト目を向けながら内緒話をしている。

 やたら仲良くなってるなこの二人。いや良いことなんだけど。


「こほん、動機はともかくキュウちゃんが進路を定めてくれてよかったよ。受かれば私たち春から同級生だね。楽しみだよ」


「うん。こちらこそ」


 受験する学科は違えど雫と同じ学校に通えるのは正直胸が躍る。

 何より、小説に関する専門的な知識を学べるのが楽しみで仕方がない。


「あ、あの! ノヴァアカデミーって都心外れにあるっていうクリエイター専門学校のことですよね?」


「そうだよ。雨宮さんも知ってるんだ」


「は、はい。お二人はそこに通う……のですか」


「そうだよ~。今の内から一人暮らしの部屋探しておかないとなぁ」


「あっ、僕もだ」


 まだ受験すらしていないのにすでに合格気分の二人。


「わ、私も! ノヴァアカデミーに入学します!!」


「「ええええっ!?」」


「なんですか! ええええっ!って! 私がノヴァアカデミーに通っちゃダメなんですか!?」


「駄目ではないけど。だって雨宮さんすでにベストセラー作家だし、専門学校に通う必要なんて一切皆無のような気が……」


「それは純文学の話です。私が書きたいのは大衆文学ですもん」


 そういえばそうだった。

 雨宮さんの大衆小説はどうしても純文学っぽさが付きまとう。それを払拭させる術は今のところ見つかっていない。

 ノヴァアカデミーに入学することによってそのキッカケを得られるのかもしれない。

 そう考えると雨宮さんのアカデミー入学にも意味が出てくるか。


「わーい! 雨宮さんも入学してくれるんなら雫ちゃん嬉しい! 学園生活めちゃくちゃ楽しくなりそー!」


「は、はい。私も楽しみです。あの、察していると思いますが、私クラスでは全然お友達がいなくて今まで楽しい学校生活を送れていませんでした。だから私、その、お、お友達の水河さんと一緒に学園通いたいです。ノベル科に入って雪野さんとも同じクラスになってみたいです」


「「雨宮さん……っ!」」


 胸がジーンと鳴り響く。

 なんて嬉しいことを行ってくれるんだ。

 雨宮さんが期待する環境に僕を混ぜてくれることが単純に嬉しかった。


「春からは3人揃ってノヴァアカデミーに進学しよ! 約束だからね!」


「うん!」


「はい!」


 今まで先のことで楽しみなんてなかった僕だけど、今ばかしは卒業後の未来が楽しみで仕方なかった。


「って、私だけイラスト科で同じクラスになれないじゃん! わーん!!」


 いや、そればかりは仕方ないって。僕らは絵を描けないし、雫も小説は書けない。


「――仕方ないわね。私が一緒にイラスト科に入ってあげるわ。よしよし」


「「瑠璃川さん!」」


 不意に現れた瑠璃川さんが雫の頭を優しく撫でる。


「本当!? 瑠璃川さんも一緒にノヴァアカデミー通ってくれるの!」


「ええ。春から同級生ね。よろしく雫ちゃん」


「やったあああああっ! 瑠璃川さん大好きっ!」


 瑠璃川さんの首に手を回して本当に嬉しそうに抱き着く雫。

 瑠璃川さんの口元がだらしなく緩みまくっていた。


「えっと、瑠璃川さん、本当にいいの? 瑠璃川さんの成績なら有名大学にだっていけるでしょ?」


 瑠璃川さんは容姿端麗だけでなく成績優秀というチートステータスも持っている。確かこの前の期末試験普通に学年1位をたたき出していたような気もするんだけど。


「別に大卒の学歴なんて興味ないわ。それよりも可愛い女の子と一緒に学園に通うことの方が私にとって重要よ」


 それでいいのか進路設定。


「瑠璃川さんはノベル科じゃなくてイラスト科の方で学ばれるのですか?」


 雨宮さんが少し残念そうに問いてくる。


「そうね。もちろん執筆とイラスト両方かいていくスタンスは変えていかないわ。でもどちらか片方だけ専行するってなれば『イラスト』の方を学びたいわね。どうやら私、絵の方にステータス寄っているみたいだからね」


 この人、前に僕が文章よりもイラストに感動したって言ったのを根に持ってるな。

 でも本当に瑠璃川さんの絵には感動したからなぁ。イラスト科でパワーアップした瑠璃川さんのイラスト、正直めっちゃ興味ある。


「ねね。全員例のアプリの連絡先教えてよ」


「もちろんいいよ」


「いや、貴方は全員の連絡先知っているでしょうに」


 そういえばそうだった。

 皆が嬉しそうに連絡先を交換している中ぼーっとその光景を見つめることしかできないのが少し寂しい。


「よし。交換完了! グループとか作っちゃうよ」


「それは楽しそうですね。羨ましいなぁ。今度皆さんでどんな会話していたのか教えてくださいね」


「雨宮さんも一緒のグループだよ!? 今の流れで自分だけグループ弾かれると思ったのなんでなの!?」


「気持ちはわかるなぁ。僕は男だからさすがにグループに入れないと思うけど、みんなが仲良さそうで嬉しいよ」


「キュウちゃんも一緒のグループだよ! グループチャットに男子禁制とかないからね!?」


「そうよ。私たちがエロ会話していても何気ない顔で話に入ってきていいわよ」


「入りづらいよ!? その時は『見』に徹するから!」


「でも男性側の意見にも興味あります」


「雨宮さん!?」


 まさか今の流れでこの子が瑠璃川さんにつくとは思わなかった。

 ていうか雨宮さんエロ会話興味あるんか。僕の中の純真な雨宮さんのイメージが崩れていく。


「エロい会話なんてしないよ! し、しない……よね?」


 そこで僕を見られても困る。

 頬の紅潮具合を見るに、一番初心な反応を示しているのはたぶん雫だった。


「やばいわ雪野くん。雫ちゃんが可愛すぎて耐えられないかも。雪野君。試しに手持ちのエロイラストでもグループに送ってみなさいよ」


「記念すべき最初のグループチャットがそれでいいの!?」


「ていうか持ってるんか!? エロイラスト持ってるんか!? どうなんだ親友!」


「持ってないよ! 持っていてもスマホにそんな画像入れておくわけないよ!」


「てことは家にはあるのね。たぶん雪野君はデジタル派とみたわ。今度PC見せて頂戴」


「死んでも嫌だ!!」


「あー。持ってるなこれ」


「ふむふむ。持っているのですね」


 持っているけど!! 確かにデジタル派だけど!!

 んなこと女子ばかりいる空間で言えるわけがない。


「雫ちゃんはR18絵描かないの?」


「描かないよ!? こっちに飛び火来た!! 怖いから本当に帰るね! じゃね!!」


 顔を真っ赤にしながら雫は逃げるように走り去っていく。

 出来ることなら僕も走り去りたい気分だった。


「あっ、ま、待ってください! その、私の為に前々から計画してくれていたと聞きました。本当の本当に感謝しています。ありがとうございました!」


 雨宮さんが深々と頭を下げる。

 そうだよな今日の黒龍騒動を解決するために一番動いてくれたのは雫だ。

 後で僕からもしっかりお礼しておこう。


「えへへ。雨宮さんとお友達になれたし私にもいいことあったよ。こちらこそ友達になってくれてありがと♪ それとこれからもよろしくねー!」


 手を振りながら走り去っていく雫。元気だなぁ。

 元々いい子であることは知っていたけど、それにしたって片道2時間以上かけて手助けしてくれるだろうか。僕は雫のことをまだまだ侮っていたのかもしれない。


「今日はいい日だわ。憎たらしい黒滝は粛清されたし、あんなに可愛い女の子とも友達になれたし、進路も決まったし、意外と花恋ちゃんがエロ系に興味あることをしれたし」


「私だって人並みに性欲はありますよ?」


「私が持ってるR18イラストあげようか?」


「それはお断りしておきます。私まだ誕生日迎えてなくて今は17歳なんですよ。イラストは18歳になってからのお楽しみにしておきます」


 楽しみにしておくんだ!? 人並みに性欲あるんだ!?

 な、なんか聞いてはいけないことを聞いているような……

 ていうか雨宮さんどうしたんだ。性格がやたらオープンになっている気がする。


「花恋ちゃんの誕生日っていつかしら?」


「明日です」


「「明日!?」」


 知らなかった。

 プレゼントとか用意した方がいいのだろうか? いいんだろうな。放課後急いで何か探してこよう。


「じゃあ私からの誕生日プレゼントはR18イラストにしておくわね」


「ありがとうございます。瑠璃川さん」


「いやいや、ありがとうございます、じゃないよ! もっと真面なものを送ろうよ瑠璃川さん! 雨宮さんも嫌なら瑠璃川さんの猥談に付き合わなくていいからね!?」


「え? 嫌ってことは全然ありませんが。瑠璃川さんのイラスト楽しみです♪」


「本気で楽しみにしている顔だ!」


 これが雨宮さんの本当の姿なのだろうか。

 あのオドオドして縮こまっていた彼女はどこへいった。どこへやった神様。


「さすがに個人チャットの方に送るわね」


 この人本当に送る気だ。女子ってこんななの? いつもこんな感じの会話するものなの?


「グループチャットの方でも良いですよ」


「駄目だよ!? 僕も雫もいるんだから個人でやってね!?」


「あら。いらないの? 私のイラスト」


「ほ、欲しいけど! でも駄目だから!」


「あらそう。雪野君にも批評して欲しかったのに」


 何度赤面させたら気が済むんだこの二人は。

 女が男にR18イラスト送るのはセクハラにならないのだろうか?


「後でこっそり見せてあげますね」


 少し口元を緩ませながら魔性の言葉を僕にだけ聞こえる声で放ってくる雨宮さん。

 瞬間、僕の紅潮が最高点に達したことはいうまでもない。


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