幕間:国王②
国王という身でありながら、魅了の影響を受けてしまった。
その事実に私は困惑と、自分に対する怒りを感じている。そのせいで王妃や子供たちのことも不安にさせてしまった。
こんなことがもう二度とないようにしなければならないと、我が国では魅了に対する対策が進められている。
特にティモは気合を入れている。
ティモはいつ休んでいるのだろうかと思うほどに、勉強し、国のために動いている。その姿が私は誇らしい。ただ休んでいないわけではないらしい。
侍女たちに聞いたが、ティモはミリセント嬢から届けられたバレンタインのチョコレートを大事そうに食べていたそうだ。
私の事を正気に戻すためにティモはまだ十二歳だったにも関わらず動いてくれた。本当にまだ幼い身でありながらも、ティモは立派だ。
その年にしては、王族としてわきまえすぎているティモは、ミリセント嬢がいなければもっと近寄りがたい雰囲気になっていただろう。
……考えたくもない話だけれども、もしティモの傍にミリセント嬢がいなければ私はもっとティモを忌避していた可能性も高かったのだ。
だからこそ、ミリセント嬢にはティモの隣に居てほしいと思う。
年々ティモの愛情は深まっている。早く結婚したいとよく呟いているようだ。……孫は早くほしいが、あまりにも早すぎることはないかという不安はあったりする。
その辺はちゃんとティモも考えていそうだが。
それにしても魅了の魔法に、反乱の兆し。
そのあたりの問題はティモが王位を継ぐまでの間に完全に問題を解消できれば……と思ってならない。ただし魅了の魔法はともかくとして、反乱に関しては向こうの動きにもよるのでいつ頃問題を解消できるかは分からないが、なるべく対応をしよう。
ティモとミリセント嬢の交換日記は、長く続けられている。
二人とも楽しそうにやり取りをしているようだ。その中身は、プライベートなものなのもあり、何が書いてあるのかは私も分からない。ただあの交換日記をすることによって、あの二人は仲を深めている。その様子を見ると、私はほっとする。
あの二人ならばきっと、例えば魅了の魔法が使われたとしても――問題はないのだろう。何故なら二人とも本当に互いの事を信じあっている。王侯貴族の中でも、いや、国民たちの中でも驚くほどに仲が良いと言えるだろう。
その様子を見ていると、周りもその影響を受けるのもよく分かる。
王城内では、ティモとミリセント嬢の様子を見て、恋人を作ろうとするものが多い。あと恋人に不誠実な態度をしていた者も態度を改めたりしている。
「ギュスナよ、ティモとミリセント嬢は本当に良い影響を与えているな」
「ええ。その通りです。……ティモならば、貴方のように魅了にはかけられないでしょうね」
私が不甲斐ないことに魅了にかけられてしまったのもあり、ギュスナとは時々気まずい雰囲気になる。
王という立場でありながら、あの占い師を王城に入れてしまったのは私なのでそれも仕方がない。
ギュスナの機嫌を取るためにも私はティモの力を借りて必死である。
ティモはまだ十三歳だが、女性の扱いに長けている。というよりミリセント嬢を喜ばせるために学んだのだろう。
ティモに助言を得てやったことはギュスナを笑顔にさせる。我が息子ながら、凄い人たらしだと思う。
実際にティモは、男女問わずに好かれている。それはミリセント嬢も同じだが……。人を惹きつける存在だと改めて思う。
「ところで、貴方。ティモに近隣諸国の王女たちが会いたがっているんですよね?」
「ああ。……ミリセント嬢との仲の良さも見たこともあるだろうに、ティモに惚れているらしい。我が息子ながら罪作りな男だ」
「ティモは女性に好かれる見た目と性格をしてますから……」
ティモは大変女性に惚れられやすい。見た目もさることながら、その対応もスマートだ。
それに王太子という立場にもある。これで周りから狙われないはずもない。
国内の令嬢たちはティモとミリセント嬢の仲の良さを他国より目の当たりにしているから大方諦めているが、他国の者たちはまだあきらめてなかったりするのだ。
下手したら既成事実を作ろうとだまし討ちのようなことをするような者もいるかもしれない。まぁ、ティモならばそのあたりも対策はしていそうだが。
私たちもティモの親として、ティモやミリセント嬢に何かないように気を配らなければならない。
……私が魅了にかけられたことで国が少し揺らいでいるからこそ、我が国が揺らがないというのを他国に見せる必要があるのだ。
そのためも含めて、今度行われるパーティーは大規模なものになっている。
そこには近隣諸国からも人がやってくる。
――それを無事に開催し、ギュスナに見直してもらわなければ。
私はそんなことを考えるのであった。




