42:残念そうな顔で俺を見た。
「では、行ってまいります」
なんとか父上殿の説得に成功し、俺はキャット・ルー族への同行を許された。もちろん、ロバート卿の同行が前提だけど。
彼とは別にもう二人、騎士団から同行することになった。俺の護衛役は三人ってわけだ。
「はぁ……気をつけるんだよ」
「ロバート卿やキース卿、ウェイド卿の言うことをちゃんと守ってね」
「兄上ぇ」「にぃちゃまぁ」
家族四人が俺を抱きしめる。
それだけで俺の心は温かくなり、百人力のパワーを得た気分になった。
「なぁに、心配することないにゃ~。お姉さんのうちがしっかり守ってあげるにゃ」
お姉さんって……中身で言えば俺は三十四歳プラス八歳のおっさんなんだけどな。
「そして俺がお嬢をお守りするんで、結果的に大丈夫です」
「にゃ!? オ、オルマンなんかいなくたって、うちひとりで大丈夫!」
「よろしくお願いするよ、オルマン殿」
「にゃー!?」
大丈夫と言っても、キャロはそもそも護衛対象だろう。まさか前線に突撃する気じゃ……。
オルマンさん、大変だろうなぁ。
そんなことを思いながら、俺たちは辺境の村ゼナスを出発した。
目指すは南の砂漠地帯。その丁度中心付近にあるという、巨大な岩山だ。
村を出発した時は徒歩だった。このままずっと徒歩での移動だとばかり思っていたけれど、そうではない。
早朝に出発し、日が暮れる前には足元は硬い土からサラサラの砂へと変わる。
そこにあったのは船だ。サラサラの砂の上に帆船が一隻あった。
「お嬢、お待ちしておりました」
「待たせたにゃ~。さぁ、サンドロックへ出発にゃ~」
船……この船で行くの!?
そういえば、盗賊たちは砂漠を渡る商人の、砂船を襲っているって言ってたな。
「これが砂船、ですか?」
「ふっふっふ。そうにゃあ。どう、凄いにゃ?」
「はいっ。いったいどうやって砂の上を走らせるんですか?」
「ま、それは乗ってみればわかるにゃ。ささ、すぐに出発するにゃから、乗った乗った」
言われるがまま俺たちは砂船に乗り込む。
全員が乗船すると、キャロの号令と共に砂船が僅かに――浮いた!?
「ディルムット坊ちゃん、あれを見てください。あれって浮遊石じゃないですかね?」
俺の護衛役で一番若いキース卿が、マストの根元を指さす。そこには青く光る水晶が浮かんでいた。
浮遊石とは魔石の一種で、浮遊魔法が付与されたもの。
あの魔石、結構大きいなぁ。あのサイズになると、大型モンスターからしか産出されないと思うけど。
なるほど。浮遊石で砂船をほんの僅かだけ浮かせて、あとは帆で風を受けて進ませるのか。
でも行きたい方角に風が吹いていなかったらどうするんだろう?
と尋ねてみると、なんとも原始的な答えが返ってきた。
「決まってるにゃ。漕ぐにゃよ」
「漕ぐ、んですか。へぇ……」
最後は結局、人力パワーってね。
砂船の上で夜を四度迎えた翌日、前方に馬――いや、ラクダの一行を発見した。
ちなみにこの世界のラクダは、足が六本ある。知識では知っていたけど、実際に見るとちょっとキモぃ。
「あれがうちのおとん」
「え?」
「おとーん」
猫の獣人族キャット・ルー。その中にいて、ひとりだけゴリラみたいな人がいる。
キャロが手を振ると、そのゴリラみたいなキャット・ルー族の男が同じように手を振った。
似てない!
でもキャロのお父さんってことは、砂漠のキャット・ルー族の族長か。
砂船が停止し、族長が乗船してきた。
「おぉ、キャロ。ご苦労だった――ん? 人間も一緒か」
「にゃ。この子はディルにゃ。ディルはゼナスの領主の息子なんだにゃ」
「ほぉ。ってことは貴族の息子か。その貴族のお坊ちゃんが、砂漠に何の用だ。ひょろがりじゃ、ここでは生きていけねえぞ」
「あ、はは。あはははは。えっとその」
今にも取って食うぞと言わんばかりの迫力に、思わず半歩下がってしまう。
そこへ両手を広げて飛び込んできたのはキャロだ。
「おとん! ディルはうちが認めた男やっ。あんまり虐めるにゃ」
「な、なんだと!? お前が認めたって、ど、どど、どういうこった!」
どういうこと?
「ディルは確かに強くはないけど、これからは強いだけがいい男じゃないってことにゃ」
「お、お前っ」
「にゃふふん。ね、ディル」
「え……いや、あの……えぇぇ?」
だからどういう意味なんだってば!
「あれがサンドロックにゃ」
「大きな岩ですねぇ。一枚岩なんですか?」
「そう聞いてるにゃ」
キャット・ルー族の本体と合流したあと、更にキンバル族という、こちらは人間種族の砂漠の民が合流した。
彼らはキャット・ルー族からの報告を受け、援軍として駆け付けてくれた人たちだ。
盗賊とサルージ族。彼らを捕まえてレトン商業国に引き渡さなければ、砂漠の民全員が敵とみなされる。
「戦いを挑まれるのであれば、我らは正々堂々と戦う。だが、言われなき不名誉を着せられるのは容認できん」
「それに、なんだかんだこちらは少数民族だ。国を相手にしていたのでは、いかに地の利があっても勝てはせん。子供たちのためにも、ここは戦闘を回避せねばならんのだよ」
と、キンバル族の人たちが言う。
その決断は正しいと思う。確かに彼らは砂漠では強いだろう。
でも、それぞれの部族は千人にも満たないという。
万を超す兵士がなだれ込んでくれば、勝ち目はないのだ。
「してダンドよ。お主はあの中へどうやって侵入するつもりだ?」
「む……むぅ……あの崖は登るのも厳しそうだな」
砂船は見つかるかもしれないっていうんで、今朝から徒歩でここまで移動してきている。日中は熱くて、途中で死ぬかと思ったぐらいだ。
だからこそ、ここまで近づけたってのもある。
俺たちは今、サンドロックと呼ばれる巨岩から三百メートルぐらいの距離にいる。
双眼鏡片手に岩山に入口がないか探してみると、ぐるっと半周した南側にそれはあった。
岩の亀裂だ。そこに人影もあって、どうやら見張りのようだった。
更に半周したけど、他に入口はなし。
正面突破するにしても、あの亀裂はラクダが一頭通れる程度の幅しかなさそうだ。
「じゃ、階段を作りましょう」
そう俺が提案すると、キャット・ルーの族長とキンバル族が残念そうな顔で俺を見た。




