九百六十四生目 傀儡
払う金額は問題ではない。
それよりも騙されたとはどういうことなのか?
そっちのが気になる。
「騙された……って?」
思っていたら弟のハックが首をかしげた。
「……この借金は、賭けだけじゃないんだ。紹介された先でこの方に出会って、飲んで泊まって、ホイで、今日も……それだけでとんでもない金額になり、その分取り戻すためと中央カジノに案内されてさぁ、そしたら、よくわからないままどんどん賭け額だけ高くなって……」
「はぁ、どうせ前の負けを取り戻すためにさらに注ぎ込んだだけなんだろ? しかも酒を飲みながらさあ。それじゃあ身を持ち崩すだろうな」
「なんか、うまいこと勝てないんだよ! おかしいよな……普段こんなことやらないから余計だ……やっちまった」
うーん……これがVVの仕業としても。
女性のほうは心理をスキルで覗いても割りとオロオロしているだけだ。
心配という面のほうが大きい。
エイナは困惑のまま。
この状態で動かすには……いや逆かな。
「足止め、か」
私のつぶやきにみんなが少し思案顔をする。
確かに私達なら20万シェルを用意するのは出来る。
しかし手持ちでは無理だ。
支払うには1度手続きしてこなくてはならない。
もしここがVV単独なら蹴り飛ばして出ていくことも出来るだろう。
しかし実際はここで息づく人々がいる。
私達が彼らに対して不誠実な態度を取るのは違う。
こちらの事情に巻き込むものではない。
VVも私達のことを横暴な貴人という見方はしていないはず。
「ワタシ達がこれから会う相手にここで大暴れして、無理やりとんずらするっていうのをさせないため、か」
オウカが話すことにみなそれなりの納得を示す。
VVのことも神であることもそして多分対峙することみんなに伝えてある。
そして多くのものが神だと知らないことも。
エイナは無表情かつ無心を装っている。
ただコレはここで逆効果だ。
暴れるかもしれないって話しているときに想定済みみたいな態度を取るのは。
雇った女性ズはみんな少なくない動揺が走っている。
巻き込んでごめんね。
後で謝ろう。
「あ、あの、一体なんの話が……?」
「おいおいVVはここの管理者でも有るんだ。いいたか無いが旦那たち、やりあうのはよしてもらえないか?」
「ん〜……」
「大丈夫だ、別に本当に戦力で殴り込もうって話じゃないから。ただ、向こうが何かふっかけてくるかもしれない、そういう時どの手を使うか……って話だな?」
「うん、そうだと思うよぉ」
「ですね。まあいくつかは考えられますが、今のところ大きく路線変更せずで良いんじゃないでしょうか?」
「わかりました、そそうのないようにします……!」
最後にミアが締めてなんとかその場はおさまった。
ダンは全然ついてこれていなかったが。
借金で頭いっぱいらしい。
私達はダンが一段落して身だしなみをととのえてから歩みを進める。
その間同好会の面々からこっそり話を聞く。
「……あの私が最初に降り立った領地の領主一族が、偽装を?」
「ええ」
別チームが独自に集めた情報らしい。
「偽装そのものは珍しくないけれど……それが、領主に関することと、年代?」
「ええ。まず領主の代替わりは病死ではありませんでした」
領主が代替わりしたことは知っていた。
そしてそれが子供で子供のかわりにと実験を握ったやつらが操っていると。
いわゆる摂政だ。
忠臣ならば幼き頃を支える名君に。
しかし腹芸の得意な狸だったならば……ということ。
ただし前提が違うのならばということである。
「領主は蒸発しました。突如行方不明になったのです。原因はおそらく……彼の権力社会では有名だった傾向です」
「蒸発って……傾向? 他人にあまり自慢ができないタイプの?」
「ええ。領主は有名な色狂いでした。そのために非合法な手段も取っていたと噂されています」
わぁ……
前の領主のときはきっと領地経営はすごくちゃんとやれていたんだな。
ただ彼は2枚の顔を使い分けていたと。
「それで何かに巻き込まれたと?」
「非合法なことをして何時までも無事でいられる者は、よほどの幸運の持ち主だけですから。そして蒸発したのは、本当はおよそ15年以上前です」
「そんな……!? それだとおかしいことになる」
「ええ。領主の子供のことですよね」
摂政は当然領主であるべきものが幼いから成り立つ仕組みなのである。
消えたのがそんなに前だと子供の年齢は……
「現在の領主、つまり元領主の子は30代後半、そして元々摂政を取っていた者たちの思考誘導に染まっており、既に傀儡です」
うわぁ……
うっわぁ。
色々と救えない。




