26:出来るなら別にいいじゃん。
ひとまず、水そのもののことは横に置いておく。
出来ることから片付けていかないと、一歩も進めなくなってしまうから。
「で、滑車なんだけど。竹をそのまま使えばいいんじゃないかな」
「そうさな。丸いし中は空洞だし、確かに滑車として使えるだろうよ。ひと工夫は必要だがな」
「うん。ロープが滑り落ちたりしないようにね」
ということで、ひときわ太い竹と、逆に細い竹を切って来てもらった。
太い方の更に太い部分を滑車本体として使う。筒の両端にロープが滑り落ちないよう、輪切りにした竹を差し込んで凹凸を作った。
そして細い竹を中の空洞に通せば滑車の完成。
魔法を使わなくたってこのぐらいは作れる。
「だったらなんで錬金魔法で作るんだよ」
「え? あ、やっぱり楽だし。そ、それに魔法の鍛錬にもなるからっ」
「はぁ……坊はノコギリも斧もハンマーも、この先ずっと使えそうにねぇなぁ」
う……だ、だってそれがなくたって出来ちゃうんだし。出来るなら別にいいじゃん。
気を取り直して、お次は滑車をぶら下げるための土台と屋根だ。これも全部竹で作る。
竹でやぐらを組み、縦割りにした竹で三角屋根に。
さすがにこれはドワーフのみなさんにやってもらった。
で、三十分足らずで井戸の滑車と屋根が完成。
「チク。試しに使ってみてくれないか?」
「え、オレが? うん、まぁいいけど」
日頃から使っている者に、実際の違いを確かめて欲しいからね。
「こんな輪っかを付けただけで変わるのか? うんしょ――え、ええぇぇ!?」
「軽くなったかい?」
「なった! なったよ、すっげぇー!!」
滑車は大きな町なんかに行けば、そう珍しいものじゃない。
だけどここは滑車の素材になる木材はまず手に入らないから、これまでも存在しなかったのだろう。
この世界の人たちは、生まれてからの一生を同じ町や村で過ごす人がほとんど。旅行なんて概念が貴族ぐらいにしかないし。
だから生まれ育った町や村での暮らしで得る知識が全てなんだ。
「よかった。これで少しは水汲みが楽になるかな」
「なるなる!」
そんなことをしていると、町の住民たちが集まってきた。
「ちょ、ちょっとチク。あたしにもやらせてよ」
「本当に軽いのかい?」
「本当だっておばちゃん! な、軽いだろ?」
「あらまぁ、本当だわ。これだと楽でいいわねぇ」
賑やかな声を聞いてなのか、続々と女性たちが集まって来る。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
俺が声を掛けると、しーんっと静まり返る。
女性たちは顔を見合わせると、それから笑みを浮かべて俺を見た。
「なんだい、坊ちゃん。いってごらん」
「あ、ありがとうございます」
よし。女性陣の警戒心は解けたよう……いや、まだ数人は不審そうな顔をしている。
まぁいいか。一歩前進だ。
「この村って、何世帯が暮らしているんでしょうか。えっと、家の軒数とか」
「あぁ、そんなことかい。えぇーっと」
「家は二十八軒あるんだよ。でも空き家が四軒あってね」
「あんたたち、家がなくて困ってる人がいるんだろう? 使っちまえばいいさね」
それがいいことを聞いた!
「村長、とかはいらっしゃらないのでしょうか?」
「村長? あっはっは。そんなのいやしないよ。まぁ一番年長のじいさんが、うちらを代表して役人にかけ合ってくれたりはしてたけどねぇ」
いないのか。
それからも少し女性らと話をし、この村には全部で百十人ぐらいが暮らしていると教えてもらった。
ぐらいっていうのは、それぞれみんなが指折り数えたから、最小で百五人、最高で百十五人とバラツキが出たため中間をとって百十とした。
帰ったら父上に、村長という役職がいないことを伝えよう。
「あの、女性のみなさんは、何かお困りごとってありますか? なんでも出来るわけじゃないのですが、僕には錬金魔法というのがありまして」
「錬金? それって錬金術みたいなものですかい? お薬を作ったり、石をこう、なんていったかしら?」
「錬成よ、錬成。そういうのをする錬金術ですの?」
「あはは。まぁそうなんですが、それ以外にも出来るです。まぁ物作りも出来るっていうか」
それって錬金術っていうの? みたいなことも、普通にやってしまう。
漫画で見た錬金術のそれに近いかな。
女性たちは何事か小声で話し始め、それから年長の人が遠慮がちに口を開いた。
「あ、あのねぇ坊ちゃん。実はその……家の屋根がね」
「屋根ですか? もしかして傷んでいるんです?」
俺の方からそう尋ねると、彼女らは実に嬉しそうに頷いた。
そして屋根が傷んで困っている、ここから一番近い家にお邪魔してみると――。
「え? や、屋根が木材だ。この木材はどこから?」
「あぁ、この屋根はねぇ」
「ゼナスの開拓が始まったのは、今から五十年ぐらい前からだ。それは知ってるか」
突然そう話し出したのは、この家のご主人だ。凄く……凄く逞しいマッチョです。
ちょっとチビりそうになりながら頷くと、ご主人は話を続けた。
「俺らのじーさん世代がここを作ったと言っても過言じゃねえ。そのじーさんたちは、北西のリーガルから移住してきたんだ。あそこは水害の多い土地でな。当時、村が一つ洪水で流されてよ」
「生き残った村の人たちに、ゼナスへの開拓移住が勧められてねぇ」
「そうだったんですか。五十年前から開拓が始まったのは知っていましたが、そんな背景があったことまでは知りませんでした。教えてくださり、ありがとうございます」
俺がそう言うと、マッチョは驚いたように目を丸くした。
ん? なんかおかしなことでも言ったかな、俺。
「き、貴族ってのは平民に頭を下げねぇ生き物だって思ってたが……あんたといい、あんたの親父といい……違う貴族も、まぁ、いるもんだな」
あぁ、それで驚いていたのか。
まぁ俺は前世の記憶に引っ張られてるから、貴族だの平民だのあんまり気にはしないけど。確かに父上殿は変っているかもしれない。でも人としては、ごく当たり前のことをしているだけだと俺は思ってる。
それが出来る父上殿は、良い人間なのだ。
「そ、それで屋根だがな」
「あ、はいっ。木材ですよね」
「これは当時、移住の際にリーガルから持ってきたもんだ」
あぁ、そういうことか。ゼナスで伐採されたものじゃなく、別の土地から持ってきたものか。
となると修繕するのは難しいな。他所の領地から木を売ってもらうしかない。
まぁそのお金はあるんだけど……んー、木かぁ。
竹、使えないかな。




