九百六十一生目 陰謀
ハックと無口な女性は絵画展を歩いていた。
というかどちらも対して言葉を交わしていなかったらしい。
絵の前で止まってじっと見つめて。
「……」
「……」
沈黙が場を支配する。
ただ全く静かな場というわけでもない。
豪華な場には人々がいて誰かが歩きうなりそっと見守り布が擦れる。
そういった音のうねりが想像以上に大きく聴こえる。
静音こそ騒がしいといった様子の空間。
そうしてどちらともでもなくふいに歩みが進められる。
彼と彼女の関係はあまりに奇妙だった。
どちらも美術に興味がある同士だ。
互いの姿などお互い見ていないのに同じものを見ている。
そして同じ空間にいるのだからこれ以上の語りはなかった。
あまりに静かな空間。
そしてあまりに賑やかな空間だった。
夜。
私達は再びR.A.C.2ホテルへ戻ってきた。
ユナは完全にダウンして寝ている。
それに対してあたたかい笑顔を向けているのは剣士の女性。
なんでかインカとすごい汗をかいて汗を落としに戻ってきていた。
無口の女性はハックと共に小さな美術品のお土産みたいなものを見つめ合っている。
なんというかなぜだかいい雰囲気になっている。
私達だけか? 変な感じになっているのは……
「そろそろ、夕餉の仕度が整ったようです。ぜひどうぞ」
というエイナの掛け声と共に部屋から出て行く。
ユナも「ごはん!?」と飛び起きた。
使った栄養素の補充は足りないらしい。
もはや隠すまでもなくエイナ発案だろうビュッフェ形式の食事だった。
ビュッフェ自体は蒼の大陸の一部にあるだろうがはるか彼方のここ翠の大地にあるかと言えば……ここだけだろう。
ちなみに私達は取りに行かない。
一声かければ1番できたてホヤホヤのものをそのまま持ってきてくれる。
「お、おいしいー! このパスタ、モチモチしてます!」
「やっぱり翠の大地は、サラダが驚くほど美味しいよなあ……野菜系の料理が当たりが多い」
「旦那さん、食ってるかい! ここなら骨付きの肉がやはりオススメだよ、ステーキだからな!」
「本当に名前も聞いたことのない家畜だ……それなのにこんなに美味しい肉が取れるのか」
「……はい」
「ありがとう、あ、この果物すごくみずみずしいよね。はい、お返し」
私達は各々贅沢に楽しませてもらえる。
食べる物は全部美味しいし状態が良い。
かなりしっかりした仕組みがあるんだろうな……
エイナは当然のようにこの時間は離れている。
つまり会話チャンス。
「それで、このあとどう備えようか?」
「このあと、ですか?」
「ああー、VVに会いに行くってやつだっけか」
「「VV様に!?」」「…………!」
あれそういえば言っていなかったっけ。
女性たちが食いついた。
私の顔を真剣に見つめている。
「やっぱり黒V.I.P.様は格が違うねえ!」
「……ちょっと、たのしみ」
「しゃ、喋った!?」
ユナだけ違うところにも驚いているがすぐにこちらへ視線が戻ってくる。
よく見たり聞いたりすると明確な言語化はせずともわりと話しているよそのニンゲン。
まあはっきり言葉を発する意志が珍しいということなのだろうが。
それで話の続きだ。
「ともかく、VVはわざわざ招き入れてくるあたり、かなり自信があるはず」
「トラップがあるということか? だとしたら、退路は確保しておかないとな」
「今回はメンバーが多いから、そこに、気をつけないとね〜。みんなも行くよね?」
「うん。話はみんなに通してはある」
いつもの念話連絡網である。
まあダンあたりがなんだか酔ってて不安だったけれどゴウあたりに言い含めておいたから多分大丈夫。
ちゃんと全員で乗り込みたい。
ぶっちゃけ人質とか取りそう。
固まっていたほうが安心だろう。
……顔のない神は共通点はあるもののその共通点以外はまったく違っていると思ったほうが良い。
つまり前のパターンでやってこなかった展開や考えそれに目的を持っているだろう。
そしてどうせろくでもないのだ。
1柱であるリュウは1国を背後から実質支配していた。
ならばVVがさらに趣を変えて1つの大陸支配……ゆくゆくは世界全体に自身の領域を展開するつもりかともしれない。
その時に集まる信仰は……力は……果たしてどこまでいくのだろうか。
それはもはや顔のない神を超えたなにかだ。
その足がかりとしてこの大地全体をVVの神域下に置くだけでえげつない。
ただでさえ人形たちによる全世界攻撃が頭を悩ましているのに……
とか考えていたのはやはり直感が働いたのだろうか。
私へ2つの信号が来た。
お前の託した力が目覚めるときだと。
アヅキとジャグナーにたくした神使の石が目覚めようとしていた。




