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アカウントブレイク  作者: 雨音鏡
第2章 第二弾アップデート――[スキル]実装――
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スキル専用クエスト:白兵戦術師匠のスラウの最期の頼み~陸斗side~

 重々しい口調で話し始めた白兵戦術師匠のスラウ。

 その内容は、この一連のスキルクエストの最後のことだった。


「今までお主には世話を掛けたのぉ。じゃが、これが最後の頼みじゃ」


 スラウは今までの調子とは違い、厳かな雰囲気が漂っている。

 クエストの進行上依頼者が話しかけているのは一人だ。それが、二人同時に話しかけたために同時に話を聞いている構図となっている。

 『最後』という言葉を受け、陸斗と霧香は背筋をピンと伸ばし、静かに傾聴した。

 

【スキル専用クエスト:白兵戦術師匠のスラウの最期の頼み

 依頼者:白兵戦術師匠スラウ

 内容:・ロックゴーレムを[白兵]スキルを用いて倒せ。

    ・アイテム<白の石塊>を入手。

    ・最期を飾れ。

 報酬:[白兵]入手

 備考:期限は一日以内。報酬を受け取ることができるのは1人のみ。

 受諾or拒否】


 二人にクエストタスクが開かれる。

 一通り読み終えた二人は『受諾』をタップし、クエスト依頼を受けた。


「この頼みごとが終われば、お主に言うことは何もない……ゴホッゴホッ。……スラウ流白兵戦術はお主のものだ。これを以て何を為すかはお主が決めると良い、儂はお主を信じておる」


 そう言ってスラウは席を立ち、壁際の台に向かって歩き出した。

 台の上に置いてある伏せてあった写真を持ち上げ、また最初に戻ったかのようにその位置に留まった。

 どうやらこれで話はお終いらしい。


「さてと、今日のところは宿で休むかな」


 椅子から立ち上がった霧香は、大きく伸びをして言った。


「そうだな。クエストは明日の朝から始めよう」


 スラウとは反対側の壁に目を向けると、窓からオレンジ色の明かりが直接入り込むほど太陽が傾いているのが分かった。

 この時間から森に出てしまえば確実に夜になる。夜間の森散策ほど危険なものはない。

 それにせっかく町にいるのに森で野宿するのもおかしな発想だ。

 

 二人の意見が合致したところで、宿を探すために一旦スラウの家を出た。

 夕方の時間帯に町を歩いている人は少なかった。NPCを含めて人の数が少ないのだ。

 今頃プレイヤーたちは宿の中で明日への英気を養っているのだろう。

 そうなると宿部屋が残っているところもほとんどないだろう。


「アンタはもう泊まる宿屋は決まってるのか?」


 町の人が少なくなっているのを見て陸斗が霧香のことを心配して訊いた。

 陸斗の問いに気づいた霧香は首を横に振る。


「いや、まだ決まってない。これから探そうと思ってたところだ」


「やっぱりか。アンタの性格上、行き当たりばったりなのは薄々感じてたからあまり強くは言わないが。そういうところ直した方がいいと思うぞ。先のことはちゃんと考えておくもんだ。そうじゃないと同伴者が困るからな」


「陸斗に言われたくないな。初日に食糧を忘れて私の缶詰を勝手に食ったくせに」


 正論なのに何故か言い返されてしまった陸斗は一瞬言葉を詰まらせた。

 

「……あ、あれは最初から買おうと思ってたんだ! ただいきなり競争めいた事態になって買いに行く暇がなかっただけだ。……あと、缶詰の件はアンタの許しがあったのを覚えてるからな」


「そ、そうだっけか……?」


 霧香はとぼけた顔をしてそっぽを向いた。


「そんで、実際のところどうするんだ?」


 このままでは双方共に傷を負うのは明らかだった。だから陸斗は話の筋をもどすことにした。


「うーん……また野宿でもするか……」


「じゃあ、うちの宿屋に来ますか?」


 仕方ない、と思い陸斗は思い切った決断を下した。

 それに対して霧香は、一瞬ポカーンと表情が固まった。そして次の瞬間、凄まじい速度で五歩後ずさる。


「なんだ、陸斗。お前、私のことを誘ってんのか? もしかしてお前、人妻が好きとかいう性癖じゃないだろうな……?」


 霧香は言いながらも距離を少しずつ開くように後ずさっている。そして目はクズを見るような半開き状態だ。


「ち、違ーよ! 貸すのは柚季たちの場所だ! 勘違いするなよ!」


 顔を真っ赤にして弁解を図ろうとするも、霧香のしたり顔が自分を弄んでることを察してしまった。


「なーんだ。てっきり日頃女子たちが近くにいて溜まってるもんだから、この際人妻で発散させようとかいう魂胆かと思っちまったよ」


「アンタの被害妄想は底知れねーよ……」


 そういうことで、陸斗は霧香を今契約している宿屋に泊めることになった。

 事前に柚季たちには連絡を入れてある。向こうはクエスト関連で少し帰るのが遅くなるとのことだった。


 陸斗たちが宿屋に着いた時にはもう空は藍色よりも暗く、星がいくつか出ていた。

 いたる所で電灯を着ける店や宿屋が出始め、陸斗たちの宿屋も一階のロビーの明かりが外に漏れ出ていた。


「陸斗は、最初から宿屋をとっていたのか?」


 宿屋のドアを押し開けると、中からうるさいほどの騒音が陸斗たちを出迎えた。

 それでも霧香の問い掛けは聞こえていたので、陸斗は声のボリュームを上げて応えた。


「こことは長期契約で宿をとらせてもらってる。最初に纏まった料金を払うことで再契約せずに連日宿泊することが出来るんだ。だから、夜遅くに帰って来ようが、俺たちの部屋は確保されてるってわけだ」


 一通り説明し終えたところで、陸斗たちは宿屋三階の現在宿泊している部屋の階に着いた。

 この宿屋では、部屋に特定の鍵を設けず、契約者またはその関係者というのを宿屋に伝えると、鍵が無くとも部屋に入ることができるシステムになっている。関係者の場合、本契約者の同意が必要となる。

 部屋に入った霧香はまず、物の配置に驚いた。

 正面には外を見渡せるほどの大きな窓。そして、その近くに三台のベッドが設置されている。

 しかしこれだけでは霧香は驚いたりしない。驚いたのはそれとは別のことだった。

 一台のベッドに限って仕切りのようなカーテンが引かれている。それはどこか学校の保健室のベッドを連想させた。

 それが気になって、霧香は疑問を陸斗に投げてみた。


「なんで、あのベッドだけカーテンが引かれているんだ?」


「ああ。あれは俺のベッドだ。柚季が、俺が何かやらかさないように、と仕切り用のカーテンを取り付けたんだ。寝る時はあれを閉めてる。柚季は用心深くてね、カーテンに鈴まで付けやがった」


 そう言って陸斗はカーテンの上部にある銀色の鈴を指さす。数は一個ではない。カーテンが動けば反応するようにいくつも取り付けてある。それだけで陸斗の仲間からの信用度合いが窺いしれた。

 だが、急に女性を同じ部屋に泊めるから、ということをあっさり受け止めた辺りは、それだけ信頼されているということでもある。霧香は陸斗のチーム内での信用がどれほどなのかよく分からなかった。


「こんなことをするくらいなら部屋を分けていればよかっただろうに。一部屋もなかったわけじゃないだろ?」


「まあ、同じ部屋にしようって言ったのは、美姫なんだがな。最初はそりゃあ柚季に猛反発されたさ。だけど美姫が『チーム内の資金を無駄に減らさないため!』って言ったら柚季がそのまま承諾しちゃった、というわけでこういうことになったのさ」


 もちろんそこに陸斗の意思なんてものは一切反映されていないのは確かめるまでもない。チームのリーダーは陸斗なのに。

 

「そんな事情があったのか。……まあ、私のところも男女構わず寝泊りしてるから訊くのは無粋というものだな」


「性格は男っぽいからいいんじゃないか」


「何か言ったかな、陸斗君」


 気づくと陸斗の首には霧香の腕が回っていていつでも絞める態勢に入っていた。一瞬のことで逃げ遅れた陸斗は観念して、前言撤回に努めた。


「な、なにもいってませんよ? いや~女性らしい霧香さんはミリョク的だな~」


 途中から自分が何を口走っているのか分からず、そのまま流すように口にしていた。


「ふん。心にも思ってないことを言いよって」


 何故か霧香は拗ねたように唇を尖らせて言うと、あっさり陸斗を解放してくれた。

 訳も分からず解放された陸斗は、九死に一生を得たような安心感で自分のベッドに倒れ込んだ。実際には宿屋内で体力の減少また死亡はないため、ただの脅しにしかないらないことを陸斗は後から知るのだった。

最近なかなか思い通りにストーリーが動かないことが悩みになりました。

感想やアドバイスなどをいただけたら嬉しいです。

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