九百五十八生目 干渉
さて同じくらいの時間に別のみんなが何をしていたかというと……
ここまで目立った話が出てこなかった諜報員こと暗部的な方たち。
影やら草やらとしての活動をする彼らは私に確実に情報を流すがそこまで目立ったエピソードはなかった。
ちなみに彼らは全然自分たちの呼び方を決めてくれないので最終的に同好会としか言いようがなくなるけれど。
そんな彼らは持ち寄った情報を交換しあいながらオープンカフェの1テーブルで話し合っていた。
見た目としては黒スーツおっさんが3人だが実態は魔物3匹だ。
「やはりここは異常だな」
「ああ、他の地域と文化差がおかしい。ここの所だけまるで時代が変化したかのようだ」
「見てみろよ、これ」
ひとりが取り出したのは闘技場のぬいぐるみ。
それはとてもふわふわでしっかりしていてかわいらしく。
「みてみろよ、これ。デフォルメーションデザインというのか? それと、このクオリティを出す謎の製法。女闘士の人形らしいが……」
それはぬいぐるみ。
ぬいぐるみとは地球でも19世紀後半にやっと商品としての影が見えたもの。
布のつまったかわいらしいそれはまさしくあまりに奇妙だった。
「なんだこれ……特別な職人が作った一点ものなのか?」
「聞いて驚けよ……まるで同じ型に嵌めて作られたように同じものがいくつも並び、さらに種類も豊富だった。値段も驚くほど安い。隣の金持ちが30個買っていたが、気持ちはわかる。これを同じ部屋に並べておくだけで、どれだけのやつを威圧できるかわかったもんじゃない」
「ウソだろ!? 規格がバラつかないはずがない、こんなに精巧な作りをしているんだぞ、1体作製にどれほどの費用がかかるかも算出出来そうにないのに……」
もちろん細かくみれば違いはある。
しかし規格がバラつくというのはそういう段階ではない。
間違い探しでやっとわかるクオリティーのことではなく量産ゆえの粗悪さのことを指す。
「なんということだ……アノニマルースでの再現は?」
「難しいだろう。もちろん、1つ作るだけなら、バラして技術を盗めばいいが」
「量産、しかも規格統一で種類も多く……生産ラインを作るのは困難だろうな」
「やはり、異世界案件だと思うか?」
オー案件。
それは別の世界から来た技術と能力ということである。
大半のことは別にこの世界が勝手に取得し自浄し組み込まれる。
しかしその前に存在したら。
浮いた技術と能力はたまたま誰かが気づくまでこうして世界のどこかで眠っている。
それがいいことか悪いことかは開いてみるまでわからない。
異世界案件とは異世界人……つまり地球などの他惑星の民が関わっている可能性の示唆だ。
ちなみに盛り上がるからつけているだけで見つけ次第破壊しろとかそういうのはまったくない。
ただアノニマルースに取り入れられないかというのは悩むが。
そして3匹はめざとくぬいぐるみという『概念』の発見にとても喜んでいた。
「異世界案件だとしたら、これはアツいな。ここの料理は、少し悩むところだが」
「ああ、アノニマルースでも出来るものは多いし、そもそも大陸違いだから珍しく感じるだけかもしれん」
「それにしてもこの人形……中に爆発性の魔法を込めて、対象に贈ったら何もわからずに爆殺ができそうだな……高火力炎上系にすれば証拠も残らないし」
「お前最悪だな」
「言っていいことと悪いことがあるだろ」
「ご、ごめん」
同好会はキュートな技術の悪用は許さないのだった。
私達は中央から離れ休憩場のような空間に来ていた。
R.A.C.2は広く人々が行き交っても平気なようになっている。
当然休むためのスペースもあるわけだ。
昼間から酒を飲むわけもなく私達はドリンク片手に各々雇った相手と向き合っていた。
「――なのだから、わたくしめの制御下においてあるんですよ」
「ということは、水流の流れを自分の血液に見立てているってことなの? なるほど、確かに原理上魔法は自身の体内のことは扱いやすいけれど……」
「ええ、そうなんですよ! だから現象としては魔法なんですけれど、実際は一時的に水そのものを魔導具と化しています。あ、そうだこれを使ってやってみますね」
ユナは手元の飲みかけドリンクに対して魔力干渉していく。
間近でにおいをかぐことでわかることもある。
例えば今ドリンクの中にユナの魔力が込められて変質していく様とか。
見た目と違いこの魔力を魔力のまま動かすというのはわりかし難しい。
1つめは行動力を魔力として抽出すること。
そして2つめに体内の端に動かすこと。
さらに3つめで体外に出してから……
4つめで対象に纏わせる。
さらに5つめで物質の構造に入り込みなじませる。
そして6つ目に構造の一時的な変質化と固着による変質なのだから。




