幕間:国王①
私の名前は、セレメント・リードレ。
このリードレ王国の国王という職業についている。
私には二人の息子がいる。
一人はティモ・リードレ。十歳の王太子である。
もう一人はキッド・リードレ。二歳になったばかりの王子である。
二人とも私にとって自慢の息子である。
ただ正直な話を言うと、ティモとは少し前まで距離を置いてしまっていた。
というのもティモは子供とも思えないほどに聡明な子供だったのだ。大人びていて、何を考えているか分からない。子供ながらに完成されているような存在だった。
私と王妃であるギュスナは、国王と王妃ということもあり、子育ては平民たちのように付きっきりにするわけにもいかなかった。
そのせいもあったのか、元々からのティモの性格なのか……ティモは私たちが特に構わなくてもすくすくと育った。立派にただ育ち過ぎた。
何を考えているのかも正直分からなかった。
ただそんなティモが婚約者であるミリセント嬢の前では表情を変えると聞いた時には、ミリセント嬢に期待したものである。そしてミリセント嬢は、期待以上の働きをしてくれた。
それが顕著になったのは、ティモとミリセント嬢が七歳の時である。
二人が交換日記をしはじめた。
使い魔を使ってやり取りをしていると聞いた時には驚いた。使い魔というのは、本来そういう日記のやり取りに使うようなものではない。
七歳で使い魔を使役しているティモは、そもそも異常であった。私たちはティモが使い魔の使い方を誤らないようにと目を光らせてもらっていたわけだが、それは杞憂だったようだ。
ティモは交換日記を交わすようになってから、以前よりもずっとミリセント嬢と仲良くなった。その交換日記は二人専用のもので、他の者が見れないようになっているため、どんな会話を交わしているかは分からない。
ただティモが毎回、その交換日記を受け取ることを楽しみにしていることは報告を受けていた。
実際にティモは交換日記をするようになってから、その年頃らしい表情を見せるようになった。ミリセント嬢のおかげでティモのそういう部分を引き出せたのだと思う。
私もギュスナも……自分の息子だというのにティモにどういう態度で接していいのか分かっていなかった。親失格だと言われるかもしれないが、私はティモにどう接していいか分からなかったのだ。
そんな中でティモはミリセント嬢のおかげで年相応の姿を見せてくれて、キッドをギュスナが妊娠した時は妊婦に良い料理などを一生懸命作ってくれていた。
ああ、私たちは何でもできるティモが何を考えているか分からない、どう接していいか分からないと思っていたけれど、ティモは私たちにちゃんと歩み寄ろうとしていて、私たちのことを家族として大切に思っているのだとそれがちゃんと分かったのだ。
だからこそ私もギュスナも今では、ティモと家族として接することが出来ている。
料理をすることによって、ティモは王宮につかえる者達とも距離を縮めたようで、それもすべて「ミリーのおかげ」とティモは笑っていた。
ミリセント嬢をティモの婚約者にして本当によかったと私は思ったものである。
疫病がおこった時も、ミリセント嬢とティモで国に貢献してくれた。二人ともまだ子供だが、立派に次期王と次期王妃をやっている。
二人が揃うことによって、国が発展していくのだと思うと私は今から将来が楽しみである。
ただティモは見るからにミリセント嬢の事が大切で仕方がないといった様子で、ミリセント嬢が他を向いたらどうなるか分からないような……そんな驚くほどの思いの深さを持っている。
その重さにミリセント嬢が引いたりしないだろうかといった心配はあった。だけど、ティモとミリセント嬢が一緒に居るところを見ると、その心配も杞憂だと分かった。
ミリセント嬢も十分にティモのことを思ってくれていることが分かったから。
ティモとミリセント嬢は本当に仲が良く、二人で楽しそうに過ごしている。そもそも仲が良くなければ何年も交換日記なんて交わせるはずもない。
そして今回、ティモとミリセント嬢は視察旅行に出かけて行った。
きちんと視察も込めた旅行を計画するあたり、二人ともしっかりしている。ティモはミリセント嬢と一緒に旅行に出かけられることが楽しみで仕方がないようで、その日を心待ちにしていた。
いざ、旅行に出かけた後、帰ってきて視察での報告書を大量に渡されて驚いたものである。
「ティモ、旅行でこれだけ仕事をしてきたのか?」
「はい。僕もミリーも、楽しんで旅行をしながらこれらを観察したんだ。ミリーと一緒に色んな所に行けて楽しかった」
純粋にただ旅行をしてきてもいいだろうに、しっかり仕事までこなしてきている。
ただ二人ともまだ十歳にも関わずに、楽しんでこの国のために動いているようだ。
本当にティモもだが……ミリセント嬢も、十歳なのだろうか? などと思ってしまう。
十歳にしては大人びているティモとミリセント嬢だが、二人とも私の大切な子供である。ミリセント嬢は、息子の嫁なので私の娘のような存在だ。
ミリセント嬢は大人びている面も持っているが、年相応の無邪気さも持ち合わせていて、それがかわいらしいと思う。そういう所がティモを夢中にさせる部分なのだろうと私は思っている。
「父上、ミリーを幸せにするために僕は頑張ります!」
ティモはずっとミリセント嬢のことばかり考えている。
ミリセント嬢を幸せにするためにとそればかり言っているのだ。そしてミリセント嬢のために動く事は国のためにもなっている。
私は願わくば、この二人がずっと仲良く過ごしてくれて――ティモが王位を継ぎ、孫の姿を見ることが出来ればいいと思っている。
そう言う未来を考えると、私は楽しみで仕方がない。




