第111話 高確率でデートイベントに使われる例の施設
《感想メッセージが123件届いています》
「うっそぉ……」
小説家だろぉのユーザートップページに異次元の数のメッセージが届いていた。
僕はだろぉでは基本通知を受け取らない設定にしている。
理由はウラオモテメッセ―ジの盗作疑惑による誹謗中傷が心に刺さったからである。
だけどアレからかなり時は経過したし、僕自身も前に進みたいと思ったので、昨日通知設定をONに切り替えたのだが、まさか一夜でこんなに感想が届くとは思わなかった。
いや、通知が感想とは限らないか。
恐らく誹謗中傷も中には含まれているだろう。
僕は警戒しながら感想欄を開いてみる。
すると——
『復帰待っていました!』
『新作とても面白かったです!』
『こいつまだ居たんだ』
『「クリエイト彼女は僕の小説に恋をする」
マジで最高です
書籍化キボンヌ』
『盗作野郎じゃん
サラッと新作あげてんじゃねーよww』
『戻ってきてくれて嬉しいです
批判なんかにまけずこれからも頑張ってください』
批判もあったけど、作品に対する純粋な感想の方が多いことに驚いた。
僕のことを認めてくれている人がこんなにいたなんて。
なんて喜ばしいことなんだ。
思わず泣きそうになった目頭を擦り、最後の長文感想を拝読する。
『感想を送れるようになっていて嬉しい
ずっとずっと応援してました
私は今でもユキ先生が盗作したなんて信じておりません
きっと私の他にも応援している人はたくさんいます!
どうかそのことを知っていてほしいです
ずっと伝えたかった言葉をこの場で申し上げることができて嬉しいです
これからもずっと貴方のファンでいることを約束します
「クリエイト彼女は僕の小説に恋をする」
「絶望Re:creation」
どちらも大好きです!
これから更新頑張ってください』
「…………」
決壊した。
感想コメントに泣かされることなんて初めてだ。
嬉しすぎて思わず踊り出してしまう。
「あっ、それ。あっ、それ。わっしょい、わっしょい」
MPが下がりそうな謎の踊りを繰り出して、部屋中を駆け回る。
途中、Tシャツを脱いで頭の上でブンブン振り回しながら行進した。
ふぅ。いい汗かいたな
「「「「「………」」」」」
ふと視線を感じた。
嫌な予感を過らせながらドアの方向へ視線を移すと、花恋さん、雫、瑠璃川さんの3人が困った顔をしながら僕の様子を伺っていた。
「これが一人暮らし男性の真実なんだね」
「解放感に当てられ過ぎでしょ」
「これが頑なに寝室入室を断っていた理由だったのですね」
3人は申し訳なさそうにドアを閉じ、ダイニングの方へ足を進めた。
「ま、まって! 違うから! 今日のは本当に違うんだってばぁぁっ!」
僕は上半身裸のまま飛び出していき、それっぽい言い訳で納得を試みた。
瑠璃川さんは呆れながら僕の話を聞いてくれていたのだが、花恋さんと雫は終始僕の身体の方に視線を向けていた気がした。
「ていうかどうしてみんないるのさ。当り前のように毎日この部屋に上がり込んでくる花恋さんも含めて」
「キュウちゃんのスターノヴァランキング1位おめでとう会と瑠璃川さんのランキング3位おめでとう会を開くために集まったんだよ」
「ずっとクリエイト業に勤しんでいましたからね。今日のお休みを利用してみんなで遊びにいく計画をしていたのですよ」
「嬉しいけど、勝手に僕の部屋を集合場所にしないで!?」
一人暮らしの男性の部屋に上がり込むことに怖さはないのかキミら。ないな。うん。この3人に関してはそんなの一切ないんだった。
「グループチャットでそのこと話していたのに、貴方だけ一向に既読が付かないのが悪いのよ」
「そ、それは、すみませんでした」
昨日は溢れる創作欲のままにずっと執筆していた。
和泉くん達の作品にもらった刺激のおかげで随分執筆が捗ったものだ。
「キュウちゃん。台所借りるね。全員分の朝ごはん私が作っちゃる」
「手伝うわ雫ちゃん」
「私も手伝いますね水河さん」
「ありがと瑠璃川さん」
「私は!?」
「よーしよしよし」
「撫でてごまかされました!」
癒されるなぁ花恋さん。不憫キャラ感がたまらない。
「いいですもん。私は弓くんの着替えを手伝うという特殊任務を遂行するとします」
「よーしよしよし」
「弓くんにまで撫でてごまかされました!」
「というわけで花恋さんはダイニングで座って待っててね」
「うわーん! 皆さんが私を除け者にしますぅぅ!」
不貞腐れるように頬を膨らませて皆の言われるがままに椅子に座らされている花恋さん。
着替えが終わってダイニングに戻ってくると、未だ頬が膨らんだままいじける様に執筆を行っている彼女の姿がそこに在った。
「着いたわ。ここがラブコメ作品のデート舞台になりがちな『例』のアミューズメント施設よ」
「ゲームセンター、ボウリング、カラオケ、スポーツコート、バッティングセンター。それらが諸々揃っている例の施設だね。ま、眩しいっ! こんなデートイベントに打って付け施設が現実に存在しているだなんて!」
「私が読んだ大衆作品にもこの施設がデートの舞台になっている小話がありました! これは良い作者取材になりそうですね!」
瑠璃川さん、僕、花恋さんが目を輝かせながら例のアミューズメント施設を一望する。
花恋さんに至ってはスマホで写真を撮りまくっていた。
「不粋! 小説家共不粋だよ! 純粋に楽しもうという気持ちでやってきたのは雫ちゃんだけか!?」
高校時代、こんな煌めいた施設に来ることなど皆無だった故に、僕なんかがこんな素晴らしいアミューズメントを楽しんでいいの? という謎の謙遜が心の中に渦巻いていた。
そもそも今の状況も超贅沢なんだよなぁ。
SSS級の美少女3人を連れたグループに僕が入っていること事態が『いいの?』って感じだもん。
「さっ、入るわよ。花恋ちゃん達もいつまでも写真撮ってないで早く入っていらっしゃい」
「はーい」
花恋さんは僕の手を握り、建物内に引っ張っていく。
相変わらず冷たくて柔らかい手だった。
先行した雫と瑠璃川さんはゲームコーナーを指さしながら談笑をしている。
「うわぁ。いきなりゲームがいっぱいだ。最近クレーンゲームコーナーって増えたよね」
「雫ちゃん、好きなのを取ってあげるわ。私に任せなさい」
「わーい! って、違う違う。今日は瑠璃川さんのおめでとう会なんだから私が取ってあげなくちゃ!」
美少女二人が戯れている絵は良い。実に良い。
あの二人を眺めて居るだけで今日という日にありがとうと言いたくなる。
「弓くん。私も弓くんにプレゼントしたいです。欲しい景品とかありますか?」
「えっ!? い、いいよそんな! 悪いよ!」
「じゃあ、お互いに景品を取って交換しましょう。それならいいですよね?」
「う、うん。それなら、まぁ」
僕らの話を聞いていた雫と瑠璃川さんも同じことをするようだ。
皆でケース内の景品を物色して微笑み合う。
急遽始まったグループ内のおめでとう会は非常に和やかなムードで開始したのだが……
まさかあんな事件が起こるだなんて、この時も僕らは予想すらしていなかった。




